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ITmedia ビジネスオンライン寄稿記事 掲載/石角友愛とめぐる、米国リテール最前線:【解説】ウォルマートのIoTは、何がすごいのか

2021/07/07 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

【解説】ウォルマートのIoTは、何がすごいのか

ウォルマート(提供:ゲッティイメージズ)

前回の記事では、ウォルマートのIT戦略について、データとAIの観点から紹介しました。今回は、同社がIoT(Internet of Things)に関してどのような投資や運用を行っているのかを見ていきます。

ウォルマートは、2020年のコロナ禍で業績を伸ばし続け、5590億ドル(約61兆円)の営業収益を上げました。IoTは、この大躍進を支えるものの一つです。同社はIoTにより、タイムリーな店舗機能の調整を行い、食品の品質を保ち、エネルギーの無駄な消費を抑えています。

ウォルマートのIoTシステムでは、毎日15億ものメッセージを取り込み、1TB以上のデータを分析できるそうです。また、同社が管理するIoTデータポイントの数は米国内の店舗で700万以上にものぼります。

テクノロジー担当ヴァイスプレシデントのSanjay Radhakrishnan氏は、インタビューで以下の通り「IoT戦略の3つの柱」を紹介しています。

(1)ウォルマートの大規模な店舗展開に合わせた、大規模なIoTにすること
(2)データがどこに流れ、どのような意思決定に使われるのかをコントロールすること
(3)消費者体験につながる形でIoTを導入すること

ウォルマートで活用しているIoTデバイスは、取引先のベンダーやOEMメーカーがそれぞれ作っており、さまざまなサプライチェーン上で導入されていました。そのため、各デバイスから収集されるデータがバラバラな形式で集まっており、データを正規化することが課題だったということです。

正規化とは、データの冗長性をなくしたり、統一形式に整形したりすることによって、データを扱いやすくすることです。ウォルマートはデータを収集したあとに正規化を行い、より迅速に意思決定に役立つ示唆に変換し、現場担当者などのエンドユーザーに届ける必要がありました。

私が以前、IoTデバイスを製造、開発している日本のメーカーから聞いた話によると、デバイスから集められるデータを使って、その上の解析レイヤーのサービスを提供したいと考えるデバイスメーカーは多くいるそうです。

なぜなら、より付加価値が高いサービスが顧客に提供できるからです。単にデバイスを販売するだけでなく、その後の使用環境に関するデータをデバイスから集め、機械学習モデルなどを搭載して、デバイスの異常値の検知や、故障予知などを実施したい、という考えです。しかし、ここでデータの正規化の課題にぶつかるデバイスメーカーが多いのもまた事実です。

デバイスから得られる情報は局地的、限定的なものが多いため、製造現場や工場では複数の異なるデバイスを設置してさまざまなデータを集めます。前述したウォルマートのSanjay Radhakrishnan氏の意見にあるように、その複数のデバイスから得られるデータをどのように統一し、解析できる形に整理、統合することができるか。それを解決し、仕組み化することこそが、IoTビジネスにおける競争優位性になっているとも言えます。

Sanjay Radhakrishnan氏は、ウォルマートの店舗内にある冷蔵庫に搭載している、IoTセンサーの仕組みについてこのように紹介しています。

「ウォルマートの店内にはたくさんの冷蔵庫がありますよね。実は、これらの冷蔵庫にはセンサーが設置されており、そのセンサーは店舗内のコントローラーと呼ばれるものに接続されています。そして、店舗の担当者はこれらのコントローラーにアクセスすることで、デバイスのテレメトリー信号(利用状況を示す信号)を引き出しています。われわれは、機器から得られる多くの操作機能を一貫した方法で連続的に得ることで、効果的なIoTの運用を行っているのです」

冷蔵庫にセンサーを付けることで、温度調節や適切なメンテナンスにつなげる(出所:「How Walmart Leverages IoT to Keep Your Ice Cream Frozen」

