|
人工知能(AI)の進歩は医療に大きな影響を与えており、特に放射線診断はその中心と目されてきました。2017年に登場したCheXNetは、肺炎の診断精度で複数の専門医を上回り、以降も数百種類の疾患を見つけられるAIが次々に登場しています。米国では700以上の放射線AI製品が承認され、病院では画像解析やレポート作成支援に活用されています。しかしこうした進展にもかかわらず、放射線科医の需要は減るどころか増加しており、2025年には診断放射線のレジデンシー枠が過去最多を記録しました。
その理由の一つは、AIが研究環境では高精度でも、臨床現場で同等の性能を発揮できない点にあります。データの偏りや病院ごとの撮影条件の差により、実用段階で精度が低下することが多いのです。また、規制や保険制度がAIの完全自律診断を阻んでおり、AIはあくまで医師を補助する「ツール」としての利用にとどまっています。保険会社も自律AIによる診断結果を補償対象外とする傾向が強く、安全性と責任の面で人間の関与が不可欠とされています。
さらに放射線科医の仕事は画像診断に限られません。患者や臨床医への説明、検査プロトコルの調整、若手医師や技師の教育など幅広い業務を担っており、AIが代替できる範囲は限られています。むしろ診断業務が効率化されることで検査件数が増え、放射線科医の役割は拡大しています。2000年代にフィルムからデジタルへ移行した際も同様で、生産性が向上する一方で検査需要が急増し、放射線科医の仕事は減るどころか増え続けました。
このように放射線診断の現場は、AIによる完全な代替ではなく、人間とAIの協働が主流となっています。医療分野におけるAIの役割は、人間を置き換えるのではなく、医師の専門性を補強し、より高度な業務に集中できる環境を整えることです。放射線科の事例は、知識集約型の産業全般にとっても重要な示唆を与えており、AIとの共存こそが未来の働き方を形作るといえるでしょう。
記事元:https://www.worksinprogress.news/p/why-ai-isnt-replacing-radiologists
|