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シリコンバレー流スタートアップの買収と統合戦略
2019/09/06 ブログ 
by 長谷川貴久 

私が在籍していた7年間の間に、アップルはいくつものスタートアップを買収していました。アップルの最も重要な企業買収は1996年のNeXT買収です。買収した結果、ジョブズは見事アップルのCEOに返り咲き、奇跡のターンアラウンドを成し遂げました。他にもシリコンバレーの買収で有名なものとして、グーグルのYouTube買収や、フェイスブックによるInstagram買収などがあります。ハングリーなスタートアップが常に大企業の下克上を目指すシリコンバレーでは、買収戦略は大企業にとってまさに死活問題です。これらの買収が実行された当初は、「そんな(立ち上げたばかりの、小さな、何もプロダクトが無い、おもちゃみたいな)会社のために、高額の買収をする意味があるのか」と疑問に思う人が多数でした。しかし、5年後に振り返ってみると、ものすごく重要な買収をしていたのだなと感心してしまうものばかりです。また、スタートアップの観点からは、買収は投資家に利益をもたらすための重要なエグジット戦略です。

アップルがNeXTを買収した時のApple.com
アップルがNeXTを買収した時のApple.com

What to buy – どんな企業を買収するか

スタートアップの買収目的は大きく分けて「技術もしくはプロダクトを買う」ケースと、「Acquihire(人材の獲得を目的とする)」ケースの2種類があります。

アップルは私が見てきた中でも以下のような企業を買収してきました。これらの買収は全てウィキペディアなどで公表されています。

これらのうち、SiriとTuriを除いたほとんどの買収がAcquihireです。NeXTもCEOを買収してくるという究極のAquihireかもしれません。もちろんNeXTで開発されたフレームワークなどが今でもマックやiPhoneで使われていたりするので、単純なAcquihireではありませんが。

買収したスタートアップのエンジニアはかなり優秀です。エンジニアの採用基準として「Smart and get things done」(頭が良いし、実行力がある)というのがありますが、スタートアップのエンジニアはもちろんSmartですが、Get things done(実行力)は突出しています。必ずしもスタンフォードやバークレーのコンピューターサイエンス学科といった学歴エリートではなく、無名大学で専攻は全然違ったけどプログラミングやシステム開発が好きでずっとやってきたというようなエンジニアも多かったです。また、ある人はフロントエンド、ある人はバックエンドのパイプライン構築、ある人はプロトコルの開発など、明確な役割分担が存在し、買収した後もそれぞれの強みを活かした仕事をしていました。

もう一つは、チームワークの凄さに驚きます。スタートアップはチーム競技なので、スポーツチーム並みのチームワークがあり、それぞれの企業にチームワークのスタイルがありました。ある企業は毎朝のミーティングを開催して、素早く各自がやるべき仕事を明確化するスタイルを取ったり、ある企業はメトリクスをとことん追求するスタイルなどを取ります。そういったやり方に感化されて、自分たちもチームワークの在り方を見直したりしていました。

Seeds – どこで買収先を見つけるか

トップダウンとボトムアップの両方のケースがあります。

私の昔の直属の上司はTopsyの創業者でもあったので、どうやってアップルに買収されたかという話を聞いたことがあります。「昔ビル(当時のSiriのVP)に営業をかけたことがあって、その当時から親しくしてもらっていた」という答えでした。なので、このブログを読んでいただいている経営者の方が、有望そうなスタートアップから早い段階で営業を受けたならば、とくにその相手が創業者レベルならば多少高いと思っても商品購入を検討してみてください。孫正義さんも同じような経緯でジャック・マーに投資したと聞いています。

ちなみに、Topsyの創業者が私の上司だったと書きましたが、Cueの創業者も私の上司だったことがあります。優秀なのは上述の通りですが、私が驚いたのはその若さでした。例えばCue創業者のダニエル・グロスは1991年生まれなので、2012年の買収当時は21歳でした。大学生と同じ年齢です。そういう人材をアップルは平気でディレクターレベル(部下が100人くらいいるレベル)にします。人事権を渡し、会議でも指示を出しまくります。そしてエンジニアやマネージャーはちゃんと従います。逆にいうと、二十歳そこそこの超有能なスタートアップCEOやCTOにそれくらいの権限を与えて、既存の社員もそれ相応のリスペクトを払える環境でなければスタートアップなんか買収しない方が良いのかもしれません。

ボトムアップのケースとしては、エンジニアがそのスタートアップのプロダクトを使ってみて、すごく使い勝手が良いと評判のプロダクトを作っている会社を買収してしまうというケースがあります。開発者向けには無料でお試し商品を提供している企業が多いのはこのためでしょう。つまり、賢いスタートアップの創業者は、自社の商品を末端のエンジニアに気に入ってもらえればより大きなビジネスにつながることを知っているからです。そういう意味では、「エンジニアには無料プラン」とは、スタートアップにとってのトロイの木馬なのです。経営者は今現場でどのようなサービスやプロダクトが重宝されているかアンテナを張り、良い買収先を考えるという手もあります。

Post M&A – 買収後にどうやって統合するか

アップルのように買収慣れしている企業でも、全てのスタートアップをうまく統合できるわけではありません。例えばLala.comの買収などは、買収した直後にCEOが多くのエンジニアを引き連れて退職し、Colorという会社を始めたりしていることがネットにも報道されています。せっかく優秀なエンジニアを引きつけるために8千万ドル(約100億円)も支払ったのに、肝心のエンジニア達に抜けられては意味がありません。しかし、アップルは驚くことにColorをさらに買収しなおすという強行策を取っています。結果的にエンジニア達は戻ってきたわけですが、エンジニアはLala買収のときにもらった株式をほぼ放棄しており、アップルは2年間もその優秀なエンジニア達を使える期間を失った訳で、お互いに取ってあまり幸せな統合とはいえなかったと思います。内部にいたものとしては、「えっ、また買い直したの?」と驚いたりもしていました。

良い統合は、そのスタートアップの強みであるエンジニアの力とチームワークをうまく引き出せるかにかかっていると思います。その一つの方法として、チーム全体に明確なミッションを与えるというやり方があります。例えばある重要な機能の実装を全てそのチームに任せるといったやり方です。これがうまくいくと、社内のエンジニアだけでその機能を実装したときと比べて数倍のスピード感と仕上がりで新機能ができたりします。エンジニアは難しい課題を解決することがモチベーションになるので、良い人材を引き止めて置くためにも有効な手段です。

Technical Due Diligence – どうやって品定めするか

技術力こそがスタートアップのミソなので、そこの味を試食しないで手を出すことは危険です。ここは、第一線で活躍する最も有望なエンジニアなどが駆り出されて買収を検討している企業のソースコード(プログラム構文)や人材を品定めしています。「Cracking the Coding Interview」という本の著者でもあるMcDowell氏は、買収を検討しているスタートアップ企業のエンジニア全員がプログラミングの面接を受けることも良くあるといっています。

パロアルトインサイトではシリコンバレーで面白そうなスタートアップやプロダクトなどに常にアンテナを張っています。AI開発のために有用なサービスや、機械学習やデータベースの基礎技術などを開発しているスタートアップも多いので、それらを自分たちのサービスに取り入れるためです。また、そうした情報をニュースレターを通して定期的に配信するようにしていきます。もしご興味がある経営者の方がいましたら、無料ですので是非このページの下にあるフォームからご登録ください。

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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