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日経クロストレンド ダイバージェンス時代のDX戦略 第6回/音部氏が勧める消費者データの読み方 「行動」は絶対ではない

2021/10/26 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

音部氏が勧める消費者データの読み方 「行動」は絶対ではない

ポストコロナを見据えた今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。『いまこそ知りたいDX戦略』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者であり、米国シリコンバレーを拠点に企業のAI(人工知能)活用・導入を支援するパロアルトインサイトCEO(最高経営責任者)の石角友愛氏と、P&Gをはじめ、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂など大手各社のマーケティング部署を指揮してきたクー・マーケティング・カンパニー代表取締役の音部大輔氏が議論する中編。

〈前編はこちら〉

石角 パロアルトインサイトでも、色々なクライアントの案件を扱っていますが、マーケティングに関するニーズはとても多いと感じています。これまで対面で販売していた小売りなどの会社はコロナ禍のあおりを受けて、軒並みデジタル化を急務として進めています。そんな中、「リピーター」や「カスタマージャーニー」の分析ができていないフェーズの会社も徐々に顕在化してきました。誰もがECサイトを簡便に立ち上げられる時代になりましたが、企業は自社のサイトにどんなユーザーが来ているか、「カスタマーセグメンテーション」をどう定義すべきかなど、AIで予測する以前の“まずどんなデータを収集すべきか”という部分を明確にすることが求められているように感じます。これはどちらかというとDX寄りの話です。

音部 そうですね、先ほどの石角さんのハーバード・ビジネス・スクール(HBS)時代になぞらえると、P&G時代の上司の言葉「ブランドと消費者を前に、社内の階級は無意味である」に私は強く影響を受けました。社長や上司の指示よりも「ブランドのためになるかどうか」「企業のためになるかどうか」を考えることが大切。常に消費者を重視しろ、と。そして、消費者を重視するというのは、データドリブンで確認するということです。つまり、コンシューマーエビデンスに基づいた意思決定が重視されていました。

逆に、データよりも上司の言うことを重視するような企業風土だと、データドリブンな意思決定プロセスの実現は難しい。企業の良しあしではありません。それはある種の文化であったり、それが成り立つ業界であったり、社風なのだと思います。データドリブンな意思決定がしやすいかどうかには、社内文化が大きく影響するのです。それができている会社であれば、社内に何らかのデータを保有していますし、どのデータを見るべきかのリテラシー(読解力)が身に付いています。このリテラシーが高いほど、データクレンジングに使うAIを設計する際や、デジタル化してDXを推進する際に大いに資するでしょう。結構、根が深い議論ではあります。

石角氏は、「データ会議」を重ねることで「大事なデータは何か」という議論が深まると話す

石角 本当に深いですね。「データドリブンの企業にしよう」「データドリブンの文化を醸成しよう」と言うのは簡単ですが……。ちなみに、「データドリブンの文化を醸成しよう」となったときに私がお勧めしているのが「データ会議」です。私が講師を務めたAIビジネスデザインの授業の一環でも実施しました。「データ会議」というのは、米Appleやテック企業の米LinkedInが導入している会議で、意思決定者がKPI(重要業績評価指標)などの生データを15分間読み、アジェンダなし、アクションアイテムなしでただ議論するという会議です。この会議を重ねることで「大事なデータは何なのか」という議論が深まります。そして「大事なデータをどう取得していくか」というデータ収集パイプラインの構築を促したり、意思決定者が常にデータドリブンの視点で物事を考えたりするメリットもあります。こうした「データ会議」を日本でも導入するということについて、音部さんはどう思いますか?

音部 すてきだと思います。石角さんの著書にも書かれていた「円密度の高いデータ」(売り上げや利益に強い影響を及ぼすデータ)はどれか、と当たりを付けられるようになることは大切だと思います。一発で分かる必要はないと思いますが。

石角 大切ですよね。見当違いなものをビッグデータで集めてもコストがかかり、集めたデータを保管する際も維持費がかかってしまうため、ゴールドリブンで集めていくのが大事だと思います。

“クラスタリング”で行動を予測する

石角 例えば、「アリエール」「ボールド」など、商品ごとの認知度は高いが、その商品を全てP&Gが作っているという認知が追いついていないなど、ブランディングに誤差が出てきてしまうようなこともあります。消費者が持つ様々なデータを活用すれば、そうしたパーセプション(認知)の差や変化をうまくつかめるようになるのでしょうか?

