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米国政府がインテルに対して約89億ドルを投じ、株式10%を取得するという歴史的な合意が発表されました。これは2008年の自動車業界救済以来となる大規模な政府介入であり、国家安全保障の観点から半導体産業を守るという強い意思の表れです。長年インテルは米国技術力の象徴でしたが、近年はNvidiaやTSMCに後れを取り、経営難に直面していました。今回の出資は資金面での安定を与える一方、米国がインテルを「国家戦略企業」として再定義するものとなります。
この決定の背景には、バイデン政権下で成立したCHIPS法があります。約500億ドル規模の補助金で国内生産を復活させる狙いでしたが、トランプ政権は「見返りがない」と批判し、補助金を株式化する方針へと転換しました。政府が直接株主となることで、インテルは資金を得るだけでなく、政治的な後ろ盾を得ることになります。しかし市場関係者からは「技術的な競争力を取り戻せなければ資金注入の効果は限定的」との懸念も出ています。
今回の合意は米国内だけでなく世界の半導体産業にも波及します。台湾や韓国に依存してきた供給網を米国本土に戻す動きは、中国との緊張を背景にした経済安全保障戦略と直結しており、グローバル競争の構図を大きく変える可能性があります。他方で、政府の過度な関与が「官製需要」を生み出し、市場原理を歪めるリスクも否定できません。公平な競争環境を保ちつつ、国家戦略としての産業支援をどう両立させるかが今後の焦点となるでしょう。
日本にとってもこの動きは無関係ではありません。インテルが米政府の支援を背景に復活すれば、調達先や競争環境が変わり、日本企業もサプライチェーン戦略を見直す必要に迫られます。逆に政府主導の「インテル救済」が失敗すれば、米国依存のリスクが顕在化し、アジア拠点の重要性が一層高まる可能性もあります。いずれにせよ、今回の出資は単なる企業救済ではなく、世界の半導体勢力図を左右する分岐点となるでしょう。
記事元:https://www.nytimes.com/2025/08/22/technology/trump-intel-stake.html
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