アメリカ最新AI情報満載!セミナーや講演情報など交えて毎週水曜配信 無料ニュースレター 下記へメールアドレスを入力し無料で登録
CLOSE
パロアルトインサイト/ PALO ALTO INSIGHT, LLC.

NTT Com流DXの実例から、DX推進のヒントを探る。2022/04/04

パロアルトインサイト
CEO・AIビジネスデザイナー
石角友愛
NTTコミュニケーションズ
デジタル改革推進部  DX戦略部門 担当部長
松本貴宏
パロアルトインサイト/PALO ALTO INSIGHT, LLC. > 対談 > NTT Com流DXの実例から、DX推進のヒントを探る。
パロアルトインサイト
CEO・AIビジネスデザイナー
石角友愛
X
NTTコミュニケーションズ
デジタル改革推進部  DX戦略部門 担当部長
松本貴宏

2018年に経済産業省が公開した「DXレポート」を契機に、日本企業でもDXに関する理解が少しずつ進んできている。だが、まだまだ障壁は多く、思うようにDXができている企業は少ない。そんな日本において、これからのDX推進はどうあるべきか?その答えに迫るべく、DXやAIに関する著書を出されている石角友愛氏とNTTコミュニケーションズ デジタル改革推進部でDX戦略を手掛ける松本貴宏が対談を行った。

<プロフィール> ※敬称略

石角 友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイト・CEO・AIビジネスデザイナー

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てシリコンバレーでAI開発企業パロアルトインサイトを起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)および東京大学工学部アドバイザリー・ボードを務る。また、毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」、ITメディア「石角友愛とめぐる、米国リテール最前線」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち、最新のIT業界に関する情報を発信している。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

松本 貴宏(まつもと・たかひろ)
NTTコミュニケーションズ デジタル改革推進部 DX戦略部門 担当部長

通信キャリア向けの営業、人事・育成、公共向けのSE、NTTドコモ、 Enterprise Cloud(現名称SDPFクラウド/サーバー)保守運用。2019年8月からNTT Com経営企画部に着任後、全社DX推進に従事。

DX推進を阻む3つの壁

司会:日本では2018年に経済産業省が「DXレポート」を公開し、DXブームが到来しました。実際にはコロナ禍が後押しした部分も大きいと思いますが、最近のDXやデータ利活用に関する社会や各社の動きを、どのように捉えられていますか?

石角:IPA(情報処理推進機構)の資料では、2019年の日本企業のAI導入率は4.2%でした。それが最新のDX白書2021によると、20.5%に増えています。アメリカ企業は44.2%ということで、まだ2倍以上の差があるものの、ここ1,2年で飛躍的にAI導入やその先にあるDXが浸透しているなと感じています。

司会:日本では「会社命令でDXを始めてみたが、うまくいかない」という声も聞かれます。アメリカを含めさまざまな企業でDX推進をされている中でよくある課題や、日本企業ならではの課題・進め方の特徴はありますか?

石角:アメリカとの大きな違いは「ICT人材がどこにいるか」ですね。アメリカの場合、エンジニアなどのICT人材の約65%が事業会社で勤務していますが、日本の場合70%以上がベンダー企業に勤務しているというデータがあります。ここから何が言えるかというと、DXを推進したいと考えている事業会社の方々、特に経営者の周りに、壁打ちをする相手がいないということです。CTOやCDOがいる会社ばかりではないため、不安や危機感を感じている会社が多いと思います。

私は「DX推進を阻む3つの壁」があると考えています。私の著書「いまこそ知りたいDX戦略」で詳しく紹介しているのですが、1つ目が「FOMOの壁」。取り残されたらどうしようと焦るばかりで、中身がないまま進めてしまうケースが見受けられます。第2が「POCの壁」。実証実験ばかり繰り返して、実際に事業化する道のりが描けないという壁です。第3が「イントレプレナーの壁」。イントレプレナーとは社内起業家を指します。課題設定はできていて、POCも行って、事業化しようとしたときに、データサイエンティストがいない、AIビジネスデザイナーがいない、あるいはどういう会社と組むのがいいのかわからない、というリソースの問題がイントレプレナーの壁です。

この3つはそれぞれ段階的に訪れますが、それを的確に越えていって初めて、DX推進ができると考えています。

松本:今石角さんがおっしゃった3つの壁ですと、POCの壁は特に弊社のお客さまから多く聞く課題ですし、イントレプレナーの壁も「リソース(社員)が足りない」という声がよく聞こえてきます。

※FOMO:Fear of Missing Out(取り残されることへの恐れ)
※POC:Proof of Concept(新しい概念や理論、原理、アイディアの実証を目的とした、試作開発の前段階における検証)

石角:さまざまな企業のDXを支援しているNTT Com社でも、自社DXを推進されていると思いますが、どんな目的を掲げて、どのように進めていますか。

松本:「ワークスタイル変革」「プロセス変革」「データドリブン」の実現に向けて、風土意識・ルール制度・ツール環境などを揃えながら推進してきております。その中で弊社としてもそうですし、お客さまにも共通して存在する壁がありました。これを弊社でも「3つの壁」と言っています。

まずは「組織の壁」。特に大きな会社になると、縦割りの組織になっていて、事業部ごとにそれぞれがいろいろなツールを使っており、統合されていない状態です。次に「システムの壁」。弊社では1,000個ほどのシステムが個別最適でつくられていて非効率な状況でした。さらに「データの壁」です。個別ルールでのデータ収集はもとより、データが散在していることや、そもそも自分がデータのオーナーだと自覚していないケースも多いです。

石角:具体的にその壁に対してどのように取り組まれてきたのでしょうか?

