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「AIが若者の仕事を奪っているのか?」この問いをめぐって経済界では激しい論争が続いていましたが、ここ1年ほどの間に影響が出ているという見方が広がっています。背景にあるのは、実際の労働市場データと企業現場の声、そして新卒や若手社員が直面しているリアルな変化のギャップです。
2024年前半、新卒採用の停滞と生成AIの普及が重なり、企業が新人の代わりにChatGPTを活用しているのでは?との指摘が出ました。一部メディアは「AIによる雇用崩壊」と報じ、強い不安を煽ったほどです。しかし他方で、公式統計や調査ではAIによる失業の兆候はほとんど確認されず、むしろ採用の持ち直しを示すデータもありました。このため一時的には「AIが若者の雇用を壊しているわけではない」との見方が優勢となっていたのです。
ところが今年、スタンフォード大学の研究が新たな波紋を呼びました。給与計算大手ADPの数百万件のデータを分析したところ、ChatGPT登場以降、22〜25歳の若手社員の「ソフトウェア開発やカスタマーサービス」などの職種において雇用が13%減少していたのです。一方で、介護などAIの影響を受けにくい職種では雇用が堅調に伸びていました。研究者らは因果関係を断定してはいませんが、コロナや金利など他の要因を統制した上でも明確な関連が残ると指摘しています。
この研究が示すもう一つの重要な視点は「自動化」と「拡張」の違いです。コード作成や会計処理のようにAIが丸ごと代替できるタスクでは雇用減少が顕著でした。一方、人間の判断や戦略性を必要とする業務では、その傾向は見られませんでした。つまり、同じ企業内でも部署によって影響が分かれ、AIは一律に仕事を消すのではなく再編しているのです。学生や若手にとっての教訓は、AIを使いこなす力を磨きつつ、人間固有の強みである「戦略的思考」や「対人スキル」「身体性を伴う仕事」を武器にすることかもしれません。AIは未来の話ではなく、すでに若者のキャリアに現実的なインパクトを与え始めています。
記事元:https://www.derekthompson.org/p/the-evidence-that-ai-is-destroying
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