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コロナワクチン接種センターに見るDX – 日経クロストレンド連載

2022/03/23 メディア掲載実績, 日経クロストレンド 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

デジタルとアナログを融合 大規模接種センターが成功した理由-日経クロストレンド連載 ダイバージェンス時代のDX戦略 第12回

ポストコロナを迎える今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。AI開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。今回は、防衛省の大規模接種対策本部長を務めた中山泰秀・前防衛副大臣(現在は、自由民主党政務調査会長特別補佐 外交・国防・ゲームチェンジャー領域担当)を迎え、大規模接種センターのローンチや運営に当たって工夫した点や苦労した点などについて伺った。※対談は2021年6月29日に実施

対談は2021年6月29日に防衛省副大臣室で行われた

石角友愛氏(以下、石角) 大規模接種会場を運営(編集部注:取材は21年6月29日)されていますが、新型コロナワクチン接種の予約状況が大幅に改善しましたよね。こうしたことがもっと世の中に広まればと感じました。

中山泰秀氏(以下、中山) ありがとうございます。

石角 そもそも大規模会場はどういう手順でローンチされたのか、一番苦労したことなども含めてお話を伺いたいです。

中山 菅義偉総理(当時)の判断で、大規模接種センターを東京と大阪の2大都市に作ることになりました。その際、自衛隊に対する国民からの信頼というものをキャッチャーミットのように受け止めるということが重要でした。また、今回のパンデミック(世界的大流行)の中では、自衛隊がどのようにコミットできるかという部分も世界から注目されていると思いましたし、私個人も自衛隊大規模接種対策本部長としての思い入れがありました。

菅総理の目的は恐らく短期間で集団免疫を獲得することだったと思いますが、結局、何が一番よかったかというと、自衛隊の大規模接種センターが他の多くの接種会場のモデル、すなわち基本形のようになったということです。

大規模接種センターのローンチに当たり、私たちは率先してマニュアルにまとめるように指示を出しました。例えば、フロアのパターンをどうするか、会場に入ってから出口までの所要時間は何分になるか、経過観察を何分行うか、コードブルー(容体急変などの緊急事態)が出たらどうするかなど、全て計算に基づいて何回もシミュレーションを行いました。結果として指示から2週間で会場づくりが完了し、続けてオペレーションマニュアルも作成できたのです。

石角 たった2週間ですか! 大阪、東京の両方ででしょうか?

中山 はい。いずれの会場でも、短期で集中してオペレーションをこなしています。

石角 総理の指示があってからどのような取り組みが行われたのでしょうか?

中山 プロセスでいえば、菅総理が岸信夫防衛大臣に指示を出す。続いて、岸大臣から私へ指示がくるという形で、縦一直線の命令系統ができています。さらに防衛省以外にも3つの省庁が連携しました。主要官庁は内閣官房、ワクチンデリバリーは厚生労働省、地方自治体への対応は総務省が担当です。ですから防衛省としては、とにかくワクチンをデリバリーしていただき注射を打つ。まさにウイルスとの戦争、「War against virus」です。

さらに、既存のマニュアルに従っているだけでは分からないこともいろいろとありました。例えば、ワクチンの製造会社が出しているマニュアルには「超低温フリーザーでバイアルキットがマイナス70度で送られてきますので、それを○時間で解凍してください」といったことが書かれています。ところがその通りにしたら、実はまだ薬剤がシャーベット状だったのです。もちろんそれをそのまま人に打つわけにはいきません。

そこで防衛省、自衛隊が実際に温度を測り、薬剤が何時間で液体になっていくのかなどの変化を何度もシミュレーションして確認しました。そこから独自のエビデンスベースドのマニュアルを作り上げ、各方面へ共有していくという流れを作りました。

石角 なるほど。そのシミュレーションは、何回ぐらい行ったのですか?

中山 もう数えきれないくらいです。他にも、ワクチンの保管に利用するフリーザーは地震対策などに使われる家具の転倒防止グッズで固定し、さらにバックアップ用のフリーザーも用意しました。準備も安全対策もバックアップも、二重三重に備えています。

石角 事前に想定していたシナリオと、いざ実行したときに想定と違った点について、柔軟かつアジャイルにマニュアル化されたということなのですね。

自衛隊の接種センターが全国のモデルに

石角 他にも、副大臣がお話になった記事を読んでいて、あらゆる動線を徹底的にシミュレーションしたというのがすごく面白いと思いました。特に「どうやったら円滑に人が並べるのか」という動線を恐らく何回も実験したかと思います。また、接種済み証明書の交付の段階で時間がかかることが分かったそうですが、交付とともに2回目の接種の予約を取るように作業を分けたことで作業動線が効率化したと聞きました。作業動線をどのようにデータ化し、シミュレーションに反映したのか、という点をもう少し具体的にお聞かせいただけますか?

中山 実はフロアプランを立ち上げた当初は、一番時間がかかるのは予診、問診のプロセスと予想していました。医師と話をする時間には個人差があります。例えば持病を持っているけど、その持病を証明することが難しい人もいます。本人が思い込んでいる持病なのか、きちんと診断書がある持病なのか。最初のワクチン接種は65歳以上の方が中心だったので、特にご高齢の方の場合はそこが非常に心配でした。

石角 問診票は接種会場で実際に記入するということでしょうか?

