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日経クロストレンド ダイバージェンス時代のDX戦略 第5回/音部大輔×石角友愛 シェア逆転時、市場で起きる地殻変動とは

2021/10/25 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

音部大輔×石角友愛 シェア逆転時、市場で起きる地殻変動とは

「“ダイバージェンスの時代である”とは、進行中の変化を喝破する、卓越した洞察だと思います。コンバージェンスが始まるまでに、デジタルの力を使ってどこまで拡散していくものなのか、非常に楽しみな時代です」と音部大輔氏は石角友愛氏の著書『いまこそ知りたいDX戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)について話す。石角氏が語る「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と、音部氏が語る「マーケティング」、それぞれの分野から見える双方の親和性、そしてダイバージェンス時代のDX戦略について議論する。

音部大輔氏(以下、音部) IoTの進化により様々なことが変化していきました。詰まるところ「計測可能性が高まる」と私は理解しています。かつては限られた「放送局」が発信するテレビが媒体の主流でしたが、デジタル化の波を受けて今では誰もがブログなど様々な媒体で発信できるようになりました。DXとダイバージェンスは何かしら親和性があるだろうと思っております。そしてデジタルの本質の一つは、「ダイバージェンス(拡散)」なのではないかと考えています。

石角友愛氏(以下、石角) デジタルの本質の一つはダイバージェンス、面白いですね。音部さんは前から「ダイバージェンス」には注目されていたのでしょうか?

クー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏。P&Gに17年間在籍し、その後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など複数のブランドを擁する企業でブランドマネジメント組織を指揮・構築してきた

音部 そうですね、ダイバージェンスからコンバージェンス(収束)へのプロセスは、「アイディエーション」つまりアイデアの作り方などの話題や、色々な業界でも出てくる概念ではありますので理解しています。そして、デジタルであるからこそ、細分化されていっても成立できると思っています。

石角 素晴らしいです。「コンバージェント」などは、金融業界などでも使われる言葉ですよね。コロナ禍により一気に後押しされました。ダイバージェンスによって細分化したものの価値が捉えられ、可視化できるようになった今、ある意味、民主化に近づいていると思います。情報発信の領域では、これまで大手メディアに属した人しか発信できなかった情報が、草の根の部分から発信できるようになってきました。米国では「#Black Lives Matter」などがいい例で、一般市民でもムーブメントが起こせるという動向を感じています。ダイバージェンスのムーブメントは“ポジティブな反応”として捉えています。

「マーケティングでキャリアを積みたい」音部氏のキャリアパス

石角 音部さんが17年間在籍したP&Gでのパスや、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂などの数々のマーケティング部署の指揮とマーケティング人材の育成に関するご経験をお聞かせください。

音部 私がP&Gへ入社した当時、日本の産業界において職種別採用は主流ではありませんでした。歴史的な経緯から見てもマーケティング部署は営業部から分化しておらず、独立した組織を有する企業はほとんどありませんでした。そんな中、マーケティング部署として入社できた会社の一つが、P&Gでした。

石角 P&Gへ入社する前から「マーケティングでキャリアを積みたい」と思っていたのですか?

音部 はい。若輩ながら考えていたのだと思います。マーケティングに興味を持ったのは、大学の教養科目でマーケティングを受講して面白かったことがきっかけです。いい先生に出会ったんだと思います。実際に米国マーケティング学会で受賞歴もある中西正雄先生が教べんを執っていました。就職活動の時点から「マーケティング部署に入りたい」という思いでP&Gへ入社し、最初に手がけたのが薬用せっけんの「ミューズ※」です。

※ミューズは2008年4月、P&Gからレキットベンキーザー・ジャパン社へ事業譲渡

石角 米ハーバード・ビジネス・スクール(以下、HBS)で知り合ったP&G出身の先輩に「P&Gで学んだことは何か」と聞いたことがあります。彼から「高級車などは訴求メッセージが出しやすいが、消費財のシャンプーなどは生活者にとってベネフィットが伝わりづらいため差別化しにくい。それをどう訴求するかを考えるのがP&Gの醍醐味だった」と聞いたことは今でも覚えています。チャレンジングであり、システマチックにやってきたのが、P&Gだと感じています。

