アメリカ最新AI情報満載!セミナーや講演情報など交えて毎週水曜配信 無料ニュースレター 下記へメールアドレスを入力し無料で登録
CLOSE
パロアルトインサイト/ PALO ALTO INSIGHT, LLC.
メディア掲載実績MEDIA ACHIEVEMENTS
パロアルトインサイト/PALO ALTO INSIGHT, LLC. > メディア掲載実績 > 日経クロストレンド > 高岡氏はどうやってネスレを「マーケティングの会社」へ変えたか

高岡氏はどうやってネスレを「マーケティングの会社」へ変えたか

2023/02/01 メディア掲載実績, 日経クロストレンド 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

高岡氏はどうやってネスレを「マーケティングの会社」へ変えたか – 日経クロストレンド連載

ポストコロナを迎える今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。AI(人工知能)開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏が、トップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。今回は元ネスレ日本の社長兼CEO(最高経営責任者)で、現在はケイアンドカンパニー(兵庫県西宮市)社長の高岡浩三氏を迎え、ネスレ日本が直面していた問題やイノベーションに対する考え方について議論した。(対談は2022年11月24日)

元ネスレ日本の社長兼CEO(最高経営責任者)で、現在はケイアンドカンパニー社長の高岡浩三氏とAIビジネスデザイナーの石角友愛氏が対談した

ネスレのイノベーションは1つだけだった

石角友愛氏(以下、石角) 高岡社長は講演や書籍の出版などを通して、イノベーションについて発信されています。このイノベーションに関する考えは、ネスレ日本時代に培われたものなのでしょうか。

高岡浩三氏(以下、高岡) そうですね。ただネスレ自体は世界の企業時価総額ランキング20位前後に位置しているものの、自ら起こしたイノベーションは40年以上前に考案された「ネスプレッソ」だけなのです。

そのためネスレでは次のイノベーションの創出が大きな課題になっていました。ただ、食品は、地域によって消費者が求めるものが大きく変わるというローカライズの問題があります。スイス本社の指示通りにしても、日本でイノベーションを起こすのは難しいと考えていました。

高岡浩三氏
ケイアンドカンパニー代表取締役元ネスレ日本社長兼CEO。1983年にネスレ日本入社。ブランドマネージャーなどを経て、ネスレの製菓子会社のマーケティング本部長として「キットカット受験生応援キャンペーン」を成功させる。2010年、ネスレ日本副社長飲料事業本部長として「ネスカフェ」の新ビジネスモデルを構築。同年11月、ネスレ日本社長兼CEOに就任。「ネスカフェ アンバサダー」などの新しいビジネスモデルで高利益率を実現する。20年3月にネスレ日本退社。著書に『ゲームのルールを変えろ』(ダイヤモンド社)、『マーケティングのすゝめ』(フィリップ・コトラーとの共著・中公新書ラクレ)など

石角 世界的企業であるネスレでも1つしかイノベーションがなかったというのは意外です。ただそれは既存事業できちんと利益が確保されていて、新たにイノベーションを起こす必要がなかったともいえるのではないでしょうか。なぜイノベーションを起こす必要があると考えたのですか。

高岡 一番の問題は、事業のポートフォリオが古くなっていたことでした。そもそもインスタントコーヒーはお茶をよく飲む国でよく消費されていて「ネスカフェ」の販売量も日本やイギリスが多い。ただ日本でも、私が社長になる前の25年ほど、売り上げは右肩下がりの状態でした。「キットカット」などのチョコレート菓子もありますが、チョコレートはさまざまなメーカーが商品を発売していて競争が激しい。だからこのままではいけないという危機感を抱いていたのです。

石角 日本ではインスタントコーヒーはオフィスでも家庭でもよく飲まれています。それでも消費量は下がり続けていたのですね。

高岡 やはり人口減少が大きく影響していましたね。日本はこれまで移民の受け入れに積極的でなかったこともあり、先進国の中でも早く人口減少のフェーズに入りました。「人口が減る=胃袋の数が減る」ということであり、食品業界としては死活問題です。そのため日本の大手食品企業の中には、海外での販売で利益を確保していたり、食品以外の分野で稼いでいたりするところもあります。ただネスレ日本は海外輸出ができないため、国内で利益を上げて生き残っていかなければならなかった。

