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Googleを退職して、シリコンバレーでAIスタートアップを起業しました。そこからは、経営という実践での学びが続きました。
エンジニアやデザイナーを集めて、ゼロからソフトウエアのプロダクト開発をマネージする経験をしました。AIの機能を搭載させることにもチャレンジし、プロダクトマネージャーの役割もやりました。発注する側としてのマネージャーも経験し、その視点も得ることができました。
経験0と経験1の人の違いって、実は無限大なんです。
ゼロには何を掛けてもゼロですが、1には100を掛けたら100になりますし、1000を掛ければ1000になる。経験して、1の状態にして学ぶのが私の信条です。
アメリカのeラーニングのスタートアップでギルド・エデュケーションという会社があります。この共同設立者兼CEOであるレイチェル・カールソンが、「Masters of Scale」というポッドキャストで言っていたのが、 “The four-and-40 is dead. What’s now is the-every-four” というフレーズ。
「4年間大学で勉強したことをベースに40年間働くという4-40方式の時代は終わり、4年ごとに新しいスキルを身につけなければならない時代になった」ということです。
新しいスキルというと大きなことに思えますが、リスキルやアップデート、いわゆる「学び直し」によって、自分の知識を更新し続ければいいと考えています。
自分の経験を客観視し、どこに自分のレバレッジがあるかという観点でも学び直しはできます。
ここからは、私が続けている3つの学び方を紹介します。
一つ目は、仕事に100%直結するものを、ピンポイントで学ぶ。具体的なスキルアップというよりは、自分のビジネス領域で必要な学びです。
主にCourseraを使用し、ユーザーリサーチ、コーディング、UXデザインなど細分化した各論を学びました。
最新の情報や技術を追いかける以外に、クラシックな技術の基本を学び直すことも多いです。
DXについては、Udacity「AI for Business Leaders」(ビジネスリーダー向けにAIの大事さを教える講座)は学びが大きかったです。
ハーバード・ビジネス・レビューの有料会員になって、DXやAI導入関連のファクトがまとまっているケーススタディも読むのも役立ちます。
そして、ビジュアライゼーション。データをどう分かりやすく見せるか、伝えるかという話し手のナラティブの効果的な伝え方です。
データプレゼンテーションや話し方、資料の作り方などの本を常に読んでいますし、MOOCでもデータビジュアライゼーションとプレゼンテーションを融合させているクラスに注目しています。
例えばUdacityの「Data Visualization」という講座。データの見せ方、ダッシュボードの作り方、データを提案に昇華させて伝える方法などを学べます。
次に、今の自分ではなく、今後1年のスパンで役立つトピックについて、体系立てて学び直すことです。
今はSDGs、特にグリーントランスフォーメーションの文脈において、企業目線での理解や整理をするための勉強をしています。環境配慮への事業シフトにおいて、データをどう活用するかという視点は、AIビジネスの観点から必要になると思うのです。
3つ目は、以前学んだものの学び直しです。
例えば、HBSの講座をWebで公開している「HBX」で、かつて学んだクリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」のクラスをもう一度取り直しました。
忘れていたことを思い出す意味合いもありますが、10年前の自分と、今の自分では、同じイノベーションのジレンマを学んでも、知識の使い方が全く違うのです。良い学びについては再定義を繰り返すことにも意味があると思っています。
HBXは、志望動機などを提出する手間はありますが、多くの人にも開かれています。
「何を学ぶか」の引き出しを多くするために、網を広げる情報収集もしています。
例えば、「UXデザイン」は5年前にはそれほどメジャーではなく、領域全体を勉強してやっと知った言葉でした。言葉を知らないと、「それを学びたい」という検索につながらないですよね。
そのために私がやっているのは、学びコンテンツがあるサイトを定期的にブラウジングすることです。PIVOTのような映像コンテンツがあるアプリでもいいし、Courseraの講義などの参加型のコンテンツでもいいです。
CourseraやUdacityは、受講前に具体的に何が勉強できるかが明確に分かる点も良い。コース概要を見て、自分が学びたいこととリンクさせながら、どれを取るべきか決めると良いでしょう。
極端なことを言うと、「空き時間にやろう、スキマ時間にやろう」だと人は一生学べないと私は思っています。みんな忙しいし、空き時間なんてものはないのです。
そこで、「時間をFIXすること」と、「アカウンタビリティとともに設定」を勧めます。
時間の決まった講義を取るのが一番分かりやすいです。時間を逃すと受けられないライブ講義は、「お金も払ったし」「これを逃すと受けられない」と、授業を受けるモチベーションが高まります。自分の行動を促す「ナッジ」(肘でつつくという意味で、行動を促す仕組みのこと)を利用するのです。
私が受けていたHBXでは、週1で何かしらの提出物があり、そのデッドラインに向けて講義ビデオを見たり、本を読んだりして、課題をこなす必要があったため、終わらせることができました。
自分の中で、優先順位を高くするためのナッジを自分でつくるのが良いです。私は週1で「この時間は何も入れない、学びの時間」を設定し、学びコンテンツを受講したり本を読んだりする学びを必ず実施しています。
ポッドキャストを聞く、記事を読む程度の学びなら、「電車やバスでは必ず聞く」と決めて、習慣化するのもよいですね。
今は、企業目線でもリスキルやアップスキルはフォーカスされています。アメリカのウォルマートがギルド・エデュケーションと提携して、ウォルマート従業員は365ドル(1日1ドルで1年間)で高校や大学の学位取得ができるようになり、21年4月までの1年間で高校と大学の卒業生が共に93%急増しました。
ベライゾンは20年に社員の学習開発プログラムに2億ドル以上を投資し、データサイエンス、5G技術、人工知能というテーマでトレーニングを提供しています。
弊社パロアルトインサイトにいるエンジニアの一人は、広告代理店を辞めて3カ月のコーディングのブートキャンプに通って、エンジニアになりました。リスキルが、リキャリアのように生かされた例で、この時代に合った働き方だし、素晴らしいと思います。
日本の企業も個人も、4-40からEvery-4の学びスタイルにアップデートすることを願います。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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