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松尾豊東大教授とAI対談ー日経クロストレンド 石角友愛×松尾豊東大教授対談連載 第10回「政府の委員会はもっと殺伐とすべし 日本のAI戦略に足りないモノ」

2020/11/17 メディア掲載実績, 日経クロストレンド 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

政府の委員会はもっと殺伐とすべし 日本のAI戦略に足りないモノ

2年前からAI(人工知能)国家に向けて「AIイニシアチブ」をスタートしている米国に対して、日本はようやくデジタル庁の創設で巻き返しをもくろむ。日本もギーク(おたく)を理解できるトップが増えてほしいと説く。パロアルトインサイトの石角友愛CEO (最高経営責任者)と、東京大学大学院工学系研究科・松尾豊教授の対談の後編。

<前編はこちら>

石角 デジタル庁創設に当たって、AIの活用も必ず入ってくると思っています。米国の場合、トランプ大統領が大統領令にサインをして「AIイニシアチブ」というのを2年前からスタートしました。国家としてAIを政府がどう導入するのかということを具体的に進めています。ホワイトハウスのCTO(最高技術責任者)が出した報告書を読んだところ、ものすごく具体的に省庁ごとの取り組みが書かれていました。

日本のデジタル庁もAIの活用というと、政府が単純に「AI人材が20万人足りない」などと言っている割にはAI活用がされていないと感じます。デジタル庁ができれば、ホワイトハウスのようAI活用をしないといけなくなるでしょう。そういったAIのイニシアチブがデジタル庁から生まれることを期待しています。

松尾 日本も人工知能技術戦略会議などがあるのですが、本音と建前のかい離が大きいですよね。AI戦略を一応つくることになっても、実際に実行するとなると骨抜きになっていることがほとんどです。言い方は悪いですが、ベンダーの利権になっている、あるいは大御所の権力拡大の場になっているといった印象です。そういったところを解消していくことができれば、おそらく日本として国がAI戦略をつくったときに、実際に稼働するようになってくるんじゃないかなと期待しています。

石角 日本はなぜ理念は掲げるけれども、実際は形骸化して中身が伴わないということが起きやすいのでしょうか?

松尾 難しい問いですが、それが仕事だと思っている感は否めません。私は「伝統芸能化」とよく言っているのですが、伝統芸能になると、もはや本来の目的や存在意義を考えなくなるんですよね。本当の伝統芸能の場合はそれが美しさになるのですが。

例えば、役所の各省庁・各課にしても、いかに省益を上げるか、自分の課の勢力を拡大するかということをやっていますが、それが良いことであると先輩から教えられ、その技を長年磨いてきています。そのために、本音と建前を違える「技術」もたくさんに磨いています。大学もそうだと思いますし、大企業でもそうかもしれません。そうした伝統芸能にたけている人ほど、「そういう場合はこういうふうにやればいいんだよ」と言うのが力の源泉になっていますよね。でもマクロにみれば、そんなことに大した意味はないし、本来の目的や存在意義に立ち返って、常に行動やルールを問い直すほうが大事ですよね。

石角 それは困りますね。それでは表面的な会話しか進まないですから、本当は誰もやりたがっていないということなのでしょうか? 困ったことです。

松尾 その辺がどう変わっていくかは期待ですね。平井大臣は、僕と同じ香川県出身の方ですが、もともとITが好きな方で、端からみると少し変わった印象を持たれる方もいるかもしれません。実直でいわゆる弁の立つような政治家という感じではないんですよ。でも、その平井大臣が担当になったというのも、専門性からすると正しい選択だと思います。

石角 菅政権の目玉政策の一つであるデジタル庁の大臣にふさわしい人を選ぶことが、とても大事になっていきますよね。過去にありましたが・・・ITを全く分かっていない人を選んでも政策は進みません。

松尾 日本の場合でも世界でも、コンピューターサイエンスをやっているような理系の人はギーク(おたく)が多いですね。人とのコミュニケーションを取るのが苦手だったり。逆に言えば、コミュニケーション能力が長けている人はコンピューターサイエンス向いていない方が多い印象はあります。ただ、海外だと理系でPh.D.(博士号)を持っていて、経営者や政治家として活躍されている人もたくさんいますよね。すごいですよね。

石角 いますね。経営者に多いですね。中でも、IT企業は特に。例えば、Googleの創業者ラリー・ペイジやセルゲイ・ブリン2人もPh.D.(博士号)です。Googleが大きくなるまでは、二人でやってきましたが、次のステージに行くとなったときに、エリック・シュミットを経営トップとして抜擢したじゃないですか。そういう自分の力が発揮できる会社の成長フェーズがよく分かっているというのが特徴です。かつそれをアドバイスしてくれるベンチャーキャピタリストが身近にいるんですよね。エリック・シュミットもエンジニアですが、彼が実現したことは、ラリーやセルゲイではできなかったようなエグゼクティブとしての経験がある人じゃないとできないことだったと感じます。ラリーたちはその自分たちの強みを分かっている、またアドバイスしてくれるネットワークがあったからこそ、Googleをさらに大きくできたのではないでしょうか。

