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ネットで批判殺到 価格変動のわな

毎日新聞・経済プレミア 「石角友愛のシリコンバレー通信」
ネットで批判殺到 価格変動のわな

2021/09/17 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

ネットで批判殺到 価格変動のわな

私は人工知能(AI)開発やデジタルトランスフォーメーション(DX=デジタルを活用した業務改革)支援を行う「パロアルトインサイト」という会社を経営し、AIビジネスデザイナーとしても常に現場に出ている。このため、普段からAIのビジネス応用に関する学術論文などはよく読んでいるのだが、先日、米ハーバード・ビジネス・スクールの機関誌である「ハーバード・ビジネス・レビュー」で興味深い論文が投稿されていたので紹介したい。

マルコ・ベルティーニ氏とオデッド・ケニスバーグ氏が執筆した「プライシングアルゴリズム(ダイナミックプライシング)のわな」というものだ。ダイナミックプライシングとは、ビッグデータをもとに需要を予測し、柔軟に価格を変動させるしくみ。パロアルトインサイトでも、ある企業の売り上げ向上のためにダイナミックプライシングのアルゴリズム(計算方法)を開発したことがあるため、興味深く読んだ。

緊急事態での価格変動

この論文の中で、ダイナミック・プライシング・アルゴリズムのわなとして挙げられている事例の一つが、テロリズムや銃乱射事件などが起きたときのウーバーやリフトといった配車サービスの価格変動だ。

2020年1月22日の夕方5時、米シアトルの繁華街で、銃乱射事件が発生した。帰宅途中の人があふれる街の中で、突如として起こった乱射はパニックを引き起こした。バスなどの交通機関が止まってしまったため、何とかその場から逃れようとウーバーやリフトを呼ぶ人が殺到したのだ。

配車の需要が高いラッシュアワー時はもとから料金が高く設定されていたことに加え、緊急事態勃発による需要の急騰に反応したサージ・プライシング・モデル(需要の多い時に割増料金を適用するしくみ)が、信じられない値段を出したのである。例えば、当時のリフトの乗車料金は、通常時の35ドル(3850円)程度から250ドルにまでつり上がったという。

ネット上で批判殺到

この出来事に対し、SNS(ネット交流サービス)上では「緊急事態の発生時にもかかわらず、収益拡大のために値段をつり上げるなんてひきょうだ」といったコメントがあふれたそうだ。

なお、この事件後すぐに、ウーバーもリフトもサージプライシングを修正し、配車料金は通常価格に戻された。そして、サージプライシングにより不当につり上がった料金を支払ったユーザーには、後日、通常時の料金との差分を返金するというアナウンスがあった。

ウーバーのウェブサイトによると、同社のシステムには非常事態プロトコル(手順)が用意されており、非常事態には値段に上限を設けてサージプライシングが機能しない仕組みになっているとのことであったが、シアトルの銃乱射事件の際にはそれが機能しなかったのだろうか。

この事件によって、サージプライシングにおいては、非常事態プロトコルを確実に実行する体制を担保することが重要である点が浮き彫りになったと言える。

遠方からの来店客に割引

さらに前述の論文では、企業がダイナミック・プライシング・モデルを導入するときの注意点の一つとして、明確な使用用途と目的を設けることを挙げている。

この点に関し、家具大手のイケアは、期間限定の興味深い取り組みをドバイの店舗で実施した。車で来店した顧客に対し、来店までに要した時間(距離)に応じて、全ての商品の価格を変動させることにしたのだ。

具体的にどのように価格を決定するのかというと、顧客がレジで店員に「グーグルマップ」で移動履歴が示されるタイムラインを見せることにより、来店までの所要時間や移動距離、ドバイの労働者の平均時給などを学習したアルゴリズムが割引率を算出するのである。つまり、来店までに要した距離や時間が長ければ長いほど、より多くの割引を受けることができるのだ。

イケアはこのように、顧客にペナルティーではなく報酬を与えるために価格変動アルゴリズムを利用した。その結果、目先の売り上げは減ったかもしれないが、遠方に住む顧客をより多く獲得し、すべての顧客からの信頼性(および理論上の生涯価値=1人の顧客から生涯にわたって得られる価値)を高めることができたのではないだろうか。

ブラックボックスからグラスボックスへ

従来のように、消費者がまったくコントロールできない状況で、ブラックボックス的に値段が一方的につり上がるサージプライシングではなく、イケアのように消費者が得をする(安くなる)タイプのダイナミック・プライシング・アルゴリズムを積極的に取り入れる企業がこれから増えてくるかもしれない。

実際、論文の著者も、需要と供給のバランスで値段が不透明に変動するアルゴリズムを多用すると、消費者の信用を失うリスクがある、と指摘している。今後はより一層、グラスボックス化した透明性の高いプライシングアルゴリズムの導入に比重が置かれるようになるだろう。

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