「消費者の行動が絶対というわけではない」と説く音部氏

音部 先ほど、データドリブンに関する話をしましたが、マーケティング上でのデータは大別すると「量と質」そして、「行動とパーセプション」に分類することができます。この「行動」は消費者の行動を指し、「消費者の購買データ」や「履歴・売り上げ」などのデータがあります。これらは「観察データ」と呼ばれます。一方で「パーセプション」の場合、データとして抽出するのはとても複雑なため、アンケートなどで定性的な回答を集めることからスタートします。行動(観察データ)の場合はすぐに収集できるため、疑似的なパーセプションデータとして理解してしまうことが多いのですが、行動データだけを分析し判断すると支障が出てきてしまいます。その最大のポイントが、「今起きていることを是とせざるを得ない」ということです。

「コンシューマーの今の行動にどれだけ我々の行動を擦り合わせていくか」と意識してしまうと、コンシューマーの行動は常に「善」とされてしまいます。ですが、消費者の行動が絶対というわけではありません。それでは、消費者によりよい解決も、イノベーションも提供できなくなってしまいます。消費者の行動を追いつつ、「消費者のパーセプションがいかに変化しそうか」と考えるほうがよいのでしょう。

石角 面白いですね。従来のやり方のフォーカスグループやアンケートなどの重要性が再認識されているということでしょうか?

音部 消費者リサーチを受ける日本人の数が年間のべ1億人を超えているという話を過去に聞いたことがあります。でも、実際に受けたことありますか?

石角 受けたことはないですね。

音部 ということは、「プロフェッショナルな消費者」がいるわけです。

石角 同じ人が受けているということですね。それでは、偏ったデータになってしまうのではないでしょうか?

音部 そういったデータについては、絶対値を見なければ問題なく使えます。ただ、消費者の行動を分析し予測するには、消費者の行動を集計するだけではうまくいきません。特にターゲットコンシューマーの記述をする際、個人情報保護の観点から関係の把握は難しい部分だとは思いますが、意識したほうがいいのは「消費者の自我」です。ここにもデータの使い道がありそうです。「自我」というと「母」や「子」、「妻」など色々ありますが、これらは全て「誰かとの関係性」なのです。

石角 社会性を持った役割ですよね。

音部 そうです。「自我」は、どの社会に対する自分を表しているかという役割なので「どの自我が出てきて商品を利用しているか」というのは行動で見えてきます。そうすると「次はこうしたいのではないか」という予測が立てられると思います。

石角 面白いですね。客観的な行動データや履歴から、「自我」が見えるかですよね。でもデータを組み合わせることで、仮説を立てることはできると思います。1人の人間が持っている自我は多くても10個程度でしょうか。「自我でクラスタリングする」というのはとても画期的です。また、「自我」といっても細分化しようとすれば、例えば「小学生の母」「女の子の母」など細かく分類することもできますね。自我ベースで行動を予測するというのはとても興味深いです。

音部 自我ベースで行動は予測できます。行動は役割に規定されがちですからね。

石角 役割に基づいた行動というのはパターン化していますからね。とても興味深いお話です。私は大学で社会学・心理学を学んでいたのですが、社会学の理論でいうと、「自我」の定義は「社会的役割を演じている」と、とてもドライなんです。心理学の場合、自我は「最初から持っているもの、または育つ過程で内に形成されるもの」という前提が多いですが、社会学では「社会から与えられた役割を演じていることが自我であり、役割が終わったあとに残る自我は何もない(アーヴィング・ゴッフマン – 『ドラマツルギー』の概念)」と定義されていて、ショッキングだったのを覚えています。

確かに実践的ではありますが、人間は皆どこかで役割を演じていると感じています。特に他者との関わりの中では、家族といても役割があるので、その自我を役割と見なしてそこからどう予測するかについて、音部さんの理論は納得がいきます。

「役割」でパーセプションを導く

石角 音部さんがおっしゃった「データドリブンと言っても、結局後追いにすぎない」という言葉はとても腑(ふ)に落ちました。私も多くの経営者から「行動データやユーザーのログを見ていても、今消費者がやっていることが正解だという前提の下、コンファメーション(確認)しているにすぎない。後追いとしての意思決定ツールとしてデータを使っているにすぎず、それでは意味がない。重要なのはその次を予測してマーケティングの施策に落とし込むことであるはずなのに、それができない」という話を聞いて、消費者の行動予測を立てることの壁が大きいと感じています。

機械学習も統計学の手法なので、過去ベースで次を予測する側面がどうしてもあります。現在、ある食品会社とプロジェクトを進めていますが、コロナ禍で今まで使っていた事業予測モデルが通用しなくなり、急きょ「カタストロフィー(大災害)対応型」として、コロナ対応型の事業予測モデルを構築しています。通常は過去10年分のデータを統計学的に学ばせて予測値を出していますが、「カタストロフィー対応型」の事業予測モデルでは、直近の「1カ月」や「1週間」などの短期間のデータに重みを乗せて学ばせています。統計学的にはデータ量が足りないのですが、そこにより比重を持たせて学ばせ、急な状況変化に対応できる事業予測を設計することが重要になっています。

そのような考え方が経営者にも求められていると同時に、後追いのデータドリブンは求められていないと肌で感じています。音部さんと話をして、「消費者が今やっていることが100%の絶対的な正解ではない」というところから議論を始めるのはとても大切だと思いました。「フォーカスグループ」や「アンケート」以外に、自我ベースのデータドリブンな分析を行う方法はあるのでしょうか?

