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メタバースやNFTなど、AIを用いた起業や事業開発のトレンド
2022/09/12 ブログ 
by suzuki 

メタバース・NFT・SDGs などAI・テクノロジー領域での起業や事業開発のトレンドを事例を交えて解説

世界的なパンデミックの影響もひと段落し、アフターコロナの世界を見据えて、ビジネスのあり方を考え始める企業も増えてきていると思います。そんなさらなる変化の時代へ突入しようとしている中、今後AIやテクノロジーの領域で、新しい価値が生み出されるであろう事業トレンドについて考えていきたいと思います。

メタバースは、起業の一大トレンド

まずは考えられるのが、メタバースの領域です。FacebookがMetaへと社名を変更しメタバース事業に1兆円以上を投資すると表明したことで注目を集めました。Emergen Researchの最新の分析によると、メタバースの市場規模は2020年には476.9億ドル(日本円約6兆8320億円)と、すでに非常に高額ですが、2028年には8289億5000万ドル(約118兆7640億円)にまで伸びるとも言われており、世界中の企業がこれを支える技術開発に注力しています。

メタバース空間では、それぞれの独自のルールやカルチャーを持った形で機能していくためさまざまな独自性を持ったプラットフォームが誕生することが予想されます。それぞれのメタバース空間に合ったコンテンツや、テクノロジーを開発する企業が、新たなビジネスチャンスを生み出すと言った事例も出てくることでしょう。

しかし、現段階では、デバイス等の制約も多く一般的には浸透していないメタバースですが、将来的にはメタバース上でビジネスやショッピング、ゲーム、旅行などが誰でも体験できるようになり「メタバース空間で生きている」と言う人も中には現れると考えれらます。特に日本は、ゲームやアニメをはじめとする優良なコンテンツと高い技術力を持っていますので、日本企業ならではの活躍が期待されています。

メタバースが広く知られるきっかけとなったMeta社は「メタバースの構築には、人工知能の大きなブレークスルーが必要だ」と明言しており、現在も多くのメタバース用AIアプリケーションを開発しています。以下の3つの項目は、メタバースの領域でAIのようなテクノロジーが活用ができるかを分類したものになります。

1.コンテンツ、クリエイティブ領域

2022年に入り、AIアートツールで生成された画像が、SNSのタイムラインを埋め尽くしているように、これからは3D画像やアニメーション、音声、メタバースアートワークの多くもAIによって生成されるようになるでしょう。今後は、プロダクトデザインだけでなく、輸送、ヘルスケア、テレコミュニケーション、エンターテインメントなど、さまざまな1兆ドル規模の産業に影響を及ぼし、最終的には、物理的な世界よりも仮想的な世界で作られるコンテンツの方が多くなるとまで言われています。

BuilderBot:
Metaが発表したメタバースにおける創造性を刺激する新しいツール。音声コマンドだけで仮想世界に物を生成したり、取り込んだりすることができるというツールです。

Inside the Lab: Building for the Metaverse With AI

NVIDIAのニューラルグラフィックツール:
ゲーム、メタバースなどの仮想世界、プロダクトデザイン、ビジュアルエフェクトなどのシーンを構築するための3Dオブジェクトの制作は、今までは熟練のアーティストが行なっていましたが、今後はより多くの人が簡易的に3Dオブジェクトや体験をデザインできるようになると言われています。
例えば、メタバース空間では、バーチャルな工場で働くロボットは、見た目だけでなく、重量やブレーキ性能も物理的なロボットと同じである必要があります。これらのSoftware Development Kit(ソフトウェア開発キット)は、デザイナーの創造プロセスを容易にし、デザインのプロではない何百万人ものユーザーが3Dコンテンツを容易に作成できるようになります。

https://blogs.nvidia.com/blog/2022/08/09/neural-graphics-sdk-metaverse-content/

ニューラル・グラフィックスとは、AIとグラフィックスを融合させ、データから学習するグラフィックス・パイプラインを高速化する新しい分野の技術です。AIを活用することで、成果を向上させ、デザイン選択の自動化、アーティストやクリエイターの想像を超えた新たな可能性を提供します。

2.CX領域、インクルージョン領域

AI翻訳:現在、世界の人口の約半数が、自分の好きな言語でオンラインコンテンツにアクセスできないと言われており、FBが開発したNo Language Left Behindモデルは、すべての書き言葉間の翻訳が可能な単一システムです。また、ほとんど口語で話される言語であっても、すべての言語間で瞬時に音声合成翻訳を行うAIシステム、Universal Speech Translatorにも取り組んでいます。