石角 欧米でも移民の受け入れを制限する動きがあり、今後各国で人口は減少していくでしょう。日本で売り上げを伸ばすことができれば、ネスレのグローバルでも参考になりそうですね。

高岡 ただ先例がないため、どうすればそれが実現できるかなんて誰も知りませんでした。だからこそやり遂げたかった。市場が縮小する中で売り上げを伸ばすためには「値上げする」か「売れる商品を作る」しかありません。そのためには20世紀型のマーケティングから脱して、21世紀型のマーケティングによりイノベーションを起こすしかないと考えました。

ネスレ日本を「マーケティングの会社」へ転換

石角 ネスレ日本を立て直すために、社長としてまずどういったことに取り組んだのですか。

高岡 11年に社長へ就任してすぐ、社員に「マーケティングの会社になろう」と訴えかけました。一般的に外資系企業ではマーケティングが重要視されていて、各国のトップもマーケティング部門の出身者であることが多いですよね。ところが日本では営業や製造部門の出身者がトップに就く傾向があります。

そもそもマーケティング部門を持っていない企業も多く、部門があっても宣伝や市場調査しかしていないケースもある。イノベーションを事業部だけでなく間接部門でも起こしていかなければいけないと思っていたこともあって、マーケティングも一部に任せるのでなく、全社員で本気で取り組んでいこうと考えました。

石角 ですがそれまでマーケティングに携わってこなかった部門の方からすれば、マーケティングもイノベーションもピンとこないのではないかと思います。

高岡 確かに、マーケティングとは何かと聞かれても答えられないビジネスパーソンは多いでしょう。意味自体はマーケティングの本に書かれていますが、それを暗記しても現場では使えない。一方、社内ではよく「イノベーション」と「リノベーション」という言葉が使われていましたが、そちらも明確な定義がありませんでした。

そこで全員が理解しやすいように考え出した定義が「マーケティングとは、顧客の問題解決をすることにより、付加価値を生み出すプロセスである」というものです。

これに基づきマーケティングを進めていくためには、まず顧客の課題を発見しなければいけません。課題には2つの種類があると考えていて、一つが「コンシャスプロブレム」です。顧客自身が「問題がある」と認識していて、市場調査をすると浮かび上がってくる傾向があります。これを解決することが「リノベーション」です。

もう一つは「アンコンシャスプロブレム」です。顧客が問題だと認識していない、または解決を諦めているもので、市場調査をしても判明しません。こちらの解決が「イノベーション」に当たるのです。

石角 「諦めている問題」という言葉はとても興味深いですね。「諦めている」は、どんな状況を想像すればいいのでしょうか。

高岡 EC(電子商取引)を例に考えて見ましょう。ECでは世界の売り上げの半分を米国と中国が占めています。国土が広くて人口密度が低いため、日本のように住宅地のすぐそばにコンビニやスーパーがあるわけではないという事情が影響しています。近隣に店がないことは、その地域の方にとって自分の力ではどうにもならない問題、すなわち「諦めている問題」でした。

それを解決する手段としてECが普及したのです。結果、郊外や山間部であっても十分な品ぞろえの中から好きなものを選んで買えるようになりました。

石角 ECによって人々が諦めていた問題を解決した。まさしくイノベーションですね。

「1人でも気軽に楽しめるバリスタ」を開発

コーヒーメーカー「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」。2021年末時点で累計620万台を出荷しているという

石角 ネスレ日本のイノベーションといえば「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」が思い浮かびます。これはどういった経緯で誕生したのでしょうか。

高岡 当時、日本ではネスカフェの売り上げが落ちていました。レギュラーコーヒーが普及したことでインスタントコーヒー一辺倒だった時代が終わり、ネスレ日本もスイス本社も「これからはレギュラーコーヒーなのだ」とネスカフェの復活を諦めていました。ところが、実際にはスーパーで販売されているようなレギュラーコーヒーの挽(ひ)き豆パックも、売り上げが落ちていたのです。

石角 消費者がインスタントコーヒーからレギュラーコーヒーに乗り換えたことが根本原因ではなかったと。

高岡 そういうことです。背景には自分たちが気づいていない「新しい現実」があるはずだと思って調べてみると、世帯数は年々増えている一方、1世帯当たりの人員が減少している事実に気づいたのです。

