「次々と新しい技術が生まれるAI時代を生き抜くためには、4年に1度程度の学び直しが必要になる」。AIビジネスデザイナーの石角友愛さんはこう言います。では、どのようにすればいいのか。石角さんは求められる人材像と学び直しの方法に焦点を当てて『AI時代を生き抜くということ』(日経BP)という本にまとめました。書籍の一部を編集して紹介します。
1回目と2回目では、AI時代に求められる人材像「π型人材2.0」と、そこを目指して自分のスキルを増やしていく「LEARN+Aステップ」を解説しました。3回目からは自分の保有しているスキルを可視化して把握するE(Evaluate)のステップの解説。4回目に続いて今回も具体的なケースを見ていきます。
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続いて、企業のIT部門でシステムエンジニアとして働き、現在はフリーランスのITコンサルタントとして活躍するBさんについても、そのスキルを分解してみましょう。
Bさんは、長年にわたるIT業界での経験を生かし、とくにシステム開発やサイバーセキュリティー、AIを利用したシステム開発に関する知識を使って、中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援しています。
チャットGPTへのプロンプトはAさんのときと同様に、最初に「仕事における経験やスキルについてまとめたいと思います」と宣言し、その後、「役職」と「職歴」「条件」を入れます。
役職は「システムエンジニア」「プロジェクトリーダー」「部門マネジャー」など具体的ですから入力しやすいでしょう。職歴は簡単な履歴書を書く感覚で「大手IT企業にて10年勤める」「サイバーセキュリティー部門に移籍し、企業全体のセキュリティー強化を推進」「部門内のマネジャーとして、チームの業務効率を上げるための工程改善を行う」など、やってきたことを簡潔に並べれば大丈夫です。
その結果、以下のようになりました。
>仕事における経験やスキルについてまとめたいと思います。
#役職
・システムエンジニア
・プロジェクトリーダー
・部門マネジャー
・フリーランスITコンサルタント
#職歴
・大手IT企業にて10年勤める
・システム開発部門に所属し、複数のプロジェクトをリード
・ ユーザーインターフェース設計に専門を置き、数多くの新規開発に関わる
・ サイバーセキュリティー部門に移籍し、企業全体のセキュリティー強化を推進
・ 部門内のマネジャーとして、チームの業務効率を上げるための工程改善を行う
・AIを活用したセキュリティーシステムの開発プロジェクトをけん引
・ 国内外のセキュリティーカンファレンスに参加し、最新の情報をキャッチアップ
・フリーランスとしてITコンサルタント活動を行う
・中小企業のデジタルトランスフォーメーションを支援
#条件
役職や職歴から得られた具体的なスキルをMECEに因数分解して出力してください。
. マネジメントスキル
プロジェクトマネジメント
・プロジェクト計画:スコープ、コスト、時間の管理
・リスク管理:リスクの識別と対策
チームマネジメント
・チームビルディング:コミュニケーションと協力を促進
・ パフォーマンス評価:メンバーのパフォーマンス管理と改善
外部関係者とのコミュニケーション
・ネットワーキング:関係者との関係構築と維持
・情報収集:最新の業界情報の収集と分析
3. コンサルティングスキル
ITコンサルタントとしての経験
・IT戦略策定:IT戦略の策定と実行
・ デジタルトランスフォーメーション:ビジネスプロセスのデジタル化支援
・ビジネス要件分析:顧客のビジネス要件の理解と解決策の提案
この結果を基に、Aさんの場合と同じくチャットGPTにマーメイド記法のコードブロックを出力するよう指示します。そして、マーメイド記法に対応したビューワーで図表化すると、図4 -6のようなスキルセットツリーマップが出力されました。
前述のようにBさんは元エンジニアで、現在はフリーランスでITコンサルタントをしています。スキルセットツリーマップを見ると、ドメインスキルに「システム開発」「AI技術」「サイバーセキュリティー」といった具体的な技術的スキルが示されました。また、ITコンサルティングという職歴から導き出されるドメインスキルとして、「IT戦略策定」や「デジタルトランスフォーメーション」、クライアントのニーズを聞き出して要件定義などを行う「ビジネス要件分析」などが挙げられています。
チャットGPTの出力結果を見ると、システムエンジニアという職歴に基づくドメインスキル、そしてサブドメインスキルを提示するのは得意なように思われます。しかしその半面、ITコンサルティングという幅広いスキルセットが求められる職歴に対しては、ドメインスキルやサブドメインスキルへの細分化作業は、それほど得意ではない印象を持たれるかもしれません。
実際にITコンサルタントという仕事は、システムエンジニアよりも抽象的で多義的な名称といえます。そのため、ドメインスキルの定義が難しいのは、納得がいくところかと思います。チャットGPTの出力結果を見ても、「コンサルティング」という単語に基づいた「ビジネス要件分析」と、「IT」という単語に基づいた「デジタルトランスフォーメーション」、さらに両方の単語から導き出したような「IT戦略策定」などを挙げており、他にもさまざまなドメインスキルを考え得る余地があるのがうかがえます。一方で、「中小企業支援」というキーワードに反応がなかったのも興味深いですね。
例えば、フリーランスでITコンサルタントとして活躍したい場合、次のようなドメインスキルも必要となるでしょう。
このように、チャットGPTの出力結果をうのみにせず、どこが比較的網羅されていて、どこが網羅されていないかといったことを総合的に考慮しながら、自分のスキルセットの棚卸しをするのがコツです。
(『AI時代を生き抜くということ』第4章 リスキリングステップ② 『E』(Evaluate)ドメインスキルを評価する より再構成)
https://reskill.nikkei.com/article/DGXZQOLM139J2013062024000000/
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事及び東京都AI戦略会議 専門家委員メンバーに就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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