「次々と新しい技術が生まれるAI時代を生き抜くためには、4年に1度程度の学び直しが必要になる」。AIビジネスデザイナーの石角友愛さんはこう言います。では、どのようにすればいいのか。石角さんは求められる人材像と学び直しの方法に焦点を当てて『AI時代を生き抜くということ』(日経BP)という本にまとめました。書籍の一部を編集して紹介します。
1回目と2回目では、AI時代に求められる人材像「π型人材2.0」と、そこを目指して自分のスキルを増やしていく「LEARN+Aステップ」を解説しました。前回からは自分の保有しているスキルを可視化して把握するE(Evaluate)のステップの解説。今回は具体的なケースを見ていきます。
ここでは、大手飲料メーカーの営業部に8年間所属し、中堅企業に転職して4年になるAさんを例に取り上げて考えてみます。
Aさんは飲料メーカーでの営業を経て転職。2社目の中堅IT企業では、新規事業開発部のメンバーとして、新たなソフトウエア製品を企画・推進する業務に従事しています。営業経験を生かし、新しいビジネスチャンスを見つけ出し、それを具現化するための戦略立案を担うポジションです。
このAさんのスキルセットを整理してみましょう。Aさんの職歴から、どのようなスキルセット(ドメインスキル)が備わっていると考えられるか、チャットGPTを使って壁打ちをしましょう。チャットGPTへのプロンプトは「仕事における経験やスキルについてまとめたいと思います」と最初に宣言した後、「役職」と「職歴」と「条件」を入れます。
Aさんのドメインスキルを棚卸しする際のプロンプトの例、さらにチャットGPTが出力した結果を次のページに示しました。これを見ると、Aさんの経歴とスキルは主に4つのカテゴリーに分けられることがわかります。
>仕事における経験やスキルについてまとめたいと思います。
#役職
・法人営業(飲料)
・販売促進
・チームリーダー
・新規事業開発
#職歴
・大手飲料メーカーにて8年間、営業職として勤める
・初めての担当地区で、売上目標を2年連続で達成
・ 新製品の販売推進チームに参加し、販売戦略の立案・実行に携わる
・顧客との信頼関係構築に注力し、長期取引先を増やす
・ 全国規模の営業会議でプレゼンテーションを行い、自身の取り組みを社内に発信
・中堅IT企業に転職し、チームリーダーとして活躍 現在3年目
・新メンバーの育成と売上目標の達成に尽力
・ 新規事業開発部に所属し、新たなソフトウエア製品のマーケットへの進出を企画・推進
#条件
役職や職歴から得られた具体的なスキルをMECEに因数分解して出力してください。
さあ、これでドメインスキルについて整理ができました。次はこの結果を基に、スキルセットツリーマップを作成するための指示をチャットGPTに出します。
本書の執筆時点では、チャットGPTからの出力はテキストしか対応していないため、ツリー構造のような図は出力できません。そこで、先ほど出力されたドメインスキルの結果を、フローチャートなどの図をテキストで表すための「Mermaid(マーメイド)記法」に沿うよう、チャットGPTに変換してもらいましょう。
プロンプトは「この結果をフローチャートでまとめたいので、マーメイド記法で出力してください」と、入力するだけです。すると、あなたの先ほど整理したドメインスキルをマーメイド記法で表した図4 -4のようなコードブロックが表示されます。
このマーメイド記法で出力されたコードを図として見るには、専用のツールを使います。
今回は多機能メモアプリ「Notion(ノーション)」を使用しましたが、マーメイド記法に対応するビューワーはさまざまありますので、お好きなツールを活用してください。
手順は、チャットGPTが出力したマーメイド記法のコードを、各ツールの所定の箇所にコードブロックごとコピー&ペーストするだけです。簡単に図表化したスキルセットツリーマップを表示することができます。
なお、チャットGPTのような生成AIは、同じプロンプトを使っても出力するたびに結果が異なりますので、何度か試したり、プロンプトを微修正したりするなど試行錯誤して、自分に合っていると思った出力結果を使うといいでしょう。
いかがでしょうか。スキルセットツリーマップを見ると、営業と新規事業開発をやってきたAさんが過去に培ったドメインスキルは、職種別で分けると主に「営業/マーケティングスキル」と「新規事業開発スキル」に分けられ、また業界別では「飲料産業」と「IT産業」の知識もドメインスキルとして備わっていることがわかりました。
さらにそれらのドメインスキルを深掘りしてみると、営業/マーケティングスキルは、「目標管理」「プロモーション」「戦略策定」「コミュニケーション」という4つのサブドメインスキルに細分化できることがわかります。同様に新規事業開発スキルは、「ビジネス企画」「マーケットリサーチ」「プロジェクトマネジメント」というサブドメインスキルに細分化できます。
他にもAさんはチームリーダーという職歴を持っています。それに対するドメインスキルは「リーダーシップ/マネジメントスキル」で、サブドメインスキルは「チーム運営」「人間関係構築」「内部コミュニケーション」というのがわかります。
一方で、飲料産業やIT産業に関する知識のドメインスキルに関しては、サブドメインスキルへの広がりは提示されませんでした。
ここまで見ればわかると思いますが、チャットGPTの出力は完璧ではありませんし、網羅的でもありません。今回は「MECE(ミーシー=モレなくダブりなく)」でと指示を出してはいますが、Aさんはもっとたくさんのスキルを習得していたのではないか、と考える方もいるでしょう。
出力された結果は決してファイナルアンサーではありません。ですから、チャットGPTはあくまで壁打ちの相手と心得ておきましょう。ゼロから自分の過去のスキルを棚卸しするのは大変だから、ゼロイチのところを手伝ってもらう。そのような位置づけで、参考として使うことをおすすめします。
そして、このツリーを見たときに自分がどう思うかを大事にしてください。例えば、私がAさんだったとします。もし営業関連の業務として契約に関する交渉なども行ってきたのであれば、「契約交渉」というサブドメインスキルを追加すると思います。
また、チャットGPTはマーケティングスキルのサブドメインスキルにプロモーションを挙げていますが、より具体化したいと考えます。飲料メーカーのマーケティング担当者として、小売店側の担当者と店舗内のショッパーマーケティングを企画した経験があるのなら、「プロモーション↓ショッパーマーケティング」というサブドメインスキルを付け足し、サブドメインスキルの部分をダブルにすることもできると思います。
このようにツリー構造にすることで過去の仕事内容を見渡すことができ、かつ細分化できます。抽象的な役職名を具体的なスキル名に転換させることができるのが、スキルセットツリーマップの特徴です。ぜひ、チャットGPTを活用して、自分が過去に行ってきた仕事と向き合ってみてください。
このスキルセットツリーマップはキャリアの振り返りだけでなく、スパイクスキルの獲得、未来のキャリアプランニングにも有効です。これまでの経験をベースに次に磨くべきスキルや知識を明確化します。その新しいスキルや知識を掛け合わせることで、より強固なキャリアを形成するきっかけを得ることができます。
(『AI時代を生き抜くということ』第4章 リスキリングステップ② 『E』(Evaluate)ドメインスキルを評価する より再構成)
https://reskill.nikkei.com/article/DGXZQOLM30751030052024000000/
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事及び東京都AI戦略会議 専門家委員メンバーに就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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