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松尾豊東大教授とAI対談ー日経クロストレンド 石角友愛×松尾豊東大教授対談連載 第9回「新設「デジタル庁」は課題山積? IDの統一をどう進めるかがカギ」

2020/11/17 メディア掲載実績, 日経クロストレンド 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

新設「デジタル庁」は課題山積? IDの統一をどう進めるかがカギ

日本政府が検討しているデジタル庁の創設が話題になっている。新庁への期待感や課題、さらには新政権の印象について、米シリコンバレーを拠点に企業のAI(人工知能)活用・導入を支援するパロアルトインサイトの石角友愛CEO (最高経営責任者)と、ディープラーニング分野で日本をリードする東京大学大学院 工学系研究科の松尾豊教授が議論する。

石角 日本で話題になっているデジタル庁ですが、各省庁にある関連組織を一元化し司令塔機能を持たせるとのことです。最初に何に取り組むべきだとお考えですか?

松尾 直接話を聞いているわけではありませんが、政府が最初に取り組もうとしているのが、省庁間のシステムの統一だと思います。現在、省庁ごとにシステムが違うので、バラバラで横断的につながっていません。その背景には、各省庁がそれぞれ指定のシステム業者を抱えており、調達先の統一化が図れない弊害があります。まさにそこをまず一本化していかないと先は進まないです。

石角 システムの調達先の統一化がまず必要だということですね。

松尾 そうですね。分かりやすいところでは、各省庁の入退館の方法もバラバラです。ある省は、カードに所属や名前などを書かせたり、別の省では入館番号を事前にメールで知らせていただいて、その番号を伝えるだけでよかったりするところもあります。ある人がどの省庁に出入りしたのかというような横断的な把握はほぼ不可能です。こうしたこと一つ取っても、システムやデータが統一されていないのですが、当然、ある手続きをしたい人や要望を持った人は他にも関係する省庁がありますから、うまく全省庁のシステムを統一していけば、利用者にとっても把握する側にとっても分かりやすい仕組みになっていくかと思います。

石角 なるほど。システムを統一化することで、データを一元化していくということは、良いことですね。

松尾 そうです。まずは各府省庁のシステムの一括調達を進めてデータ様式を統一していくことから着手し、コロナ禍で露呈したような行政手続きの遅さや連携不足などを解消していくことは、とても良い初手だと考えます。

石角 「統一化」と口で言うのは簡単ですが、統一しないといけないデータがあまりにも多すぎて実際に着手となると大変な作業です。ですから、最初は対象となる省庁やグループ、ユースケースを絞るなどと細分化してプロジェクト化すべきだと思います。

松尾 確かに大変そうですよね。まずは全てにIDをふらないといけないでしょう。省庁ごとに事業者IDや申請者IDといったものが全部バラバラになっているのだとしたら、それらを法人番号やマイナンバーに紐付けるようなこともやるのかもしれません。膨大な作業です。

石角 ここで指揮を執るのは、当然デジタル庁の役割だとは思いますが、各省庁の協力なしでは実現できませんよね。霞が関の役人を動かすのは至難の業でしょう。

松尾 役人を動かすのは大変でしょうね。おそらく平井大臣ご自身が指揮を執るのかもしれませんが、民間企業からITに詳しい人物を連れてくる方が有効かもしれません。例えば、Yahoo!の元社長・宮坂学さんが東京都の副知事となりました。現在、東京都のデジタル化などにも取り組まれています。IT系、ネット系の人材の活用は不可欠だと思います。

石角 平井大臣のアドバイザーとしてですか?

松尾 アドバイザーというよりも、実際のCOO(最高執行責任者)的なポジションで。詳しく分かっているわけではないですが、おそらくデジタル庁長官というのができるのだと思います。

石角 平井さんとは別の人物が現場の指揮を執られるということでしょうか?

松尾 よくわかりません。別の方が指揮をとるにしても、もちろん担当大臣のもとでということだと思いますが。

石角 松尾先生はいかがですか?

