アメリカ政財界の最前線で起こった劇的な対立は、ビジネスと政治の境界線をあらためて浮き彫りにしました。ドナルド・トランプ大統領と、テスラのCEOであるイーロン・マスク氏の関係が、数日のうちに完全に破綻したのです。親密な関係から敵対的な関係へと転じたそのスピードと破壊力は、多くの専門家や観測者を驚かせました。今回の衝突は単なる個人間の喧嘩ではなく、企業の命運や今後のアメリカ政治の行方にまで影響を与える可能性を孕んでいます。
事の発端は、マスク氏がホワイトハウス主導の大型予算法案『One Big Beautiful Bill Act』を公然と非難したことにあります。マスク氏はこの法案を「忌々しい怪物(disgusting abomination)」と呼び、X(旧Twitter)上で痛烈な批判を展開しました。これに対してトランプ氏は即座に反撃し、「マスク氏には失望した」と述べるとともに、「連邦政府の契約や補助金の見直しを検討する」と示唆しました。
この発言は、テスラやスペースXといったマスク氏の企業が多額の政府支援に依存している事実を踏まえると、極めて重大な意味を持ちます。Ark Investのキャシー・ウッド氏も「今回の件はマスク氏の企業がどれほど政府に依存しているかを示した」と指摘しており、トランプ氏の発言は政治的警告以上の実効性を帯びています。
また、この一連の衝突による余波はすでに現れています。トランプ氏による補助金打ち切り示唆が市場に不安を与えたことで、マスク氏の資産は340億ドル減少したと報道され、テスラ株も下落傾向を示しました。こうした経済的リスクは、個人の対立が企業の命運を左右する危険性を如実に物語っています。
一方、トランプ氏もこの争いにより一定の政治的リスクを背負っています。マスク氏は今後40年以上ビジネス界に影響力を持ち続ける人物であり、その敵意を買うことは経済政策や技術革新において障害となる可能性も否定できません。両者の支持基盤が一部重なる点も、対立の長期化に拍車をかける要因となっています。今後の2人の動向にも注目する必要があるでしょう。
記事元:https://www.nytimes.com/2025/06/05/us/politics/trump-elon-musk-fight.html
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