またDropBoxも二人のエンジニアから始めた企業です。エンジニアのドリュー・ヒューストンがCEO(最高経営責任者)になって、CTO(最高技術責任者)は別のエンジニアがなりました。ドリュー自体はマネジメントに専念しないといけないですから、CTOは別のエンジニアに任せたのです。エンジニアといえども、経営者としてどこかで自分がやるべきことを見極めるということも必要なのだなと思います。

松尾 なるほど。アメリカの経営者というと、先日『一兆ドルコーチ』という、ビル・キャンベルに関する本を読みまして。彼自身も有能な経営者であり、シリコンバレーの数多くのリーダー達にとってのコーチでもあり、メンター的な存在だったようです。

石角 ラリー・ペイジもコーチを受けていますよね。

松尾 はい。スティーブ・ジョブズやエリック・シュミット、ジェフ・ベゾスなど数多くの企業のトップたちがコーチ受けてきたとのこと。読んでみると、ビルは結構本質的なことをズバズバ言う人だったようです。ギークの人がどう振る舞うべきか、世の中でどういう役割を果たせばいいのかといったことなどを心得ていた方で、シリコンバレーのリーダーたちが“師”と仰いだのもよく分かります。

石角 企業の成長には、ギークの存在が欠かせません。スティーブ・ジョブズもスティーブ・ウォズニアックがいなかったらAppleを作れなかったと思います。ウォズニアックはまさにギークな人ですが、エンジニアとしての腕は評価が高いです。スティーブの方はコミュニケーションが人の何十倍も長けていて、CEOとして活躍しました。

また私がGoogleにいたときには、毎週金曜日に開かれる社員のTGIFで元CEOのラリーが司会や進行役を担当。セルゲイは横からGoogleグラスを掛けて、楽しそうにしていました(笑)。今は、二人ともステップダウンしてしまいましたが、セルゲイはずっとGoogle Xをやっていて、当時は自動運転やGoogleグラスなどを開発していましたね。そういう発想豊かなところを強みにしていました。やはり、適材適所というか、それぞれの得意な分野を生かした人材配置というものが企業を成長させる一因となっていると感じます。

松尾 日本もそういうギークのことを理解できるトップが増えてほしいものですね。

石角 そう思います。少なくとも菅首相は、ご自身がギークではなくても、ギークの重要性を理解しているからこそデジタル庁をつくって平井大臣を抜擢したのだと思っています。人選のセンスがあるというのが大事なリーダーシップの特徴ではないでしょうか。民間企業も日本ですと理系文系の垣根がいまだに大きいです。いわゆる経済学部などの文系出身者がマネジメント職に就きやすい現状があります。まずは理系、文系という分け方自体を変える必要がありそうですね。

勝ち負けが嫌いな日本、真実をはっきりとさせることがデジタル化への第一歩

松尾 昨年、私の松尾研と一緒にやろうと声を掛けていただいた経済学部のゼミがあります。それで、初めてゼミの様子を見に行ったときのことです。学生たちが課題について調べてきてそれぞれ発表すると、先生がいろいろな意見をまとめながらディスカッションさせて最後はいい感じにまとめて終わるという・・・私たち理系の研究室とは全く違う形式だったので驚きました。理系の研究室ですと、先生対学生、1対1の感じで取り組み、多くの場合どちらかの意見が正しいかが明確に分かることが多いです。例えば、学生がなにか新しい手法を提案する研究をもってきたときに、先生が「ちゃんとサーベイしてないのでは。過去にはこういう研究もある」と指摘します。それに対して、学生が答えられなければ、学生の側がサーベイ不足で、乱暴に言うと「学生の負け」です。ところが、「それは読みましたが、こういう手法なので本研究とは違います。むしろ、最近では別のこういう研究が提案されており、それにはこういう問題がありまして、本研究のほうがよいと考えています」などと説明すれば、「お、おぅ、そうか」となって「学生の勝ち」ということになります。実験結果をもってきた場合でもそうです。「この結果は良い結果に見えるが、こういう可能性もあるのでは?」というような指摘に、答えられなければ負けだし、「その点に関しては他にも実験をしていてこうなので、その可能性はないと思います」と答えられれば勝ちなわけです。科学技術は、「真実」がありますから、そもそも意見が対立するときは、どちらかが正しくて、どちらかが間違っているというのが、基本的な態度になります。もちろん大変端折った説明の仕方ですが。