松尾 いえいえ(苦笑)。僕ではなくて、実際、ITがよく分かっていて組織を動かせる人が理想でしょう。

デジタル国家のエストニアやシンガポール、IDなどで行政手続きもスムーズに

石角 各府省庁のシステムの一括調達を進めてデータ様式を統一化した後は・・・行政手続き全般を迅速にして、地方自治体や行政機関の間でもスムーズにデータをやり取りしていく。そして予算要求も一元化していく予定だそうですが。

松尾 基本IDさえ統一できれば、APIで連携すればいろんなことが簡単にできるようになると思います。たぶんそこが一番大変です。

石角 IDの統一はかなり大変そうです。誰かがすごく地味な作業をやらないといけないですし。

松尾 IDの統一化をする際は、どこをマスターにするかが重要です。デジタル化が進んでいるエストニアを昨年訪問したのですが、住所変更をするときに1カ所だけに「住所変更しました」と申請して更新すれば、全ての「住所情報」が変更されるんですよ。例えば、僕の運転免許証の住所欄などは、僕の住民票の住所を参照しているので、元データを変えれば、連動して変わるわけです。銀行口座の登録した住所も保険の住所も全て変わります。この「全てのシステムがきちんとマスターを参照しよう」というのは、データベースの考え方としては当たり前ですが、それを政府レベルできちんとやっていることに感動しました。

石角 すごく便利ですね。

松尾 しかもですね。ある人が病院に行ったときに、その人が病院に来たことは病院のレコードから分かります。例えば、出産したら病院側が出産したと入れるので、そうするとFBのnotificationみたいに個人のページに「congratulations!」というのが出てくるんです。そして、必要な手続き内容や支援の案内などもプッシュ通知でくるんですよね。

石角 超デジタルですね! エストニアだけではなくシンガポールも、デジタル国家として有名です。シンガポールは「World Economic Forum」でナンバーワンに選ばれたデジタル国家でもあります。両国のデジタル化が進んだ背景として、国自体が比較的に小規模ということと、トップダウンで動きやすいということがあるのかもしれません。

シンガポールに関しては、かなり前から元首相がビジョンとして国家戦略として IT化を差別化戦略として挙げていました。まさしくエストニアで挙げた例と同じように、国民はそのポータルのIDさえ持っていれば様々な行政手続きができるようです。90%の国民がサービスに満足しているとのことで、パスワードも一つなので、横断的に国民が使えて便利です。結果的に何が起きたかというと、登記などもオンラインで全部できるようになって、スタートアップ国家として注目されて外国人投資家や起業家が集まってきたんです。今は、ビジネスが立ち上げやすい国家として常に上位になっています。

シンガポールがデジタル国家として成功した一つの理由に、数学やプログラミングに対して造詣の深いリー・シェンロン首相ご自身が人に丸投げすることなく、トップとしてデジタル化を推し進めていったことが挙げられています。つまり、シンガポールに関しては首相直下でデジタル化が進んでいったのです。

そうすると日本はどのような体制でデジタル化を進めていくのか。デジタル庁が全部責任を持ってやるのか。首相官邸がイニシアティブを執るのか。実行部隊はどこになるのか。他の大臣との連携なども含めてそこら辺のバランスも重要となってきそうですね。

菅政権下のデジタル化とは? マイナンバーカードの普及促進となるか

石角 まずはIDの統一化などが大事なステップではあるのですが、具体的なビジョンを持つことも大事だと思います。シンガポールの場合は、デジタル国家として他国と差別化を図ることで、外国資本が流入してスタートアップが大きくなるというビジョンがあったらからこそ、成功したのだと考えます。日本もデジタル化に取り組む際に、他国の事例を参考にしながらどう差別化していくかというのを考えるいい機会にきていると思いますね。

松尾 確かにビジョンを持つこと、差別化することは大切です。僕は実はかなり楽観視しており、デジタル庁創設を打ち出した菅政権に期待しています。

石角 そうなんですね。どうしてですか?