Project CAIRaoke:今年2月にMetaが発足させた「CAIRaoke」(発音は英語の「Karaoke(kɑ`ːrəóuki )」とほぼ同じ)というプロジェクトでは、将来的にメタバースでの案内役・キーマンとなる「AIアシスタント」の開発や、”公園”や”ビーチ”と言うだけで仮想空間内の景色を変えることのできる「音声物体ジェネレーター」、VR内で相手の話していることを即座に翻訳する「万能翻訳」といった機能をAIで構築することを目指しています。

Meta社の拡張現実製品のユーザーは、心で操作する「バーチャルハンド」を使って、テキストメッセージを送ることができるようになるとザッカーバーグ氏は述べているように、脳波や目の動きなど体のサインを感知して、指示を送りメッセージを表示することも可能になると考えられます。

3.リスク領域

メタバースでは世界のルールをひとつの企業や団体が決めることはなく、一つのユニバースとして色々なメタバース空間が生まれ、独自のエコシステムや経済圏を作り上げていくと考えられています。すなわち、遊びのルールを決めたり、倫理規範を実施したりする人がいないため、不公平なAIの問題はさらに深刻になります。

今後はメタバースを取り締まる何らかの法律が必要である一方で、誰も集権的に管理はできないため、以下のようなリスク領域でより拡張性が高い形でリアルタイムに自動で対応できる仕組みづくりのためにもAIのようなテクノロジーが活用されると考えられます。

例えば、世界中の子どもたちに流行しているゲーミングプラットフォームのRobloxが、今後の課題として挙げているのが、Trust and Safety(信頼と安全)です。ブルームバーグが報道した2021年3月の情報によると、Robloxでは、1700人もの「信頼と安全チーム」を外部に擁しており、これはRobloxの従業員数830人の2倍以上にものぼります(※Robloxの2022年9月時点の公式発表では従業員は1200人以上)。同社は前年の株式売り出し目論見書に、2020年の最初の9カ月間で、この「信頼と安全チーム」のメンバーが6800万件もの画像・音声ファイルを確認したと記しています。

プラットフォームを運営する上で、Facebookのようにコンテンツをモニタリングし、子どもたちが安心して使えるように安全性を担保することが何よりも大事になると言えます。例えば、ロブロックスの信頼と安全のページを見ると、以下のような機能があると発表しています。

Robloxの信頼・安全チームには多くの機械学習エンジニアが在籍していることでも有名です。信頼と安全を実現するためには、AIなどのテクノロジー活用が不可欠であることがうかがえます。

教育分野で活用が期待されるメタバース

教育業界はコロナでデジタル化が進みましたが、Zoomなどを使った小学校低学年の授業をデジタルで行うことには非常に課題が多く残っていました。しかし、立体ディスプレイ、VR・ARヘッドセット、ハプティクス(利用者に振動を与え「実際にモノに触れているような感触」をフィードバックする技術)、視線追跡カメラなどの導入で教育ビジネスのデジタル化はますます進むと考えられます。

・数学の授業

ClassVRというツールは、生徒が拡張現実を使って図形を探索し、手に取って調べ、問題解決を支援するための実践的な方法を提供しています。理解を深め、コンピュータ・リテラシーのスキルを向上させるために、生徒たちはペイント3Dで独自の3D形状を構築し、拡張現実で品質チェックを行うことができます。

・歴史の授業

マヤ遺跡をメタバースなどで仮想体験することで、子どもたちはマヤ文明とその歴史的位置づけをより深く理解することができるようになるでしょう。マヤ神殿の隣に立つとどんな感じなのかまで3Dで遺物を体験することによって、実際に見たもののように感じたことを説明し、議論することが可能になります。このように、学習への直接的、体験的なアプローチを提供し、勉強しているトピックへのより深い理解を可能になります。

医療現場で活用されるメタバース

遠隔診療が浸透してきた今、カウンセリングやサイコセラピー、マインドフルネスや瞑想などの領域でもテクノロジーを活かしたイノベーションが期待されています。筋電センサー、体積ホログラフィックディスプレイ、没入型ヘッドセット、投影・追跡カメラなどを組み合わせることで、これまでオンラインでは不可能だったサポート、刺激のシミュレーションが実現します。

