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日経クロストレンド 石角友愛×松尾豊東大教授対談連載 第11回「ハイプ・サイクルに見るAIの潮流 ロボット研究が日本のチャンス」

2021/02/15 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

ハイプ・サイクルに見るAIの潮流 ロボット研究が日本のチャンス

米国調査会社「ガートナー(Gartner)」が数千を超えるテクノロジーの中から注目すべき先進テクノロジーとそのトレンドなどを分析し、毎年公開している「ハイプ・サイクル(Hype Cycle)」*。このグラフを読み取りながら、AI(人工知能)技術をはじめとする先進テクノロジーの展望について、米シリコンバレーを拠点に企業のAI活用・導入を支援するパロアルトインサイトの石角友愛CEO(最高経営責任者)と、ディープラーニング(深層学習)分野で日本をリードする東京大学大学院 工学系研究科・松尾豊教授が議論する。

石角 ハイプ・サイクルは、注目すべき先進テクノロジーとそのトレンドが分かるグラフです。縦軸に期待度、横軸に時間をとって曲線で表し、多くの技術がこの曲線上を動くという考え方で、IT業界の最新動向や今後の流行を見ていくうえで参考になります。横軸の時間の流れはテクノロジー、技術の変遷を5段階に分類しており、「黎明(れいめい)期(Innovation Trigger)」から始まって、新しい技術に対する期待が最も高まる時期「過度な期待のピーク期(Peak of Inflated Expectations)」を頂点に、その後は「幻滅期(Trough of Disillusionment)」に入って徐々に下がっていきます。やがて、実装や周辺技術が追いついてきた技術が徐々に現実のビジネスで活用される「啓発期(Slope of Enlightenment)」を経て、普及していく時期「生産の安定期(Plateau of Productivity)」に入りプラトー化していきます。そんな技術に対する人の期待値の流れを示しています。

例えば、「GPU Accelerations」などの技術は本ハイプ・サイクルリサーチ(Hype Cycle for Artificial Intelligence, 2020)の最終段階に位置しており、既に普及・定着しているということが一目瞭然です。「機械学習(Machine Learning)」や「ディープラーニング(Deep Neural Networks(Deep Learning))」についてはハイプ・サイクルの過度な期待のピーク期を過ぎて、徐々に普及していくだろうというような流れに乗っていると分かります。さらに「Data Labeling and Annotation Services」や「Smart Robots」などはこれからトレンドがくるだろうと予想。一方、「Artificial General Intelligence」は10年以上、「Small Data」は、流行するには5年から10年はかかると予測されています。

2020年12月にオンラインで開催されたAIの世界的な国際学会「NeurIPS(ニューリップス)」でも「説明可能なAI(Explainable AI)」など先進テクノロジーが議題に上がり注目されています。こうした先進テクノロジーにおけるハイプ・サイクルのグラフについて、松尾先生のご意見をお聞かせください。


ガートナーは注目すべき先進テクノロジーとそのトレンドなどを分析した「ハイプ・サイクル」を公開している(出典:Gartner)

松尾 グラフを見て、皆さんが納得しているという現実がすごく面白いなと思っています。機械学習などを扱っている我々としては、どれだけ過去や未来のデータを当てているのかというのがまず気になります。ただ、このグラフについてよくよく考えてみると、言っていることは1つだけ。技術が出始めのころは、世の中が技術の可能性を過大評価しがちだということです。このまま定着していくものあれば、採用されず定着しないものもあるという、いろいろ技術によってそれぞれなんだろうなと感じます。

AI技術に関していえば、そもそも過剰な期待がありました。ただ、技術というのは単独では成り立たないものであり、例えば、いろんなシステムの中にどういうふうに組み込んでいけばいいのかということが、ビジネス上での肝であって。パイプ・サイクルのグラフを見ると、そこの部分が正しく理解されてきたなと思います。

石角 つまり、期待値が下がるのは、いい意味で現実味を帯びてきたということ。確かに、ハイプ・サイクルが最初の⽅で⾼くなるのは、理解と実践が追いついてないから期待値ばっかり先⾏しているという意味なのでしょうね。実際に学んで⾃分で作ったり、導⼊したりする中で、“魔法の杖”ではないと限界が⾒えてくる。そこでハイプ・サイクルが下がってきてなだらかになっていくわけです。⼈間の勝⼿な期待値が上がって下がってそこに実態が追いついてきているという意味では、とてもポジティブなグラフなのかなと感じます。

でも、プラトー化して定着する技術とハイプ・サイクルから落ちていく技術といったときに、「Computer Vision」や「Chatbots」などをどう思いますか? 既に定着している気がしますが。

松尾 そうですね。コンピュータに画像などを処理させて理解させる「ComputerVision」は定着していると思います。⼀⽅で、⾃動的に会話を⾏わせるプログラム「Chatbots」は⼈が⾃分の⾔葉を使ってしゃべるのとは違いますから、どうしても限界があって。⼈間が期待するレベルとかなり差があるような気がします。