松尾 菅首相は、安倍政権では官房長官として長年仕えてきました。傍らで政策などを見ていて「もし自分がやるならこうしたらいいのに」などと感覚的に思うところがたくさんあったのではないかと思います。ご自身がトップとなって、これまで溜まっていたやりたいことを一気にはき出したような印象です。デジタル庁をはじめ、地方銀行の再編や携帯電話の利用料の値下げ、新婚世帯に対する60万円補助、不妊治療の保険適用など・・・とても筋のいい政策を打ち出していると、個人的には感じます。

石角 とても具体性がありますよね。

松尾 例えば少子化対策に対しての新婚世帯への補助や不妊治療の援助は、経済的にインセンティブを働かせることでROI的(投資対効果)にはプラスに決まっているという、どう考えてもやったほうがよいことですから、1個1個の政策に納得感があります。どこを動かせばどこが動くのかよく考えていて、本当に重要なところだけを打ち出しているという印象ですね。デジタル庁に関しても、平井大臣の計画よりももっと前倒しで進めるように支持したそうで、この世界はスピード感がとても大事ですから良いことだと思います。

石角 確かに動きが早いです。デジタル庁は年内に準備を終えて、来年から動くんですよね。

松尾 動きは早いと思います。例えば、デジタル化を進める手段としてマイナンバーカードを挙げています。マイナンバーカードの普及促進に向けて、運転免許証との統合を目指すといいます。これも納得感のある施策です。いま日本では現実的に、身分証明は運転免許証や健康保険証ですから、これと紐付けない限りは、いくらマイナンバーを使えと言われても必要性を感じませんよね。国交省の赤羽大臣が菅首相から「運転免許証をデジタル化しろ」と言われたという報道を聞いて、ポイントをついているなぁと思いました。

石角 運転免許証のデジタル化といいますが、アメリカもいまだに運転免許証はカードです。アメリカの場合も、運転免許証とソーシャルセキュリティナンバーとは全く別物ですね。免許証は州ごとに管理されているので、例えば、州外の引っ越しになると運転免許証を取り直さなければいけません。

松尾 ただ、アメリカのソーシャルセキュリティナンバーは稼働しているからいいですよね。日本の場合は、マイナンバー自体がほぼ稼働していなくて、しかも細かく見ると仕様や中身にいろいろと問題があります。軌道修正は大変だと思います。

石角 マイナンバーカードは、そもそも日本国民の普及率が低いですよね。全国での普及率が2割弱だということですが。

松尾 そうです。パスワードがいくつもあって、手続きをしようとすると、さまざまなところで郵送が必要になるとか、冗談みたいなことがたくさんありますよね。

石角 郵送とかいちいち役所に行かないといけないとか、本当に面倒臭いですからね。

松尾 しかもデジタルなのに住所記入欄がいっぱいになったら再発行とか。サイボウズの青野さんのブログがわかりやすいですが、(https://note.com/yoshiaono/n/n4cd37820faf0)、とてもナンセンスです(苦笑)。

石角 マイナンバー普及率をどう上げるかというかなり大きな課題がありますね。

松尾 政治的な話であまり褒めてばかりいるのもどうかと思いますが、期待できることは、菅首相はめちゃくちゃ仕事人なんですよ。何回か僕はお会いしたことがあるのですが、土日もずっと仕事しているような方です。最近は有名になってきた話ですが、横浜に自宅をご購入されたらしいですが、その後すぐに官房長官になってしまって、自分の仕事を全うする覚悟で、一回もご自宅に帰ったことがないとか? しかもそのまま首相になってしまって、ご自宅にますます帰れないのでは。

菅首相は根っからの仕事人だからこそ、日本をよくするために・・・というある種の覚悟があると個人的に感じます。これまで安倍政権を支えながらも、デジタル化の必要性をヒシヒシと感じていたのではないでしょうか。

石角 やはり官房長官として、長い間やってきた経験があるからこそ覚悟というか、安倍政権との大きな違いを生んでいるのかもしれませんね。そういう意味では、デジタル庁も期待できます。

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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