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ITmedia ビジネスオンライン寄稿記事 掲載/石角友愛とめぐる、米国リテール最前線:「小さいものは淘汰される」 米国スーパーマーケット市場で進む“食の砂漠化”

2021/04/01 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

「小さいものは淘汰される」 米国スーパーマーケット市場で進む“食の砂漠化”

米国の独立系スーパーマーケットは厳しい状況に置かれている
提供:ゲッティイメージズ

米国のスーパーマーケット業界では、大手チェーンと独立系のパワーバランスが崩れ、さまざまな問題が起きています。

私が住むシリコンバレーでは、新型コロナウイルスの感染拡大中に近所の独立系スーパーマーケットにいくと、生活必需品であるトイレットペーパーやキッチンペーパー、ティッシュなどが大抵売り切れていました。またはトイレットペーパーロール一つで3ドルという価格設定に驚くこともありました。

需要過多になっているから仕方ないと思い、車で少し遠くまで足を伸ばして全米展開している大手チェーンのセイフウェイ(全米の小売業ランク10位)やウォルマート(同1位)まで行くと、トイレットペーパーが山積みになっていて救われた気持ちになったのを覚えています。

このように独立系スーパーマーケットと大手小売チェーンとの間で商品の供給力に差が生じてしまう背景には、独立系スーパーマーケットが不利な立場を強いられてしまう不公平な市場構造がある──という指摘が、National Grocers Association (NGA、全米小売協会)の会議で提出されました。協会員が連邦政府の議員に対して法改正の重要性を訴え、ニュースになりました。

NGAの発表によると、ビッグボックスリテーラー(大手小売チェーン)による反競争的購買力は独立系スーパーマーケットを不利な立場に追いやるだけではなく、消費者に対しても、より安い価格の商品を手に入れるために、距離があるにもかかわらず大手小売チェーンへの移動を迫るなどの悪影響を及ぼすことになりかねないといいます。

なお、NGAとは1600社以上の独立系スーパーマーケットを代表する組織で、加盟店舗数は全米で約9000店にのぼります。また、これらのスーパーマーケットとその卸売業者は、米国のコミュニティーでは重要な役割を果たしています。

そんなNGA会長兼CEOのグレッグ・フェラーラ氏は記者会見で次のような声明を発表しています。

「NGAの会員は、一部の大手小売チェーン店、通称『パワーバイヤー』による支配が拡大する市場での競争を強いられています。パワーバイヤーは莫大な経済力とそれに伴う市場への影響力を利用し、取引条件を自社に有利となるようコントロールしたり、サプライヤーから優先的に物資を仕入れるといった方法で市場を支配しています。これにより、独立系スーパーマーケットは不利な市場構造に追いやられ、苦境に立たされているのです」 

米国のスーパーマーケット業界はトップ4社が40%の売り上げを占める

2020年の米国のスーパーマーケットの売り上げ
出典:BizVibe

NGAの声明を理解するには米国のスーパーマーケット業界を理解する必要があります。以下の図は、2020年の米国のスーパーマーケットの売り上げを表したものです。

これによると、ウォルマートが約3410億ドル(日本円で37兆円以上)と、圧倒的な売り上げを誇っていることが分かります。

また、先述のNGAの発表によると、21年現在、消費者の生活品に対する消費の「4ドルのうち1ドルはウォルマートで行われている」ということです。このように、米国のスーパーマーケット市場は日本のように地域密着型の中規模スーパーが多く存在する市場とは少し異なる構成であることがお分かりいただけたでしょうか。

ウォルマートの立地戦略には特徴があります。ウォルマートは郊外エリアに集中的に展開して町の人々のワンストップショップ(医療、食品、ガーデニングなど何でもそろうお店)になっているイメージが強いですが、実は、都心部でのシェアも多いのが特徴です。