中山 そうなんですよ。現場で書く、もしくは事前に配られた問診票に書いて、それを会場にお持ちいただくという形で進めたのです。ところが実際にオペレーションを始めると予診や問診よりも接種後のプロセスの方が時間を要するということが分かったため、その解消のために作業動線を分けることにしました。

石角 ワクチン接種後は15分ほど経過観察しないといけないからですか?

中山 そうなんですよ。初めは1つのテーブルで経過観察と2回目の予約をまとめてやっていたのですが、そうすると会話の数が増え、結果的に時間がかかってしまうのです。それをある程度分けたところ、円滑に人が流れるようになったのです。

石角 まずは経過観察で15分こちら側にいて、それが終わってから2回目の予約を入れてくださいというように、スペースを分けたということですか?

中山 完全に分けました。その結果、そこにとどまる人が一気に減ってきました。効率が向上し、空席が増えていくのが目で見て分かりました。

石角 すごいです。そういったことを常に現場でABテストしていたのですね。

接種センターの様子を動画で説明する中山防衛副大臣(当時)

中山 ワクチンの量を調整するプロセスも効率化に向けて努力を重ねました。ワクチンは1バイアル(瓶)で10回分の接種が可能ですが、一度穴を開けたら10回分全て使い切らないともったいないわけです。そのため、列に並んでいる非接種者の人数とバイアルの数を合わせる必要がありました。

そこで、フロアやエレベーターにどのくらいの人がいるのか、さらにバイアルの数がどれだけ残っているのかをディスプレーやホワイトボードに表示し、リアルタイムで把握できるようにしました。

石角 実際の人数は、現場の人が目で数えているのですか?

中山 そうです。人を流しながら常に数を確認しています。開けたバイアルの数と接種する人の数を“プラスマイナスゼロ”に持っていくのはなかなか難しいのですが……。

石角 それを実現しているということですね。エリアをゾーニングし、リアルタイムで人数管理を行うという素晴らしいプロセスですね。現場では数を数える専門家のような方を雇ったのでしょうか?

中山 それは自衛官および看護官以下が行っています。

石角 各セクションの人数データは、担当の方が常に更新しているのですか?

中山 そうです。京橋と大手町のセンターは、フロアが分かれているため死角がありますが、そこに自衛官を配置し、通信でやりとりしていました。一方、大阪のセンターは2600平方メートルのフラットなスペースなので死角がありません。つまり、大手町と大阪では全く異なるオペレーションになるのです。

そのため民間にマニュアルを提供することを考えると、野球場のようなスペースを会場とする場合には大阪方式、職域接種などでビルの複数のフロアが会場になる場合には東京大手町方式のノウハウが生きます。ワクチン接種のフロアプランというのは会場の設備でオペレーションが大きく変わってくるということです。

石角 本当にその通りですね。全てをデジタル化する時間がない中で、無線や現場のカメラを使いながら、最後はホワイトボードでリアルタイムに情報を伝えていましたね。フロアごとの人数情報は、ワクチンを冷凍庫から出す人に教えるのですね。

中山 そうです。それからバイアルを開封して、注射器に入れます。その作業も全て最低3回、3人でチェックします。さらにそれを監督する人、仕上がったものをチェックする人などがいて、中が固まっていないかなどを細かくチェックします。

石角 ワクチンがどれだけ無駄になったかは実際に数えていたのですか?

中山 はい。だけど自衛隊は1回分も無駄にしていません。

石角 すごいですね。米国とは全然違います。

中山 仮に3回分のワクチンが余ったとしたら、市ヶ谷駐屯地などで緊急に招集した隊員をすぐに送ったのです。

石角 ウエイトリストを作っていたということですよね。

中山 そうです。余ってもすぐに打つので全く無駄にしていないです。

米国と日本のワクチン接種事情の違いについて語る石角氏

石角 素晴らしいですね。米国ではとにかく大量生産・大量供給という方針でした。例えば、先日ウォルマートで買い物をしていたら、店内放送で「ファイザーのワクチンが余っているので、買い物中のお客さんで打ちたい人は今すぐ来てください」という放送が流れました。ある意味、「誰でもいいから打つ」という感じです。集団免疫という意味で、一人でも多くの人に打つことを優先したため書類確認などは行っていませんでした。

ワクチンが無駄になるのはすごくもったいないし、解決しなければならない問題ですが、それについては米国ではあまり話題になっていません。私の場合は、主治医に頼んでウエイトリストに入れてもらっていました。例えば65歳以上が接種対象の時期でも、急用などで受けられない人もいるはずですよね。とはいえ、実際は私も自分の年齢が対象になったときに申し込んで接種しましたが。

使用可能なワクチンが無駄になる「ワクチンロス」の問題は、米国においては個人がどこまで意識できるかにかかっているところが大きいと思います。ただ日本の場合は自衛隊がワクチンを無駄にしないプロセスを作り上げ、それをマニュアル化して自治体や職域接種などの会場向けに配布しているという点が素晴らしいですね。

中山 ワクチンを無駄にしないことも含め、大規模接種センターの運営に関しては、私が本部長としてしっかり頑張ってやっていかなければいけない、という気持ちが強いですね。

〈後編に続く〉

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00509/00015/

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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