・VR セラピー

Oxford VRは、2017年に英国オックスフォード大学の教授が中心となり設立されました。これまで強迫性障害や高所恐怖症は、投薬やワークブックなどで治療されてきましたが、途中で治療をやめてしまうことが多いという問題がありました。そこで同社では、VR技術を用いて仮想空間をつくることで、手軽に成功体験を重ねて症状を軽減させるという手法を開発しました。高所恐怖症の患者が2時間ほどOxford VRの治療を受けただけで、症状が68%も軽くなったという実績もあるといいます。また、同社では、VRを介して自動化された心理セラピーを提供する「gameChange VR(ゲームチェンジVR)」というプログラムを開発しています。このプログラムは、バーチャル上でコーチの助けを借りてユーザーを支援するもので、実際の人間は介在しないため、より多くの人が必要なサポートを受けることができます。
社会が不安定な状況が続き、メンタルヘルスサービスに対する需要が急増する一方で、今後どの業界でも人材不足が続く可能性が高いことを考えると、このようなサービスは今後も普及していくことでしょう。

メンタルヘルスで注目される「VRセラピー」の効果とは

 

テクノロジー領域で注目の2つのトレンド

「NFT(非代替性トークン)」の領域での起業も増えています。NFTの市場規模は、2021年には約1兆円に到達し、これから2030年には2319億8000万ドル(約32兆387億円)に達するとの予測も発表されています。

NFTは、クリエイターやアーティスト、IPホルダーにとってコンテンツや権利の在り方を従来のものと変える大変重要な技術です。エンタメ大国の日本にとっては非常に親和性の高いと言えるでしょう。2021年の流行語にもノミネートされるように「推し活」が流行しており、NFTを使うことで、ファン体験が大きく変わることも期待されています。

NFTのマーケットプレイスといえば、最大手と言われる「OpenSea」が海外・国内ともに有名ですが、OpenSeaなどのNFTマーケットプレイスでは、決済通貨がイーサリアムなど仮想通貨のみとなっており、日本円を使えないところも多くあります。逆に日本のNFTマーケットプレイスでは日本円にも対応していることが多いです。NFTとともに、日本でも仮想通貨がも少し流通していくと、よりNFTの市場全体として盛り上がっていくことになるでしょう。

また、ESG・SDGsのような領域とテクノロジーも非常に親和性が高いことで知られており、注目のトレンドの一つです。
脱炭素や電力消費の効率化といった世界共通の課題を、AIなどのテクノロジーを使っていかに解決していくかという点でクラウドのデータセンターを運営する、Google傘下のDeepMindの事例は面白いです。通常、データセンターでは、熱を持ったサーバーをクーラーで冷却する必要がありますが、DeepMindではそこにAIを用いて、サーバーが熱くなる時間帯を特定し、その箇所を重点的に冷やすことに成功しました。結果、サーバーの電力消費を40%も削減できたということです。

弊社でもこの領域で、リンガーハットと協業し「食品の廃棄ロスの削減」に関する取り組みを実施しました。飲食店は、コロナ禍で多大なダメージを受けており、特に最初の緊急事態宣言発令時は消費者の動きがこれまでと180度変わり、従来の需要予測モデルが一切使えなくなったため、それ対策した精度の高いモデルを開発しています。
これまでは、在庫切れを危惧する飲食店などの上流工程の企業が多めに発注を行い、サプライヤーサイドも余剰在庫を多少抱えてでも、その要望に応じるという構図になっていました。今後は、精度の高いAIの需要予測を活用していくことで、バリューチェーン全体を効率化し、誰にも皺寄せがこないサステナブルな形で廃棄ロスを削減していくことが期待されあます。

リンガーハットAI導入事例:緊急事態に対応する需要予測システム

 

終わりに

いかがでしたでしょうか。いずれもまだまだ発展していく領域ですが、ビッグテックを中心とした大企業が巨額の投資を行いサービス開発に努めている状況からも、取り巻く技術の進化や、新しいプラットフォームの進歩は今後もさらに加熱していくことが予想できます。変化の大きい時代において、日々新しいテクノロジーによって我々の生活がどのように変わっていくのか、未知数な部分が多いですが、引き続き注目してみてはいかがでしょうか。

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事及び東京都AI戦略会議 専門家委員メンバーに就任。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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