この、店舗内に設置されている「コントローラー」というシステムがあれば、例えばアイスクリームの冷蔵棚などに付いているセンサーから情報を吸い上げ、アイスクリームの品質が低下しないように温度調整を行えるといいます。加えて、冷蔵庫の性能に問題がないかどうかをリアルタイムで監視し、問題が予想される場合には故障する前に修理やメンテナンスを実行。故障したときに生じるダウンタイムなどの機会損失を、最小限に抑えられるとのことです。

また、受信した信号に追加情報が必要な場合は、そのことがクラウドアプリケーションを通じてメンテナンスチームに送信され、チームが問題をトリアージ(優先順位付け)して最適な行動を決定します。例えば、店員に指示を出して追加で調整を行ったり、IT接続の問題を修復したり、作業指示を出して技術者に現場で機器を見てもらったり、リモートで機器に変更を加えたりもできるのです。

コロナ初期にも活躍した、IoTによる設備調整

ウォルマートは、店舗内の冷暖房空調設備にもIoTを活用しています。空調に付けたIoTセンサーを使って素早くエネルギー消費の変化を検知し、顧客体験を損なうことなく温度調整を管理しているのです。

これを可能にするのが、デマンドレスポンスと呼ばれるシステムです。ウォルマートでは、このデマンドレスポンスによって、米国内のどの店舗でも、一定時間におけるエネルギー消費量を削減し、その後、機器を自動的に通常の動作基準に戻せます。

これは、米国内のどこでも、地域ごとや個々の店舗ごとに、エネルギー使用量を削減できることを意味しています。これにより、顧客体験を損なうことなくエネルギー消費を抑え、光熱費を削減できるとのことです。

また、デマンドレスポンスシステムは、コロナ流行時の営業時間が流動的に変化する中での空調やその他機器の調整にも大活躍しました。

コロナが流行した初期の段階では、従業員が在庫の補充や消毒を行う時間を確保するため、実質的には店舗の営業時間を一晩中調整し続けることが必要でした。この時、もし空調や冷蔵庫を現場で調整し、店舗ごとの機器のスケジューリングを手動で変更していたとしたら、それだけで数百時間を費やす必要があったと言われています。

しかしウォルマートでは、代わりにIoTを活用したデマンドレスポンスシステムを利用することで、複数の店舗や地域で同時に機器のスケジューリングを行い、時間の節約と経費の削減を実現しました。

イレギュラーな対応が必要だったコロナ禍初期も、IoTが活躍した(提供:ゲッティイメージズ)

今後、コロナによる規制が解除され、店舗の営業時間が地域ごとに調整されても、このシステムを活用して機器のスケジューリングを適宜変更できると言います。これは、営業時間が変化する度に手動で空調や機器の調整を行わなければいけない他の小売業者と比較すると、大きな優位性につながると考えられます。

デマンドレスポンスのような大規模システムを導入し経済的効果を得られるのも、展開店舗数が多く敷地が広いウォルマートのような企業だから、とも言えるのかもしれません。

ここまでウォルマートのIoTに関する取り組みや事例を紹介しましたが、単純にデバイスをつけてデータを収集する、というものではなく、収集したデータを解析しやすい形にまとめ、店舗ごとに「コントローラー」を設置し、データを参照する店舗マネジャーが管理しやすい形で運用していることが分かりました。

また、コロナ禍で営業時間の変更を余儀なくされたときも、各店舗のオペレーションに依存することなく、IoTを駆使したデマンドレスポンスシステムを使って地域全体の冷蔵機器の温度調節などを自動化したことでエネルギー消費や人件費削減をすることに成功しています。

このようにIoTデバイスを活用し、効率化などの業務改善を進めるためには、デバイスから得られるデータをどのように統一するか、統一されたデータを解析して、意思決定に役立つ情報(在庫補充や労働管理など)をどのように現場の人に届けるか、そして、現場担当者の行動に全面的に依存せず、IoTで管理と調整ができる部分(冷蔵庫の温度調整など)は積極的に自動化していくといった仕組み作りが重要なのです。

それをコロナの流行前から構想し、いち早く取り入れられたことこそが、ウォルマートのIoT戦略の大きな成功要因だと言えるでしょう。

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