2025年3月、連邦地裁が歴史的な判断を下しました。判決の対象となったのは、実業家であるイーロン・マスク氏と彼が主導する「政府効率化局(DOGE)」によるアメリカ国際開発庁(USAID)の急速な解体です。判事は、この動きが合衆国憲法に「複数の点で違反している可能性が高い」と述べ、マスク氏と彼のチームの行動が連邦機関の解体に必要な議会の権限を侵害したと明言しました。この判決は、イーロン・マスク氏がドナルド・トランプ大統領の主要なアドバイザーとして政府機構に影響を及ぼす中で、司法が初めて彼の動きを制限した事例となります。
メリーランド州の連邦地裁判事セオドア・チャン氏は、マスク氏が正式な大統領任命を受けていないにもかかわらず、実質的に連邦政府の高官のように振る舞っていると指摘しました。USAIDの解体に反対して訴訟を起こした支援活動家らの主張に対し、裁判所は「成功の見込みが高い」と判断し、DOGEの一連の行動が憲法の任命条項に違反している可能性が高いと認定したのです。
判決では、「USAID職員の大規模解雇とメールアクセスの遮断」や「USAID本部の閉鎖と強制退去」「数百の契約および助成金の一方的なキャンセル」「執務の実態を持ちつつ正式な任命を受けていないマスク氏の行動」などが問題視されました。DOGEチームは、USAIDの削減を通じて、保健福祉省やエネルギー省、教育省などでも同様の削減勧告を実施していたとされています。さらに、ホワイトハウスでの閣議出席時、マスク氏はエボラ対策予算を「誤って」削減していたことを明かしています。
判事はこれらの点から、マスク氏およびDOGEチームに対し「USAID職員へのメールアクセスの復元」「閉鎖された連邦オフィスへの再入居計画の提出」「解体作業の即時中止」「DOGEがUSAID関連業務を行うことの禁止」といった一時的な措置を命じました。ただし、この命令はあくまで暫定的なものであり、実質的にはUSAIDはすでに解体された状態にあります。現在も在籍する職員はごく少数で、多くのプログラムや契約はすでに終了しています。
今回の裁判所の判断は、イーロン・マスク氏とそのDOGEチームによる政府機関解体の手法に対する厳しい警告です。連邦判事が「憲法違反の疑いがある」と明言したことで、今後は行政機関の改革や削減においても法的正当性やプロセスの透明性が求められることが明らかになりました。今後の動き次第では、マスク氏個人だけでなく、行政機構のあり方そのものが問われる重要な分岐点となるかもしれません。政府改革を志す立場であっても、法的枠組みと民主的プロセスを無視することはできないというメッセージが、今回の判決には込められているでしょう。
記事元:https://www.nytimes.com/2025/03/18/us/politics/elon-musk-usaid-doge-unconstitutional.html
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