かつての日本では親と子ども、祖父母が同居し、一緒にテレビを見ながらネスカフェを飲んでいた家庭も多かったでしょう。ところが1~2人の世帯が増え、共働き家庭も増えたことで、家族みんなでコーヒーを飲む機会は減っていた。自分のためだけにお湯を沸かしてコーヒーをいれるのは面倒くさいですよね。

そこでコーヒーの代わりに、栄養バランスや健康などを考えて野菜ジュースやヨーグルトドリンクを飲むようになっているのではないかと考えたのです。そこから自分のために一杯ずつおいしいコーヒーをいれるための「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」が生まれました。

石角 売上低迷にはコーヒー以外のドリンクに顧客を奪われていたという事実があったとは、驚きです。そもそも世帯数の変化を調べるに至った過程が気になります。

高岡 自分の身の回りのことから考えたのです。私は長男ですが、両親と同居はしていませんでしたし、子どもはすでに結婚して家を出ていました。私自身が2人世帯になったこともあり、日本全体で世帯人員に変化があるのではないかと思ったのです。

日本にはデータがあれば何か分かると思っている企業が少なくありませんが、こういった仮説なしにデータを集めても無駄になるだけです。

石角 20世紀型のマーケティングをしていたら、単純に市場調査をして、ほかのコーヒーメーカーとのシェア比較で終わっていたかもしれませんね。「新しい現実」に気づいたからこそ、イノベーションにつながったのですね。

トップダウンで社員に考える時間と機会を与える

かつて勤務していた米グーグルではあらゆる業務プロセスで効率化を重視する文化があったと話す石角氏

石角 AIや、あらゆるモノがネットにつながるIoTによって広がる第4次産業革命も「新しい現実」といえると思います。ここからイノベーションやDXにつなげるためには何が必要なのでしょうか。

高岡 産業革命とイノベーションは密接に関係していると思っています。第1次から第3次までの産業革命では、その時代の人々が「諦めている問題」が解決されてきました。第4次産業革命でも、20世紀型のイノベーションではできなかった問題解決が実現できると期待しています。

私はDXとは顧客が「諦めている問題」をデジタルの力で解決することであると考えています。ビジネスにおいては、それにより稼ぎ方も変わってくるでしょう。だからDXを進めるためには、どのようにして問題を発見するかが大事なのです。

石角 さまざまな企業の方とお話をしていると、そもそも何が問題かを分かっていないケースが多いと感じます。諦めている問題を見つけるために、ネスレ日本で実施されたことがあれば、教えてください。

高岡 問題を発見するためには、徹底的に考えることが必要です。そのためにはまず、考える時間をつくらなければいけません。そこでプレゼンテーションのための資料作成など、「作業」を減らしました。私が社員から説明を受ける際には、資料は使わず、ほとんど口頭で説明してもらっていましたね。社内のことで社長がまったく関知していないということは普通ありませんからね。会議の議事録や営業日報の作成も廃止しました。

石角 営業日報もですか? それで業務に支障はなかったのですか。

高岡 ええ。そもそも私が営業担当をしていた時代、日報は月末にまとめて書いていました。当時から日報をつくる意味がないと思っていたので、社長就任のタイミングでやめさせました。

石角 その決断に驚いた社員も多いと思います。ですがおっしゃるように、日本企業では無駄な作業が多いと感じます。私が米グーグルに勤めていたとき、上司や同僚はみんな二言目には「これってやる必要ある?」「どうやったらもっと良くなる?」と言っていましたね。常に効率化を考えて仕事しているという点は、日本との大きな違いだと感じます。

高岡 ルールに従うことを優先して育ってきたために「とりあえず議事録はつくっておこう」「日報を書いておけば安心」となってしまうのでしょうね。自分の頭で考えないクセがついてしまっている。だからトップダウンで社員に考える時間と機会をつくらなければ、イノベーションは起こせないと思います。

(後編につづく)

(写真提供/ケイアンドカンパニー、ネスレ日本、パロアルトインサイト)

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00509/00029/

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

NEWSLETTERパロアルトインサイトの
無料ニュースレター

毎週水曜日、アメリカの最新AI情報が満載の
ニュースレターを無料でお届け!
その他講演情報やAI導入事例紹介、
ニュースレター登録者対象の
無料オンラインセミナーのご案内などを送ります。

BACK TO MEDIA
« »
PAGE TOP