2024年初頭、世界中のAI業界に突如として現れた中国発のスタートアップ「DeepSeek」は、その高度な推論モデルによって一躍脚光を浴びました。同社のAIは、OpenAIの同等モデルと比較して同様の性能を持ちながら、遥かに低コストで訓練されたことで注目を集めました。中国国内では、アメリカによる先端半導体輸出制限などの対中技術封じ込め政策を背景に、DeepSeekは“国家的成功事例”と称賛され、国を挙げての支援対象となっています。しかし、その急成長の裏では、企業活動に対する厳格な規制と人材流出防止のための新たな制約が強まっています。
DeepSeekの親会社である「高飛資本管理(High-Flyer Capital Management)」とともに、同社は一部のAI研究開発スタッフに対して海外渡航を制限する措置を講じています。複数の関係者によれば、パスポートの提出が求められた社員もおり、その理由として“機密情報へのアクセス権限”が挙げられています。特にDeepSeekが開発する次世代モデル「R2」は、国家機密あるいは営業秘密として扱われる可能性すらあり、情報漏洩のリスクを最小限に抑えるための措置とされています。
この国家的評価と機密性の高まりは、投資家の接触にも影響を与えています。浙江省政府は、投資家がDeepSeekの幹部と面会する前に、共産党委員会の総合事務局を通じた事前申請を義務付け始めたと報じられています。これは、企業の機密保護および投資先の適正評価を行う目的とみられ、他の中国のAIスタートアップと比べても異例の措置です。さらに、DeepSeek社員を対象にリクルート活動を行った中国国内のヘッドハンターが、浙江省政府の関係者から“引き抜きを控えるよう”電話を受けたという証言もあります。このように、同社の人材はもはや単なる企業の資産にとどまらず、中国の国家的AI戦略にとって重要な資源と位置づけられているのです。
DeepSeekの急成長は、単なる技術革新の物語ではなく、中国がAI分野で“自立”と“国家保護”を同時に追求する戦略の象徴でもあります。機密保護、人材流出防止、投資管理といった一連の措置は、国がAI分野においていかに戦略的意義を見出しているかを示しています。DeepSeekの事例は、今後中国国内で台頭する他のAI企業にも同様の枠組みが適用されていく可能性を示唆しており、グローバル市場との関係や情報流通の在り方にも影響を与えるでしょう。
記事元:https://www.theinformation.com/articles/deepseek-national-treasure-china-now-closely-guarded?rc=8ivgkj
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