音部 そうですね、当時は社内でもよく言われていました。「消費財という、いわば“どれでもいい”とも言えてしまうようなものを上手に扱えるようになれば、他に扱えないものはほとんどない」と。

石角 みなさんプライドを持って取り組まれているのですね。素晴らしいです。ところで、音部さんの最近の記事やHPを拝見したのですが、その中で提案されている「パーセプション・フロー・モデル」について、P&G以降のご経験がどのように反映されているのかなど、詳しくお伺いしたいです。

パーセプションフロー・モデルとは

音部 「マーケティングとは何か」という問いには今でも色々な説があります。「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」という日本マーケティング協会の1990年の定義が正しいのではないかと思います。圧縮すると「市場創造」ですね。「いい商品」の定義を新しくすることが市場創造ではないでしょうか。例えば一時期の“いい洗剤”の定義は「小さくてコンパクト」でした。それが「液体」から「ボール」へと変化しています。洗剤の形状が変わると「汚れが落ちる」から「除菌ができる」、そして「すすぎ回数が少ない」から「時短で節水効果がある」と機能が変われば、ベネフィットも変化します。市場の首位が変わるときは、“いい商品”の定義(重要属性の順位によって決定される)が変化しているものです。属性の重要度の順位が変わるのです。“いい商品”の定義が変わると、市場が創造されます。

例えば、オバマ氏が提案した“いい大統領”の定義と、トランプ氏が提案した“いい大統領”の定義は異なっていますよね。それぞれが“いい大統領”の定義を市民へ提案し、それを市民が受け入れたからトランプ氏が大統領となりました。ここで“いい大統領の定義”が変わり、市場創造が行われた。

石角 そうですね。

音部 この作用というのは、製品や候補者の直接的な戦いではなく、「消費者のパーセプション(認知)」がどう変化したかに起因しています。消費者が“何をもって”いい大統領とし、“何をもって”いい洗剤とするのかが変化したときに、ブランドの順位が変わるのです。「あのブランドがいい」と思ってもらうのと同時に、ブランドがプレーしているグラウンドの定義を変化させないとシェアは動きません。そのように消費者のパーセプションを変化させるためには、色々なステップを見積もって踏んでいく必要があります。マーケティング手法にて使われる「カスタマー・ジャーニー・マップ」は消費者の行動を描いていますが、マーケターは消費者のパーセプションの変化を設計しなくてはなりません。

「チャレンジングであり、システマチックにやってきたのがP&Gだと感じている」と語る石角氏

石角 では、マーケティングの手法を利用して「マーケター側が消費者のパーセプションをどう変えていくのか」という主体的なアプローチになるのですね。面白いです。

音部 その通りです。トランプ氏が台頭するまでは、「“アメリカ・ファースト”の大統領が欲しい」とは誰も言っていませんでしたよね。シェアの1位を確保している大抵の商品は、消費者のために作ったというよりかは、正しくは「ブランド側がアドボケート(提言)」しているのです。消費者自身が自ら欲しいものを明示できるかというと、多くの場合、それはできません。

石角 潜在的な消費者のニーズがあるために、アドボケートしたことが引き金となり、顕在化するのですね。

音部 はい。我々は消費者に対して商品の購入を強要したり強制はできません。かと言って、消費者が欲しいものを明言できるかというと、これがなかなか難しいのです。「いい車が欲しい」というのは簡単ですが、具体的に「どのような車が欲しいのか」という問いに対して、正確な言語化は難しく、“何をもって”いい商品なのかを断定するのは極めて難しいのです。

石角 そうですね。馬車を移動手段としていた時代に、もし顧客に対して「何が欲しいか」と問いかけたら「もっと速い馬が欲しい」と言っていただろうという、ヘンリー・フォード氏のエピソードを思い出します。パーセプションフロー・モデルにおいても、どういうニーズがあるかについて分析するときにデータの活用は役に立つと思いますが、そういった事例はあるのでしょうか? 例えば、データの解析チームと組んで興味深い考察結果になった事例などはありますか?