以下の画像はローカルな企業などを守るために技術支援を行うNPO団体(ILSR)が独自に行った調査の結果です。これによると、43の都心部と160の郊外都市でウォルマートが50%以上のマーケットシェアを占めています(約10%が都心部、約30%が郊外都市にあたります)。特に中南部の都心部でシェアが多いことも読み取れます。

43の都心部と160の郊外都市でウォルマートが50%以上のマーケットシェアを占めている
出典:ILSR

米国の中南部が抱える「食の砂漠」問題とは

ウォルマートやコストコのような大手チェーンが用いる販売戦略は、「規模の経済」による効率化されたサプライチェーンシステムとスケールを生かした強力な購買力に基づいています。これが、米国の「食の砂漠」と呼ばれる地域に住む人々に大きな影響を与えている、という意見があります。

米国農務省(USDA)によると食の砂漠とは「貧困率が20%以上、または世帯収入の中央値が都市部の世帯収入の中央値の80%を超えない地域」で、「都市部では、少なくとも500人または人口の33%が、最寄りの大型食料品店から1.6キロ以上離れた場所に住んでいること、農村地域では、少なくとも500人または人口の33%が、最寄りの大型食料品店から16キロ以上離れた場所に住んでいること」が条件と定義されています。

現在、米国では総人口の約7%にあたる約2350万人が食の砂漠に住んでいると考えられ、そのうちの約半数が貧困層との統計もあります。

食の砂漠では貧困に加えて失業率も高く、移動手段がない人が多いのが特徴です。同時に、健康的な食材(果物や野菜などの生鮮食品)を販売するスーパーが近くにないことも問題視されています。

これが何を意味するのかというと、家族経営の小さいスーパーの購買力では生鮮食品を安い価格で提供できないため、食の砂漠に住む人にとっては高すぎる価格設定となってしまい手が届きません。結果的に独立系スーパーが食の砂漠で生計をたてるのは難しくなり、淘汰されてしまう負の連鎖が生まれているということです。

また、ウォルマートなどの大手チェーンまで16キロも離れている場合、車を持たない人にとっては買い物が不可能になってしまいます。そこで、残された選択肢として、身近に手に入るファストフードなどを消費する機会が多くなってしまい、これが肥満や糖尿病などの病気のまん延を助長しているとも考えられています。

この食の砂漠問題について、NGAは次のように述べています。

「農村部や都心部では、スーパーマーケットにアクセスできない、いわゆる食の砂漠と呼ばれる地域があり、パンデミックが起こるずっと前から、独立系スーパーに不利な市場構造の影響を受けていました。つまり、大手の激安小売チェーン店が、市場での影響力を利用して低所得者層に合わせた商品の供給を独占的に確保してきたことで、一部の地域では独立系スーパーマーケットが淘汰され、そのような地域は、新鮮で健康的な商品を手に入れることができなくなる食の砂漠になってしまったのです」

またNGAは、連邦取引委員会、司法省、各州の検事総長に対し、食料品のパワーバイヤーとサプライヤー間の取り決めを調査するよう要求。「支配的な大手小売業者の市場優位性」が、価格設定や取引条件、商品供給の差をもたらし、独立系スーパーマーケットを不利な立場に追いやっていないかを、調査・判断するよう求めました。

ビッグテックの規制強化が小売業界にも影響を及ぼすか?

バイデン政権になりGAFAをはじめとする巨大IT企業に対するさまざまな規制強化が始まろうとしていますが、この波がリテール業界にも影響を及ぼすかもしれません。

NGA会長兼CEOのフェラーラ氏は、「議会と連邦政府が独占禁止法の原則を再確認し、全ての米国人が依存している業界(食品)との競争を回復できるようにする時が来た」と述べ 「独占禁止法は単なるビッグテックだけの問題ではない」と宣言しました。

パンデミックをきっかけに、より明確になった「大きいものはより大きくなり、小さいものは淘汰される」という米国のリテール業界の競争ルール。食の砂漠問題や独占禁止法の問題と共に議論がされるようになれば、業界の構図も少しずつ変化し始めるかもしれません。

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