天気の情報を提供するだけではない新たなサービスとは
パロアルトインサイトの石角です。天気予報を毎日欠かさずチェックしている方は、多いのではないでしょうか。「未来の天気をより正確に知りたい」というニーズは昔からあり、長年にわたって技術開発が進められてきました。
近年は天気予報においても、AIの活用が話題です。アメリカでは天気予報AIを使った斬新なサービスを提供する会社が現れ、注目を集めています。
シリコンバレーから現役データサイエンティストのインサイトをお届けする「The Insight」。今回取り上げるのは、天気予報AIを開発している3つの企業です。
💡 この記事から得られる3つのナレッジ
・ディープラーニングを活用した天気予報の手法
・52週間先の天気を予測する技術
・「天候保証」という斬新な保険サービス
📖 このテーマを選んだポイント
AI技術が身近なところで活用されている好例であり、ビジネス面でも興味深いテーマであるため。
📖 この記事に登場する技術キーワード
経済活動の多くが天候の影響を受けるため、私たちだけでなく企業や国家にとっても、天気予報は重要です。とくに近年では世界的な異常気象が増え続けており、経済的損失も大きくなっています。そのため、未来の天候を予測し、リスクに備える必要性が増しているのです。
こうした状況をビジネスチャンスと捉えて、天気予報AIを開発している企業があります。研究成果や新サービスを発表して話題となっている、以下の3社を紹介します。
従来の天気予報では、大気の動きを力学的に解析する手法が主流でした。しかし、これらの企業はいずれも、AIを使った独自の手法で天気予報に取り組んでいます。その使用技術や提供するサービスについて解説します。
まずはGoogleが発表した天気予報のAIモデルと、使用技術を紹介しましょう。
Googleは「ディープラーニング(Deep Learning)」を活用した天気予報AIの開発に注力しています。Googleが考えるディープラーニング技術の利点について、ブログ記事から引用すると以下の通りです。
Rather than incorporating explicit physical laws, deep learning models learn to predict weather patterns directly from observed data and are able to compute predictions faster than physics-based techniques. These approaches also have the potential to increase the frequency, scope, and accuracy of the predicted forecasts.
日本語訳:ディープラーニングモデルは、明示的な物理法則を取り入れるのではなく、観測データから直接気象パターンを予測することを学習し、物理ベースの手法よりも高速に予測計算を行うことを可能にします。また、これらのアプローチは天気予報の頻度、範囲、精度を高める可能性を持っています。
ディープラーニング技術は、2〜6時間程度の短期的な天気予報において、とくに有望視されています。Googleが発表したモデル「MetNet-2」には、以下の特徴があります。
MetNet-2は、12時間先までの天気予報に関して、高い精度を実現しました。従来は不可欠だと考えられていた力学的な解析をまったく行わずに、従来型の手法の最先端モデル「HREF」を上回る性能を示したのです。
なおディープラーニングについては、過去記事「“ディープラーニングのゴッドファザー”ことヒントン教授が生み出した次元削減」で詳しく解説しました。ぜひあわせてお読みください。
MetNet-2は「エンドツーエンド(end to end)」で処理を行います。エンドツーエンドのモデルでは、システムの「入力」と「出力」が直接結びつけられます。中間に人が処理を付け加えることはなく、ディープラーニングを行ったモデルにすべての計算を任せるのです。
モデルへの入力情報は、レーダー局や衛星ネットワークから自動的に供給され、人による「ラベル付け」は必要ありません。また、従来の天気予報で使われていた気象現象に関する物理法則を、コーディングで入力することも不要です。大量の気象情報を学習させることで、AIモデルはパターンを理解し、天気を予測する能力を獲得します。
予測は以下の手順で行われ、その過程を示したのが下図です。
(画像引用:https://ai.googleblog.com/2021/11/metnet-2-deep-learning-for-12-hour.html)
MetNet-2の開発にあたっては、エンドツーエンドの処理において、計算の複雑さとステップ数の両方を最小化することが目指されました。そうすることで、計算を効率化しつつ予測の精度を高めることが意図され、実際に成果として現れています。
次に天気予報のスタートアップ企業「Salient」を紹介します。
Salientのサービスの特徴は、「最大52週間先」という遠い未来の天気予報に対応していることです。予報は以下の3種類が提供されます。
(画像引用:https://www.salientpredictions.com/)
またSalientの天気予報は、一般消費者ではなく、企業を対象にしたサービスです。ただ単に天気予報の情報を渡すだけではなく、意思決定をサポートするツールを提供することで、顧客により大きな価値提供をしています。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
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