「トライアル」で今のユーザーを知ることが重要

音部 ビジネスを伸ばすにはトライアルが必要です。利用者を10万人から11万に増やしたい場合、既に利用している10万人のことを知らなければなりません。次の1万人は、既存ユーザーの10万人に似た人たちで構成されています。既存ユーザーによく類似していて、未利用の人たちに声を掛けていくことが道理にかなっています。そして、今の10万人を理解するのに必要なのが「データ分析」です。ところが、自分たちの消費者がどんな人で構成されているかについて、意外と正確に理解できていないチームが多いものです。

石角 本当にそう思います。音部さんが日経クロストレンドに寄稿された記事『コロナ禍で見えた「料理宅配とゲーム」の意外な関係 音部氏語る』 では、「リピーター」の調査に始まり、顧客が他にどのようなアプリを使っているかなどの分析やユーザーセグメンテーションの考察を通して、対象者にどう訴求をしていくかという部分まで落とし込んでゆく事例を非常に興味深く読ませていただきました。

先ほどのパーセプションの話にもつながりますが、自分たちは商品をプロダクトし販売する側なので、どうしても主観が入ってしまいますよね。そして「こういう人に売られるだろう」というペルソナも設定すると思います。「10万人に対する潜在的なニーズの掘り起こし」や「変わってきているパーセプション」、または「今後受け入れられるであろうパーセプション」について、データから導くことは重要だと感じています。潜在的なパーセプションを捉えながら次の一手を打つということに対して、方法論としてデータドリブンに行う他にどのような手法があるのでしょうか?

音部氏は、消費財であれば「再購入」を目指すという。写真はイメージ(写真/Shutterstock)

音部 通常、商品やサービスのマーケティングでは「認知」され、「知って」もらい、「使って」もらい、「購入」してもらうという順序でアプローチすることが多く、その考え方でうまくいくことも多いですが、私は反対から考えることが多いですね。消費財であれば「再購入」を目指します。「耐久財」の場合であれば、新しい使用習慣が確立される状況をまず想像します。「どういう状況であれば使い続けたくなるのか」を考えると、仮説をいくつか立てることができます。その仮説に基づいて、量的・質的データを活用することが大切なのではないかと思っています。

石角 逆転的な考え方で面白いですね。Uber Eatsと同じく料理宅配事業を展開する米ポストメイツも、リピーターが重要と考えています。リピーターへのサービス訴求は、土着性の高い制約条件があったり、フィルタリングするユーザー同士が近所でなかったりする他、お店側の制約条件なども加味しなくてはいけないので、複数のオブジェクトを最適化しなければなりません。そのため、「Netflix」や「Amazon.com」で利用されている協調フィルタリングの手法では成り立たず、別のモデルの構築を必要とします。こうした要因から、そもそもどんな指数を最適化すべきかを最初から考えていたということをブログで発表していましたね。

また、Uber Eatsでは「店舗の満足度」も重要視しています。売り上げに直結する手数料ビジネスのため、新規加入した店舗が最初の1週間でいくらもうかるかなどのKPI(重要業績評価指標)は彼らにとって重要であり、それも最適化する必要があります。プラットフォームモデルを構築する際、最適化に必要なオブジェクトや変数が複数にまたがるため、機械学習の業界では難易度が極めて高いと言われています。マルチサイドプラットフォームが色々なAI(人工知能)技術を導入している現状を受けて、AIとマーケティングの親和性は極めて高いと感じています。

〈中編に続く〉

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