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パロアルトインサイト/ PALO ALTO INSIGHT, LLC.

「らしさ」を活かす、
LINE AI の向かう先2020/08/04

LINE株式会社
AIカンパニーCEO
砂金信一郎
パロアルトインサイト
CEO・AIビジネスデザイナー
石角友愛
パロアルトインサイト/PALO ALTO INSIGHT, LLC. > 対談 > 「らしさ」を活かす、
LINE AI の向かう先
LINE株式会社
AIカンパニーCEO
砂金信一郎
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パロアルトインサイト
CEO・AIビジネスデザイナー
石角友愛

日本流AIを“デザイン”せよ。余白だらけの市場をLINEはどう染めるか

AIをビジネスにどう活用するか──。これは今後、ほぼすべての企業が直面する課題だ。しかし、いまだAI活用に対する誤解も多く、導入がうまくいっているケースばかりではない。

AI導入のポイントは何か。2020年を「AI実用化の年」と定め、急ピッチで事例創出に取り組むLINE AIカンパニーCEO砂金信一郎氏と、シリコンバレーを拠点に日本企業のAI支援に取り組むパロアルトインサイト石角友愛氏の対話から、AI活用への正しい道筋を示す。

暮らしに溶け込む「AIの価値」

──石角さんが著書のなかで“now or never”という言葉を使われていたように、「AIをビジネスに活用せよ」という時代の流れが来ています。しかし、社会にAIが浸透しているかというと、まだまだこれからのように感じます。

石角:実は、私たちはすでにたくさんのAIと暮らしています。AmazonやNetflixのレコメンド機能のように、みなさんが普段触れているサービスには当たり前のようにAIが入っているし、日々精度も上がっている。

しかし、LINEも含めAIをうまく使いこなしているプロダクトはあまりにシームレスなUXゆえに、ユーザー側は「AIを活用している」と意識していない。

実際、面接に来た方に、「普段使っているアプリやサービスの好きなAI機能はありますか?」と聞いても、意外と具体的な答えが返ってこないんですね。

AIや機械学習とは何か、プロダクトとは何かという視点は、一般的ではないのだなと実感します。

砂金:石角さんのところに来るような方でもそうなんですね。

私は前職でクラウド事業に携わっていましたが、AIを取り巻く状況は、クラウドの黎明期にもすごく近いと感じています。

AIが搭載された万能なロボットやドラえもんの世界観が象徴的ですが、日本では、AIやクラウドというキーワードを聞くと、「タンジブル(有形)なもの」を連想する方が多い。

しかし、石角さんがおっしゃるように、すぐれた技術やサービスほど姿かたちが見えず、私たちの暮らしに溶け込んでいます。

例えば、じっくり煮込んだカレーって野菜とか肉とか具材が全部ルーに溶け込んでるじゃないですか。

にもかかわらず、導入先の企業の方からは「具材がゴロゴロ入ってないから、わかりにくい」「(LINEの)AI技術のすごさを見せてくれ」と言われてしまう(苦笑)。

そうではなく、「ユーザーがそれをAIと意識せずに使えることが本当は重要なんですよ」と目線を合わせて、納得してもらうこと。

「かたちがないもの」の価値を理解してもらうって、けっこう馬力がかかります。

LINEだからこそできる「信頼」の作り方

石角:よくわかります。「LINEのAI」とひと言でいっても、AIアシスタント「CLOVA」やチャットボット、音声自動応対「LINE AiCall」、LINEショッピングの画像認識など、本当に幅広いですね。

砂金:AIはLINEの中でも、最重点領域です。

これまで「LINE BRAIN」として企業向けの総合的なAIサービスを提供していましたが、改めてLINEのAI事業の総称を「LINE CLOVA」とリブランディングし、今、まさに統合を進めているところです。

私たちはビジネスを、2ステップで考えています。

1段階目は、ユーザーの行動データに触れないもの。音声認識や音声合成、画像認識など、トレーニングデータさえあれば精度を出せるプロダクトからまず届けていく。

利用規約に記載があったとしても、自分のデータが使われることに対して、ユーザーが気味の悪さを感じる可能性があります。そのため、個人データに触れる領域は次のステップと位置づけています。

