先日、製造業で働く女性社員から「上司や幹部など、マネジメント層に女性が圧倒的に少ないため、自分自身のキャリア前進を考えると不安になる」という相談を受けた。実は、シリコンバレーのIT業界でもダイバーシティー(多様性)の問題は常に課題とされており、ここ10年ほどは男女比率をなるべく均等にするようにさまざまな施策や措置がとられてきた。
そのような中、最近、アップルから一つ興味深い人事関連のニュースが流れた。
社員として採用された「Chaos Monkeys」(邦題「サルたちの狂宴」)著者のアントニオ・ガルシア・マルティネス氏に対し、既存社員がすさまじい反発を見せ、彼の採用見直しを求める嘆願書が社内に出回って署名活動が起こった結果、その数時間後には解雇が決まったというものだ。
「サルたちの狂宴」という本は5年ほど前にシリコンバレーかいわいではやっていた。ウォール・ストリートからシリコンバレーに移り、フェイスブックのプロダクトマネジャーを務めるなど、輝かしいキャリアを歩んだ著者の自伝である。私も米国人の友人に薦められて読んだ記憶があるが、その本の中で著者のガルシア・マルティネス氏が女性蔑視の描写や表現をしていたことが今回、問題になった。
例えば、著書の中には「ベイエリア(サンフランシスコ湾岸地域)の女たちというのは、世慣れているふうなたわごとばかり言っている割には、もろくて、弱くて、お嬢さん育ちでナイーブで使い物にならないやつばかりだ」といった描写が見られる。
あるアップルの従業員は、このようなガルシア・マルティネス氏の女性蔑視的表現を「引用」して、「IT業界で働く上で、女性であることはとても疲れることです。なぜなら、性別だけを理由に、私のことを“もろくて、弱くて、たわごとばかり言っている”と思っているような男性たちと日々、対峙(たいじ)しなければいけないのですから」とツイートして注目を集めた。彼女はまた、「私が絶え間なく努力して成果を上げたのだと主張したところで、全く意味がないのです」とも述べている。
嘆願書にもこういった過去のガルシア・マルティネス氏の蔑視的発言がいくつも引用され、彼の女性や有色人種を蔑視する考え方に対する懸念が次のように示されている。
「ガルシア・マルティネス氏が自伝の中で行ってきた女性差別的な発言の数々は、インクルージョン(受容)&ダイバーシティーに対するアップルのコミットメントに真っ向から反するものです。私たちは、今回の採用が、アップルのインクルージョンの目標への取り組みや、彼の近くで働く人々に現実的かつ直接的な影響を与えうることを憂慮し、深く心を痛めています」(一部抜粋)
この嘆願書が技術系オンラインメディアの「The Verge」に掲載されるまでの間に、実に2000人以上の従業員が署名をしたそうだ。
なお、アップルはこのたびの解雇について「アップルは、誰もが尊重され、受け入れられる、包括的で居心地の良い職場を作ることに常に尽力してきました。人を卑下したり差別したりする行為は、ここには存在しません」と発表している。
自伝とはいえ、本人の直接的な職場での発言ではなく、2016に出版された書籍という創作物での表現内容が今回は引き金となった。セクシュアルハラスメントやジェンダー差別に対する世間の目は年々厳しくなっており、今や単純に、職場での発言や行動に気をつけるだけではなく、過去の言論や創作物などにも責任を持たなければいけないのだということが、今回のアップルの解雇という決断で示されたとも言えるだろう。
もちろん、創作物や著作に関して本人がどこまで道義的責任を持つかという点においては、今後いろいろな議論が交わされることが予想される。同時に、従業員が問題意識を明確にして社内で共有した上で、今回のように請願という形で経営陣に訴えかけることの持つ影響力の大きさが、今回のケースで広く認識されたのではないだろうか。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
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