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30代で「古株扱い」IT業界に潜む若者重視の危うさ

毎日新聞・経済プレミア 「石角友愛のシリコンバレー通信」
30代で「古株扱い」IT業界に潜む若者重視の危うさ

2021/10/15 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

30代で「古株扱い」IT業界に潜む若者重視の危うさ

先日、「45歳定年制を敷く」というサントリーホールディングスの新浪剛史社長の発言がさまざまな議論を巻き起こしたが、米国でも年齢という枠組みにこだわった議論がされないわけではない。例えば、私が拠点を持つシリコンバレーやシアトルのIT業界では、30代で既に古株扱いだ。私がグーグル本社で勤務していた頃は、周りが20代半ばの人ばかりで驚いた。同僚の30代半ばの人が自分をすごく年上に感じる、と言っていたのを思い出す。

現場に高齢者がいない弊害

そんなIT業界、とりわけ世界最大の科学的かつ教育的なコンピューターサイエンス学会であるACM(Association for Computing Machinery、計算機協会)には、人工知能(AI)研究を推進するさまざまな大学の研究者が参加している。協会が発行する月刊誌の2021年7月号では、実に20校にも及ぶグローバルな研究機関の教授らが共同で「The Harm in Conflating Aging with Accessibility(加齢と使いやすさを結びつけることの害)」という論文を寄せていた。高齢化社会である日本にも関連性が高いことなので紹介したい。

執筆者たちはこの論文で、「若いことを好ましいと考える社会の動きはグローバル現象になっている。逆に、高齢者は物理的、認知的能力が衰え、社会との関連性がなくなってきていると捉えられている。IT業界ではこれが顕著で、若い世代の人材獲得に一生懸命になっており、高齢者世代に対しては、ほとんどの場合、転倒防止アラームを付けたものや、既存の性能より劣る低機能の高齢者バージョンの製品が作られるだけである」と現在の若者重視の流れに警鐘を鳴らした。

特にIT業界では、定年という概念はないものの、40代半ばで既に会社で居場所がなくなる人が多いため、高齢者を対象とした製品設計の現場に、高齢者の意見を代弁する人がほとんどいないまま開発が進められていることは問題だ、と指摘している。

高齢者採用の利点とは

論文は、高齢者を積極的に採用したり製品開発を行う現場に入れたりすることの企業にとっての利点として、以下のような理由を挙げている。

1、人生経験の豊富さとそれによる知見が得られること。

2、さまざまな技術革新と、それに伴う業務改革(例えば、官公庁や大企業で古くから使われていた大型コンピューター「メインフレーム」からパソコンへの移行や、「ガラケー」からスマートフォンへの移行に伴う仕事の仕方の変化など)を経験したことによる視点があること。

3、家族構成の変化を経験していること(育児、両親の介護、孫の世話など、家庭の中心がシフトする中で変わる優先順位などを理解している)。

4、退職後に多くの人たちが「自己の確立」のために多くの新しいことに取り組む傾向があること。

このような理由から、技術をデザインし開発する側としても、高齢者層が非常に興味深く、関連性が高いデモグラフィックス(性別、年齢、居住地域、所得、職業などその人が持つ人口統計学的な属性)であることを再認識しなければならないということだ。

求められる高齢者主体の製品開発

私自身、デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタルを活用した業務改革)推進やAI開発を行う現場に携わり、特に2番目の理由は大きいと考える。

生まれた時からスマホが当たり前の若い世代と、技術様式が変化する中で仕事のあり方やデータの管理方法、コミュニケーションの仕方などを変えてきた世代では、特に業務改善やDXを推進する大企業に対し、組織体制の変革に必要なビジョン設定や評価基準の見直しをする際に提案できるものが違うのではないかと思う。

どちらが優れているという視点ではなく、それぞれが違う強みを生かして協力し、より説得力のある提案や計画に落とし込み、実現できればよいのではないか。

デジタルデバイド(情報格差)の多くは、人々が「技術を作る側と使う側」「使いこなせる側と取り残される側」に分断されることから生まれている。今後、技術開発をする層には、自分たちを主体に考えて作るのではなく、デジタルデバイドの対象となることの多い高齢者たちを主体にした製品開発が求められるだろう。

その際には、単純に「使いやすい」「低機能」のものだけを作るのではなく、高齢者たちを巻き込んだ新しい仕事の仕方が求められるようになるのではないか。

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