AI(人工知能)開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。元ネスレ日本代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の高岡浩三氏との対談の後編は、ネスレ日本で実施した「イノベーションアワード」、現在取り組むDX(デジタルトランスフォーメーション)アドバイス事業などについて議論した。(対談は2022年11月24日)
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高岡氏はどうやってネスレを「マーケティングの会社」へ変えたか
石角友愛氏(以下、石角) ネスレ日本の社長として、資料作成などの作業を減らして考える時間を持てるように改革を進めたというお話を伺いました。そこから組織としてイノベーションを起こすために、どんな仕組みづくりをされたのですか。
高岡浩三氏(以下、高岡) 代表的なものが「イノベーションアワード」ですね。イノベーションを起こすためには、顧客が「諦めている問題」を発見することが必要です。顧客というと、取引先や消費者をイメージしがちですが、経理などの間接部門にも社員という顧客がいます。そこで社内の全部門、およそ3000人を対象に社内コンテストとして「イノベーションアワード」を開催しました。それぞれの顧客が諦めている問題は何かを考え、仮説を立て、ソリューションを考えてもらうのですが、それだけではアイデアコンテストで終わってしまうため、自ら事業化に向けた小規模なテスト(リサーチや検証)をしたうえで応募してもらいました。
石角 アイデアコンテストはよくありますが、実際にテストまでさせるというのは珍しいですね。
高岡 テストの費用には上限を設けず、すべて会社が支出しました。その費用1億円を捻出するために、当時実施していた社内研修はすべてやめました。イノベーションアワードの方が社員研修より役に立ちますからね。
石角 社内研修の廃止とは、思い切ったことをされたのですね。でもまず自分でスモールテストをしてみるというのは、DXを進めるうえでも非常に大事な部分だと思います。
私はDXには、何をしたらいいのか分からず焦るだけの「FOMO(フィアー・オブ・ミッシング・アウト、乗り遅れる恐怖)の壁」、実証実験を繰り返すだけで事業化に至らない「POC(プルーフ・オブ・コンセプト)の壁」、やりたいことはあるものの社内リソースが集まらない「イントレプレナー(社内起業家)の壁」の3つの壁があると考えています。
よくDXに関して「上司からOKがもらえないので進められない」という相談をいただくのですが、論より証拠、50ページのプレゼン資料をつくるよりも、サンプルをつくってデータを集めてうまくいくことを立証する方がいいと思っています。イノベーションアワードは、まさしくそれを実行されているのですね。
高岡 私自身、営業担当をしていたときには、よく自分の責任範囲でテストをしていました。それでトップセールスマンになることができた。まずテストをするというのは起業家も同じです。投資家から資金を集めようとしたら、プレゼンテーションだけではなく、サンプルをつくり、テストして、その結果を示す。その方が説得力は高まり、賛同してもらいやすい。私が運営している「高岡イノベーション道場」でも、上司に提案しても「これでいくらもうかるんだと返される」という相談を受けますが、やってないのだから分かるわけがない。まずはスモールテストをすべきです。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
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