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文具メーカーコクヨが目指す体験を軸にしたDXとは

2022/10/27 メディア掲載実績, 日経クロストレンド 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

スマホで勉強する学生たち 文具の老舗コクヨが挑むデジタル変革 – 日経クロストレンド連載

ポストコロナを迎える今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。人工知能(AI)開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。今回はコクヨ経営企画本部DXデザイン室、室長の三宅健介氏を迎え、デジタルとアナログを掛け合わせた同社のDXについて議論した。(対談は2022年9月13日)

AIビジネスデザイナーの石角友愛氏がコクヨ経営企画本部DXデザイン室長の三宅健介氏と対談した

石角友愛氏(以下、石角) 私の住んでいる米国では日本の文具が大人気で、扱う店に行くとコクヨの商品もたくさん見かけます。コクヨは1905年創業の老舗メーカーですが、最近はDXに積極的に取り組まれているとお聞きしました。しかも「デジタルトランスフォーメーション」ではなく「デジタルエクスペリエンス」と捉えているそうですね。その背景を教えてください。

三宅健介氏(以下、三宅) まず現状を少し説明したいと思います。一般的にはコクヨというと文房具のイメージが強いと思いますが、実はオフィス家具の販売、オフィスデザイン、オフィスの消費財通販の「カウネット」、インテリアショップの「アクタス」など、さまざまなブランド・事業を展開しています。

これまではそれぞれがバラバラに運営されている状態でしたが、それらを企業向け(toB)の「ワークスタイル」と、一般消費者向け(toC)の「ライフスタイル」の2つに捉え直し、そのスタイルを提案していくことを目指しています。売り上げ規模については、現状の3000億円から2030年までに5000億円へと拡大することを目標に掲げています。

石角 「コクヨ=文房具」のイメージがあったので、モノではなくスタイルで考えられているとは意外です。そこに至った背景には、やはり市場の変化が影響しているのでしょうか?

三宅 そうですね。新型コロナウイルスの感染拡大前からオフィスでペーパーレスが進み、学校でも少子化やスマートフォンでの勉強など、環境に変化が起きていました。さらにコロナ禍でリモートワークやリモート授業が広まったことで、文房具市場はさらに縮小していると考えている方もいらっしゃると思います。

ですがお客さまの働き方や学習の仕方が変わったことで、そこに新たな課題も生じているはずです。それを解決していくのが私たちの役目。まだまだビジネスに伸びしろがあると考えました。

石角 なるほど。一般的なDXは社内のデジタル化のほか、デジタルを使ってビジネスモデルや社員のマインドセットを変えるという、いわば「内向き」の意味で使われています。一方で御社の場合、コロナ禍で産業や生活のデジタル化が加速するなかで、お客さまにデジタルを使った体験を提供していくという「外向き」のDXを考えている。だから「デジタルエクスペリエンス」という言葉を使っているのですね。

三宅 おっしゃる通りです。当社はこれまで主にアナログなビジネスを展開してきました。ですがお客さまの生活が、よりデジタルを前提としたものに変化していることから、私たちもデジタルとアナログを掛け合わせた新たな価値をつくり出し、それを提供していくことが必要だと考えました。

そこで事業部とともにデジタルなエクスペリエンスをつくり出すチームとして、22年1月に「DXデザイン室」を発足させました。

石角 そういう経緯だったのですね。やはりDXについてはお客さまからのご要望も多かったのですか?

三宅 そうですね。お客さまからのご相談も、コロナ禍におけるデジタルシフトに関する内容が増えましたし、生活の中でもオンライン授業など子どもの勉強方法の変化を目にすることも多かったですね。そこでお客さまが抱える困りごとを解決していくために、コクヨとしてビジネスのやり方や価値の発揮方法、働き方を含めて見直していこうという議論に発展していきました。

コクヨ経営企画本部DXデザイン室長の三宅健介氏。2013年にコクヨへ入社。ファーニチャー事業や海外事業の戦略立案を担当。その後、アマゾンジャパン(東京・目黒)でEC事業の戦略立案や事業責任者を経て、21年6月よりコクヨに復帰

DX推進には事業部からの信頼が大事

石角 DXデザイン室の具体的な取り組みについて聞かせてください。御社は事業領域を「働く」、「学ぶ・暮らす」のドメインに区分されていますが、DXデザイン室は主にどの領域に携わっているのでしょうか?

三宅 かなり幅広いですね。私たちはアナログにデジタルを掛け合わせて、お客さまに新しい価値を提供するという観点で動いています。例えば、空間価値領域ではメタバースを絡めた働き方やデジタルとアナログをつなぐ商材などを検討しています。一方、新しいビジネスにリソースを割くためには、足元のビジネスの効率化も進めなければいけません。そこでさまざまなコミュニケーションツールやSFA(営業支援システム)を生かした業務改善についても併せて考えています。まずは自分たちで試してみて、将来的にはお客さまにもご提案できるようにしていきたいです。

石角 新しいビジネスの提案と既存ビジネスの改善を両輪で進めているのですね。ただ一般的には、新しいビジネスは一定の売り上げになるまでには時間がかかります。そのため既存のビジネス、特にこれまで会社の売り上げに貢献してきた部門への配慮も欠かせません。この部分で苦労されている企業も多いと思いますが、DXデザイン室ではどのように社内調整を図っているのですか?