松本:まず「組織の壁」に対しては、全社DX推進体制を2019年2月に立ち上げたことを契機に、副社長がCDOを兼任、社内全組織に「デジタルオフィサー(DO)やDO補佐」という役職を配置いただきました。

また、2020年4月には大幅な全社の組織再編をしまして、ビジネス系の組織とサービス系の組織において、プロセスがより一気通貫で流れるようになりました。大胆に組織を変えることで、DX推進体制をつくってきたということが、具体的な組織の壁に対する取り組みになります。

次に「システムの壁」に対しては、サービスの単位でバラバラなプロセスであったところから、業務を平準化する。そうやってプロセスを整備した後に、刷新しきれない部分については「データハブ」の考え方で折り合いをつけながら、システム数を減らしていこうとしています。

最後に「データの壁」ですが、データ活用基盤を2021年度に完成させ、あらゆるデータをデータレイクに入れて、加工・整備して、コードの統一などをしながらマスターデータ化したり、カタログにしてデータマート化したりして、みんなが使えるダッシュボードにしていく取り組みを始めています。

遠回りに見えて近道になる「橋渡し役」の設置

司会:石角さんが提唱する3つの壁と、NTT Comの取り組みを照らし合わせて、他社に応用できそうな部分やご感想などがあればお聞かせいただけますでしょうか。

石角:NTT Com社ではITケイパビリティをお持ちだと思うので、できて当たり前と期待されてしまう部分があると思います。ですが、ケイパビリティがあるからといって、DXがDay1から上手くいくわけではないですよね。

例えば、マイクロソフトのDX事例を見ていると、苦労してトライアルを重ねて組織を抜本的に変え、DXを進めていっています。マイクロソフトほどの会社ですらそうなのですから、DXはそれぞれの会社に合った形でやっていかなければいけないと強く感じます。

また、今お話された中で、「組織の壁」、いわゆるセクショナリズムで事業部がサイロ化し、部分最適ばかりしていることに対しては、DXとかAI導入といったデジタライズに関係ない、各事業部に合意を取るというような非常に泥臭い作業が大事になってくるのだなと改めて認識しました。

そのためには松本さんがおっしゃっていた「デジタルオフィサー」のような、橋渡しの調整役を置くことが重要ですね。そういう方たちが、AI技術のビジネスにおける活用性と現場の両方を理解してトンネル工事をしていくことは、遠回りに見えて実は近道なのではないかなと思いました。

DXにおいてはコアとノンコアの見極めが最重要

松本:パロアルトインサイトさまがDX化に取り組まれている日本企業で参考になりそうな事例があれば、ぜひお伺いしたいです。

石角:物流会社の事例を紹介します。この会社ではトラックを500台ほど所有し、それぞれのトラックの届け先やその順番を考える「配車」を毎日人力で行っていました。配車担当者が1日3~4時間かけて配車割付をするという、非常に属人的なプロセスになっていたところに、我々がAIをつくりました。届け先、届け物の内容、運転手さんが変わっても、自動的に9割以上の割付をしてくれるAIを実装することで、配車担当者の作業が効率化しただけでなく、運転手さんとのコミュニケーションに時間を割けるようになりました。

この配車AIは当初、一部分の最適化でした。しかし、プロジェクトの成功結果を見た経営陣が「これは可能性がある」ということで、1つの事業部にとどまらない全体最適をするべく、「総合AI配車センター」という新しい組織を横串でつくり、年単位で動く大きなプロジェクトが発足しました。物流カンパニーから物流デジタルカンパニーとしてのDX推進を始めています。

松本:AIをきっかけにDXが推進されたのですね。

石角:はい。AIを使うことで、業務フローも変わりましたし、「トラックの積載量を満タンにする」というような今までのゴール設定そのものを見直すきっかけにもなっています。DXでは、意思決定プロセス自体を改善していくこともできるということです。

松本:自社が本気で注力すべきところに集中投資しよう、共通的なものは無理に開発せずまとめようということは実はNTTグループでもやろうとしています。例えば、共通系システムはNTTグループ全体で同じものを使いましょうというプロジェクトの推進役(Change Agent)を拝命しているのですが、日々現場の人からたくさん課題管理表をいただいている状況です。

石角:まず課題を出してくれるというのはありがたいですね。というのも、いろいろな会社のDX推進部といった横串組織の方と話すと、そもそも課題が出てこないとおっしゃるケースも多いのです。事業部からすると、社長直下のエリート組織に、突然「課題を教えてください」と来られても、「うちの事業部のことは我々よりわからないだろう」「課題が社長に筒抜けになるのでは」「課題を言ったところで直してくれるのか?」といういろいろな思いがあるのだと思います。

そういった点でも、先ほどおっしゃっていた「デジタルオフィサー」のような役割をつくることで、スムーズに課題の抽出が行えるような組織体制を構築することが大事だなと思います。その上で自前主義が行き過ぎても良くないし、逆にコアな事業のフローを市販のモデルに頼りきってしまうことにもリスクがあると思います。やはり、コアとノンコアで使い分けをするという見極めが大事だと思います。

これから伸びるDXの領域とは?