石角:アメリカでも、ビッグデータ活用に対する反発はどんどん強くなっています。

CCPAが施行されてから、カリフォルニア州で事業を行う企業には“Do Not Sell My Information”が義務付けられている。

「トラスト(信用)」は、今後のAIビジネスを左右する重要なキーワードです。

LINEとしても、ユーザーのトラストを勝ち取り、その上で、将来的にはユーザーデータの活用に広げていきたい考えですか。

砂金:基本はそうですね。

ただトラストとして示すもの、そこに至るプロセス作りの考え方が、グローバルなジャイアント企業が目指す“信頼”とは違うのかなとも思います。

彼らが提示する「清廉潔白さ」や「圧倒的な技術力」を土台とした信頼に対し、LINEの場合はto Cサービスで培ったユーザーとの心の距離の近さや、「便利だから」「かわいいから」というプロセスで信頼が生まれている。

石角:おもしろい。とても日本的な気がします。「かわいいから信頼する」なんてアメリカではきっと生まれない発想。

ローカライゼーションにチャンスがある

砂金:AI事業のおもしろさは、国や地域の文化、言語的な特性が出やすいソリューション領域だという点にありますよね。

Kaggle(企業や研究者がデータを投稿し、世界中の統計家やデータ分析家がその最適モデルを競い合うプラットフォーム)のように、アルゴリズムなどの技術的素材は地球規模であっても、手持ちのデータやユーザーとの関係、法規制などの状況に応じて、アレンジしていく必要がある。

AI領域では、グローバルジャイアントが先行してやってきたから、「全世界共通のソリューションでいいよね」とはならないと思うんです。

後発ながら日本国内だけでも8400万人が利用するLINEアプリがそうだったように、それぞれの国や地域ごとで社会に馴染むソリューションにまだまだチャンスがある。

石角:とくに音声認識、自然言語処理の世界では、LINEが持つ膨大な日本語の学習データと、それを活かしたソリューションが非常に価値を生み出すと思います。

音声領域では、日本語ならではの曖昧表現をどう捉えるかなど課題は多い。

これまでローカライゼーションが軽視されていたところに、間違いなくビジネスの光明がある。

LINEは、ビッグデータを持つプラットフォームでありながら、消費者側に立っているという、絶妙な立ち位置にいる点も興味深いですよね。

取材はZoomで日本とシリコンバレーと日本をつないで実施した。

AIと企業をつなぐ「AIビジネスデザイナー」の役割

砂金:ただ、日本企業のAI導入にはまだまだ課題が多いのも現実です。

石角:企業の中にエンジニアがいないという、日本の構造的な問題の影響が大きいと思います。

企業の経営層が「データを活用しよう」「AI導入はどうしよう」と相談できる相手が身近にいない。

砂金:加えて、経営陣がAI導入の“投資対効果”を誤解している側面もある。

石角:たしかにAI導入の本質的価値は、目先のROIを見て「2〜3人分の業務削減につながりました」というものではなく、人のマインドセットが180度変わる波及効果の大きさにこそある。

砂金:そう、すぐに「売り上げが2倍になって、人件費が半分になりました」みたいなことってあり得ないわけです。

とはいえ、企業側にそうした意識や理解が足りない状態で、どうコミュニケーションを取っていくか。

石角:私たちが「AIビジネスデザイナー」と呼んでいるポジションが、まさにそのギャップを埋める役割を果たすと思います。

経営層に歩み寄り、企業の経営課題をAIに落とし込む人ですね。そして、それをエンジニアやデータサイエンティストとつないでいく。

「ナラティブ」な物語が納得感を生む

石角:でも、この役割も知識があるだけじゃダメなんです。

泥臭いんですよね、AI開発って。その泥臭さを、「自分を主語」にして語れる人が、クライアントにも納得感のある着地点を提供できると思うんです。

砂金:泥臭いし、格好悪いですよね。日々、アノテーション(機械学習のモデルに学習させるための正解データを作成する作業)つらいわ、と(笑)。

石角:地味ですよね。

私は、クライアントにはアノテーションも実際に手を動かしてやってもらいます。「私もGoogle時代、朝から晩までやっていました。このプロセスを通らずに、AIで成功した人はいないんですよ」と。