石角 理系の研究室では、基本的に先生と学生が1on1なんですね。

松尾 もちろんチームだったり、先生とではなく先輩とであったりというのはありますが、基本そうですね。だから結構、殺伐してしまうところがあります。学生からすると先生に報告することは怖いことで。一方で、優秀な学生は良いものは良いと分かりますから、どんどん成果を出していくような感じです。真実があり、結果が白黒はっきりしていますから、文系のゼミのように「話し合って論点を出し合ってみんなが満足するようにまとめて終わる」というようなことはないのです。理系の学生は文系のゼミをみたことがない場合が多いでしょうし、文系の学生は理系の研究室をみたことがない場合が多いでしょうから、実はこの差異はかなり大きいのですが、あまり気づかれてないのかもしれません。で、実は、経済学部のゼミを見たときにどこかで見た風景だなと思いました。それは、政府の委員会です。政府の委員会もいろんな人がいろんな意見を出し合うのですが、最後は「こういった論点もあるし、こういった論点もある。このあたりが大事だということはみんな共通していますね」などとうまくまとめてゼミと同様、よい塩梅で終わるということが求められていますよね。

石角 ありますね。Aさんの真実とBさんにとっての真実は違うのに、結局うまく帳尻を合わせてしまって、真実が見えてこないという・・・。

松尾 そういう意味では、科学技術のような意味での真実のない世界で議論を戦わせてまとめるというプロセスを文系学部の教育としてやっているんだなと思いました。結局、省庁の役人も東大の文系の方が多いですから、そういうものだと思ってきたのかもしれませんし、それが霞が関文化として根付いているのかもしれません。ところが、理系の場合、デジタル化において「IDは統一した方がいい」という意見は反論のしようがないわけです。もちろん、プライバシーの問題など別の要因でシステムをそもそもうまく動かないようにしようなどの目的がない限りは、ですが。「IDは統一しない方がいい」と反論する意見があったとしても、「それは間違っている」で終わります。

石角 文系学部のゼミ方式や委員会方式のやり方では結論が出ないということですね。確かにビジネススクールでも同様です。議論させてもそもそも正解がない。逆にコミュニケーションスキルや共感スキルなどは身に付くと思います。ただ、マネジメントスキルを身に付けるためには、異なる意見を持っている人をどう裁いていくかというところが大切だと思います。そう考えると、文系学部のゼミと理系の研究室ではかなり乖離があるということですね。

松尾 そうです。デジタル化の意思決定においては、ぜひゼミ方式ではなく、研究室方式のやり方を国でもう少し取り入れていった方がいいと思います。

石角 面白いですね。それはすごくいいと思います。効率的ですし。答えがズバリ出ますから。

松尾 ただ、殺伐としていますよ。「全然分かっていない」「もう一回調べてこい」なんて言われると肩を落としてしまいますから。

石角 研究室では、教授が絶対的なんでしょうか。

松尾 いえ、そんなことないです。教授が絶対的というわけではなく、どちらに真実があるかどうかです。教授も間違っていることがありますし、それは議論したり実験結果を見たりしたら分かります。優秀な若手は、教授の意見を軽々と超えていきます。みんな若いうちにそうして台頭してくるんですよね。。

石角 誰でもそのルールに乗っかって、勝ち負けがはっきり決まるという意味ではすごくフェアですね。

松尾 研究室では、ごちゃごちゃ言うんだけど、結果が出ない人は通用しないですよね。「結構言うわりにはダメ。真実を取ってこい」で終わります。ゼミや委員会に行くと、みんなベラベラしゃべっているだけで不思議です。

石角 確かに委員会などは大勢の人が来て席に着いて意見交換することが目的になっているように感じます。例えば、反論が出たとしても「それは私たちも十分分かっており、大事な課題だと認識しています」と締めくくって、平和に終わるという感じでしょうか。

松尾 従来の政治や経済の世界ではそうしたことでも良かったのかもしれませんが、デジタル化をしていかないといけない時代、IT人材・理系の人材がもっと活躍しないといけない時代には、考え方も少し変えたほうが良いのだと思います。

石角 そうですね。デジタル庁がそうならないように期待したいですね。

松尾 白黒はっきりさせて進めてほしいです。

石角 ある意味、省庁ごとに競争をさせても面白いかもしれないですよね。自然な形で競争する土壌をつくって、どの省庁のデジタル化指数が高いかどうか競い合うとか。省庁ごとに横断的な協力は必要ですが、それぞれが縦割りでデジタル化を実現していかないと進まないかと思います。

松尾 アクティブユーザー数を競わせるとか?(笑)

石角 それは面白いですね。いいかもしれませんね。松尾先生とお話しをしていたら、デジタル庁に対する期待感が膨らみました。

松尾 はい。しばらく期待してみましょう。

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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