音部 データ的に一番欲しいのは「誰と一緒にいるか」です。

「誰と一緒にいたか」を把握できれば、その関係や役割が分かる。写真はイメージ(写真/Shutterstock)

石角 誰かと一緒にいたかで、パーセプションが分かるのでしょうか?

音部 例えば、「どの時間帯にどのエリアでずっと一緒にいるのか」が把握できれば、親子関係か仕事仲間かなどの「役割」が分かります。その際、どちらが「親」でどちらが「子」の関係かというのは分かりませんが、親子関係ということが判明すれば、ブランドのベネフィットを介在させやすくなります。ブランドと消費者の関係において「ブランドと消費者を一対一の関係にしているブランド」は本当に少ないのですが、石角さんは思い浮かびますか?

石角 Appleなどでしょうか。

音部 Appleぐらいですよね。自分のプロジェクトするものがあれば話は変わってきますが、「私」と「私の大切な誰か」との関係を改善してくれるブランドであれば、きっと好きになります。人と人との間にブランドのベネフィットが介在することができるとアタッチメント(愛着)が強くなりますし、エンゲージメント(関与度)が高くなります。結果として、消費量や消費頻度が上がっていきます。

石角 ロイヤルティーも高くなりそうですね。人間の相対的な関係性の中にブランドを導入してうまくいった商品などで、成功事例とかありますか?

音部 P&G時代ですが、「アテント」という大人用紙おむつを手掛けていました。紙おむつというと、「いかに漏らさないか」「蒸れないか」「うまくキャッチするか」などを通常は考えるのですが、紙おむつはそもそも何を促すかというと「当事者間の関係改善」なのです。介護される側と介護する側について、当時は親子介護が主流でした。例えば「実の娘が実家に戻ってお父さんをケアしている」といった話をよく聞くことがありました。そこで我々は、紙おむつが漏れないように、蒸れないようにと品質向上に努めることで、ケアされる側・する側ではなく、「昔のように親密な親と子の関係であり続けてほしい」と考えていました。

できれば出掛けたり、少なくとも会話を促したりなど、そんな関係でいてほしいと思っていました。お年寄りの方は、排尿量を自分で制限するためにお茶を飲まなくなったりするのです。ケアする子の立場からすると、「水分をしっかり摂取してほしい」と心配しますよね。我々は「我慢しなくていい、漏れなく吸収できるように我々が新しいおむつを作るので、親子関係を楽しんでほしい」と。親と子の関係の中に「アテント」が入り、関係が改善することができれば「ただの漏らさないおむつ」とは違った意味合いを含むおむつとなります。

石角 すごく美しい話ですね。消費財でなくても成立するのでしょうか?

音部 今はコロナ禍で状況は異なるのですが、平時であれば使っている消費財のほとんどは「個体としての生命維持」ではなく「社会的プレゼンス」のために使用しています。着ている服もそうですね。緊急事態的な栄養補給以外は、基本的にソーシャライズをしています。カラオケへ行くときに「何をしていますか?」と聞くと「歌を歌っています」と回答されますが、実際は歌を歌いながらソーシャライズしているのです。1人でこもって練習する場合は個人的な歌の練習ですが、人とするカラオケは基本的に全てソーシャライゼーションなのです。そう考えると「人と人との間にベネフィットを入れて関係を改善する」ということに貢献できないブランドのほうが少ないと思います。

石角 面白いですね。子と親の関係性の維持、または向上によるベネフィットで一役買っている例で言うと、最近、私の子供に、キッズ用としても人気の「Apple Watch SE」を買い与えました。Appleは親に対する訴求が上手で、Apple Watchを着ければ遠隔で子供の位置が分かるし、「ウォーキートーキー」というトランシーバーのような機能で離れていても子供と話ができます。まさしく音部さんがおっしゃったように、人と人の関係性に入り込むことができるブランドはなかなか変えないですね。

音部 関係性に入り、かつルーティーンに入って“OS化”すると顧客は離脱しません。石角さんとお子さんの間にあるApple Watchは人と人をつなぎ、かつルーティーンに入っているので離脱しにくいですよね。

〈後編に続く〉

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