AI導入は、データ収集、データラベリング、環境整備、現場のシステム統合など、企業側の協力なしでは絶対にうまくいきません。

クライアント企業と私たちの共同作業であるべきで、「これがほしい」と仕様書をもらって、納品したら「はい、おわり」ではない。

だからこそ、意思決定する経営層のコミットが本当に大事だし、ナラティブ(実体験の物語)でしか、人って学べないんです。

砂金:まさにLINEも今、AIビジネスデザイナーのような立ち位置で、技術的な知見も備えたコンサルタントを求めています。

プロダクトの強み、そして課題も理解した上で、企業の個々の課題解決に着地させていく人。最初は地味かもしれないですが、万能ではないリアルなAIを実社会で動かして、実効果につなげられる人。

あとは先ほども話しましたが、導入いただく企業からの理解と協力もしっかり獲得できる胆力のある方がいいですね。

LINEでも、スペシャリスト業務の細分化は進んでいますが、全体を広く見られる人がまだまだ少ない。広く見た上で、社内のスペシャリストも導入企業やパートナーなどの立場の人も、皆を同じ方向に巻き込んで進めることが求められます。

世の中的には、システムコンサルタントやプリセールスエンジニアなどさまざまな呼ばれ方をしているポジションだと思いますが、ここにやりがいを感じる方はけっこう多いはず。

日本企業には、「納品契約ではなく、イテレーション(アジャイル開発において、一連の工程を短期間で繰り返すこと)しながら改善した方がいいのに……」と悶々としている方がかなりいると思うので、ぜひLINEのAIでお客さんの課題解決をしましょうとお伝えしたいですね。

「日本×AI」は伸び代だらけ

石角:シリコンバレーを拠点にしながら、日本企業に対してAI開発やAI導入を進めていると、「なぜ、日本なの?」とよく聞かれます。市場規模で見れば、アメリカや中国が断然大きいですから。

でも、日本には伸び代があります。AIの導入率だけを見ても、北アメリカでは約40%が導入済みなのに対し、日本はわずか4.2%。

これを世界基準に引き上げることには大きな意義があるし、まだまだ未開拓な市場に自分たちが貢献できるって大きな喜びです。

砂金:シンプルに余白が多いところで働くって、楽しいですよね。

ビジネスでも技術の観点でも、85点のものを磨きこんで90点にするってすごく大変ですが、AIってみんなの期待値からすると、まだ25点にも及ばない。この点数をいかにスピード感をもって上げていくか。

石角:まさにそう。夢物語的なR&Dではなく、企業のビジネスに直結する課題解決のために、エンドユーザーと一緒にものを作っている感覚を日々得られるのもAIビジネスの醍醐味ですね。

砂金:LINEが扱う領域も企業やユーザーの方が喜ぶ顔を直接見られる、課題解決に貢献しやすいエリアだと思います。

企業の方と壁打ちをしながら、「この人たちは本当は何をしたいんだろうか。そのために僕たちに何ができるんだろうか」と、手段ありきではなくゼロベースから考えることが求められている。かつ、それがビジネスの価値に直接つながる仕事って、そう多くない。

アメリカや中国がこの分野をけん引するなかで、日本はまだ独自のポジションにいます。

日本文化や言語を深く理解できるからこそ、人々の生活にやさしく寄り添うLINEの強みを活かしたプロダクトを作れると思うんです。

勝算も、もちろんあります。だから、挑むんです。

LINEは今、AIビジネスに挑戦したい人にとって、最高の“遊び場”になると保証します。

(構成:田中瑠子 編集:樫本倫子 写真:依田純子、森カズシゲ デザイン:小鈴キリカ)

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