三宅 オーソドックスなやり方ですが、小さな成功事例を積み上げる、いわゆる「クイックウィン」を重視しています。

石角 クイックウィンにはどんなものがあるのでしょうか。

三宅 データ活用です。当社ではデータ分析をする際、複数の基幹システムからデータを取り出し、それを分析してExcelにまとめていました。ただこの方法だとデータの収集からアウトプットまでに1週間ほどかかってしまうこともあります。そこでデータ自体を取り出しやすい形式にして基盤として集めておくことで、データ分析を効率化する取り組みを進めています。

データを処理している人たちの仕事を楽にすることで事業部との共存関係をつくり出すことができ、その後大きなテーマに取り組む際に協力が得られます。このような形で既存事業のメンバーとの関係を構築していきたいと思っています。

石角 確かに、データ活用はほとんどの企業、部門が何らかの課題を抱えているはずです。データを活用して売り上げアップにつながるのであれば、既存のビジネス部門も協力してくれるでしょうし、新規ビジネス部門としては連携の口実になります。まさに真のDXにつながりますね。

「リスキル」プログラム受講生の8割が事業部から

石角 データ活用については、コクヨの社内で「デジタル推進タスク」というプロジェクトがあると聞きました。こちらはDXデザイン室と関連があるのでしょうか?

三宅 現在は関連があります。実はデジタル推進タスクはDXデザイン室よりも前に立ち上げています。もともとは情報システム部のメンバーが、「会社がデジタルを軸に事業領域拡大を目指すなか、情報システム部もその変革に関わりたい。まずは自分たちで実験・体験してみよう」という課題意識を持ったことから始まっています。そこで情報システム部が、自分たちでクラウドを触ってみたり、データ分析スキルを向上させたりしようと20年に草の根的に活動をスタートしました。それが「デジタル推進タスク」です。

石角 一般的に、情報システム部は、顧客や社内からの問い合わせに対応する仕事をすることが多いですが、自発的にデータ活用に向けて新しい付加価値をつくり出すために動き出したというのは理想的ですね。

コクヨが品川のオフィスに構築している働き方の実験場「THE CAMPUS」。詳細は後編で紹介する

三宅 ただ最初は情報システム部だけで活動をしていたものの、実際にお客さまの課題を解決していくためには事業部側にもデータ活用の必要性を理解してもらい、一緒に議論をしていく必要があると気づいたんです。とはいえ、社員も何かしらのゴールがなければ、なかなかデータ活用について学ぼうとは思わないでしょう。そこで学習コンテンツの配信など、事業部に対するAI・ディープラーニング関連のG検定やITパスポートなど、資格取得をサポートするプログラムを始めました。

石角 事業部からどの程度が参加したのですか? 参加に対して何かインセンティブを設けたのですか?

三宅 プログラムを受講した人のうち、8割ほどが事業部側のメンバーですね。年代は20~30代が多いかと思いきや、40~50代の方も受講しています。インセンティブは特に用意していないのですが、みなさん自発的に受けてくれています。恐らく、お客さまの課題解決のためには自分たちもIT知識を身に付けておくべきだという意識がもともとあったのでしょう。

当社には大事にしている価値観があります。それが「共感共創」「体験デザイン」「実験カルチャー」です。「共感共創」とは、お客さまが抱える困り事について、お客さまと対話しながら解決策を考えていこうということ。「体験デザイン」とは、単純にモノを提供するのではなく、お客さまの体験をよく考えて、自分たちにできることを見つけようということ。「実験カルチャー」とは、まず小さく実験したり、自分たちも体験してみたりして、そこから解決策を考えようということです。

石角 お客さまの声にきちんと耳を傾けて、それに対して自ら実験して答えを探す。PDCA(計画・実行・評価・改善)を回すカルチャーは素晴らしいと思います。そのカルチャーは御社に昔からあるのでしょうか? それとも醸成していったのでしょうか?

三宅 最近はパーパス(存在意義)を掲げて、それに沿った経営を進め、そこに共感した社員が集まるというのがトレンドだと思いますが、弊社の場合は、昔からそういう会社だったのだと思います。

アマゾンからコクヨに再就職、独自の視点でDX推進

三宅 実は私はコクヨに勤めた後、いったんアマゾンに転職し、またコクヨに戻ってきているんです。コクヨの社員はみんなお客さまに真摯に向き合い、その課題を解決するために真剣になっています。お互いに助け合い、楽しみながら進めていくという風土もあります。私はそれが好きで、コクヨに出戻らせてもらいました。

石角 三宅さんのように一度転職して戻ってこられる方は多いのですか?

三宅 いえ、少ないですね。新卒で入社して定年まで勤め上げるという、日本的な働き方をしている人が多いといえます。ただ、長年同じ会社に勤めていると、どうしても外の世界の情報やトレンドに対する感度が下がり、従来の自分たちのやり方で進めようとして、うまくいかないケースがでてきてしまいます。とはいえITベンダーやコンサルティング会社に丸投げすれば、社内になかなか知見がたまらない。

そこで専門的な知識を持ち、当社のパーパスやカルチャーに共感してくれる人に入社してもらって、プロパー社員と一緒に課題解決をしていければと思っています。プロパー社員にとっても、新しい知識やスキルと出合うリスキリングの機会になりますからね。私もデジタルについて幅広い知識があるわけではありませんが、こうすればいいのではないか、という仮説を立てて日々実験をしています。

石角 三宅さんのアマゾンでの経験のうち、DXデザイン室長をするうえで役に立った部分はありますか?

三宅 すべての意思決定において、データを活用してファクトベースで考えると、判断のスピードと正確性が上がります。またそれによって、権限が現場に移っていきます。まずデータから話を進めるという点は、アマゾンでの経験が生きていると感じますね。

(後編につづく)

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00509/00023/

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

※石角友愛の著書一覧

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