石角:着実に社内DXを推進し、DX認定事業者としての認定も取得されたということですが、NTT Com社では今後どのようにDXを展開していくのでしょうか?

松本:はい。昨年8月に経済産業省が定める「DX認定事業者」としての認定を取得しました。実際社内では、プロセス変革やワークスタイル変革の取り組みを進めていくことによって、デジタイゼーションではなくデジタライゼーションくらいの段階まで来ています。石角さんが定義されているDXの5つのステージで言うと、第3の部分的統合から第4の全社的統合のステージに移るような段階まで来ているのかなと考えています。

石角:全社的統合のところというと、もうあと一歩のところ。DX直前のステージですね。

松本:そうですね。これは社内のDXですが、最終ゴールは自社DXを超えて、お客さまへの提供というところまでつなげていきたいと思っています。

司会:これまでは業務プロセスやワークスタイルへの変革対応が主流だったDXですが、今後のどのような領域でのDXが増えてくるとお考えですか。

石角:確かに今までのDXのイメージは業務プロセスの変革や、効率化、省人化、自動化などRPAの延長線的なものだったと思います。簡単なところで言うと、チャットボットを導入してオペレーションの一部を簡素化して人件費を削減するといった、コストセンター側の効率化が今までだとしたら、今後はプロフィットセンター側のプロセス変革をしていく必要があるでしょう。例えば商品開発や、売上の多様化、顧客満足度の向上など、今までになかった付加価値をつくっていくためのDXです。

DXとは、恒常的にそういった変化を起こせる体制を持つことを意味します。ですので、データを常に取り込める体制をつくり、リアルタイムのデータを取り込みながら、AIをどんどん改善していくことが大事になります。そこからオペレーションもどんどん変えて、パーソナライズした商品を提供したり、今までにない商品を開発したりと、より顧客満足度を上げていく施策を打つ。これからはこういった0→1の領域でDXを活用し、企業価値を上げていくような動きが日本でも増えるのではないかと思います。

社員の“ハピネス”まで想像したDX推進を

司会:そのような未来を踏まえ、これからDX推進を行う企業の方々がまず取り組むべきことを教えてください。

石角:日本企業は、単純なITツール導入で満足せずにAIなどのツールと人間が協業できる業務フローをより積極的に構築していく必要があると思います。アメリカでは、今「AI経営」がすごく進んでいます。例えば不動産大手で、アルゴリズムが提示した価格に基づいて家を買い、簡易的なリノベーションをして少しだけ利益を出すような価格で売るという事業をしていた企業があります。ところが、アルゴリズムに依存しすぎていたため、不動産価格が急騰するというパンデミックの事態に対応できず、失敗してしまいました。

今後DXが推進される中では「AI経営」を改めて見直さなければいけないと思います。具体的には、AIが出力する値をどのようにモニタリングするのか、もしパンデミックのような不測の事態が起きたら人間がスイッチをオフにできるようなオプションや業務フロー体制があるのか。こういったところまで考えて推進していかないと、非常に表層的な変革になってしまいます。

また今後は、「DXからHX(ハピネストランスフォーメーション)へ」と言われる時代に入っていきます。社員の働き方にもDXが生かされていくことで、生産性が上がり、イノベーティブになり、幸福感も向上し、ひいては会社全体の価値が上がるというところまで期待しています。

松本:HX(ハピネストランスフォーメーション)は私自身も非常に共感できるポイントです。例えば、育休から復帰される方は今まで「キャリアアップはもう諦めようかな」と思っていたパターンが日本企業には多かったと思います。ただ、コロナとリモートワーク、働き方改革がつながってきて、幼稚園や保育園へのお迎えの間や夕飯をつくる間だけ離席して(分断勤務と呼びます)、戻ってきて1時間程度仕事をするといった働き方が浸透してきています。

このように時間を有効に使うことで成果が上がっていて、こういった方々がキャリアを再度志向いただく環境が整いつつあります。遅ればせながら日本も、生産性を上げるツールの導入だけではなく、社員一人ひとりのハピネスを考えられる会社になればいいなと思っています。DXと関係があるのかはわからないんですけれども。

石角:大いに関係ありますね。DXの目的を「効率化」や「平準化」にしてしまうと、いわゆる「人間らしさ」を見失いかねない。「何かと何かを掛け合わせて今までにない何かをつくる」といった人間らしい生産を促すには、そういうちょっとした余裕がある職場環境は大事だと思います。

松本:ありがとうございます。社内的にもこういった発信をしていきながら、先ほども申し上げたお客さまにまで染み出したDXを実現していきたいと思います。

BACK TO CROSS TALK INDEX
PAGE TOP