石角 確かに「Chatbots」は、事前に学ばせたものをしゃべっているわけですから。でも、⽶国では「Chatbots」をマーケティングの領域などで活⽤されています。例えば、Facebookの場合、NBAチームの「Chatbots」はサブスクライブしておくと、「もうすぐゲーム始まるよ」というメッセージや、スター選⼿のステフ・カリーが3ポイントシュートを打ったら「3ポイント万歳!」等、アナウンスやレスポンスをしてくれるような内容です。あとは、ECサイトのアプリで⾃分が欲しいバッグの写真を送ると「Chatbots」がそれに似たものを画像検索して紹介してくれたりと。そういったプラグインはすごく定着していますが、⾔ってしまえばその程度のこと。それ以上のドラスチックな変化というのは今のところないですね。

松尾 たぶん、5年後か10年後か分からないですけど、そのうちドラスチックな変化がくるんじゃないかと思います。そうしたら、「Chatbots」どころじゃなくてかなり使えるようになるはずです。

SiriやAlexaなど⾳声系AIアシスタントの限界、乗り越えるべき課題も

石角 SiriやAlexaなど⾳声系のAIアシスタントはお値段が⼿ごろで購⼊しやすいので、既に浸透はしていますが……思ったよりハイプ・サイクルは下がったなと感じます。やはり、「Speech to Text(⾃動⾳声認識)」の限界というのはどうしてもあるので。ビジネス現場で本格的に導⼊しようとすると難しく、⾳声をどのように認識するかというところの課題が⼤きいと思います。使っている側としてはまだまだ課題点も多いし、発展性も⼤きいなと。

松尾 まだまだですよね。⼈がしゃべっているのを聞いているとき、その⼈が何を⾔っているのか、伝えたいのかを考えて、それを頭の中に思い浮かべながら私たちは⾏動を起こします。だから「コート出しておいてよ」と⾔われたら、「これどこのコートだっけ?」「出すってどういうことだっけ」ということはほとんど意識せずに、「あのコートをここに出しとけ」という意味だと理解するわけじゃないですか。⼀⽅、「Chatbots」に「コート出しといて」と⾔っても、「コートってどのコートか?」「どこに出すのか?」というのとひもづいていないので絶対無理なんですよね。

また、⼈間は「私の」と⾔うと、「私が所有している」という意味だと分かりますが、今のAI技術だと「私の」あるいは「あなたの」というのは所有の概念がないんです。つまり、知識を問うようなパターンで答えることはできるのですが、本質的なことや含みを持たせた意味合いを理解することは今のAI技術では不可能です。でも、将来的には技術的に実現できると僕は思っています。それができたときにはかなり使えるようになるのではないかと。

石角 秘書の作業もAIに取って代わられるみたいに数年前は⾔われていましたが、いまだにそこまで及んでいません。例えば、⽶国でGoogleカレンダーに連動してスケジューリングしてくれる「AI秘書」と呼ばれるサービスがありましたが、⼈に取って代わるほどの機能ではありませんでした。先ほど松尾先⽣が⾔ったような、その⾏間を読んで⾏動に起こすことが今のAIにはできない。それに私⾃⾝、「AI秘書」からカレンダーの予定を書き込む依頼が来ても後回しにしていました。⾃動メールの感覚が強くて、「AI秘書」に返信するのはとても違和感がありました。それが⼈から送られてきたメッセージであれば、「返事しなくては」と思うのが不思議です。そういうこともあって、今は「AI秘書」を使っていません。ですから、「Chatbots」などのAIアシスタントは、まだまだ乗り越えるべき課題があるかなと感じます。

東⼤松尾研究室・ロボット研究にフォーカス、「causal AI」との関係は?

松尾 本当は今のディープラーニングでアプローチされていない部分は何かという議論が出てくるはずなんですけど、本質的な議論はそれほど多くない印象を持ちます。⼿つかずだからこそ、僕は個⼈的にそこを狙って研究を進めていきたいと思っています。

石角 何を研究されているんですか?

松尾 ここ5年くらいは、GoogleやFacebookなどGAFAの技術開発のスピードには追いつけない、無理だなという感じだったのですが。最近は「Computer Vision」などの開発にしても、細かい技術の改善が主になってきたように感じます。これはチャンスなんです。「Computer Vision」の次は⾝体性だとにらみ、ロボットの研究にフォーカスしています。グローバルには皆さん、意外とロボットの研究があまり好きではないようで、避けている印象があります。

石角 なぜあまり好きではないのでしょうか?

松尾 ⽇本の⼈たちはともかく、他国はロボットの研究をやりたがらない。それは、おそらくシステムの構築までに地道な作業を要することだと思います。例えば、試したらロボットが動かない、APIがつながらないといった泥臭い試⾏錯誤が必要だからです。ロボットのシステム構築までに⾄る道のりがいばらの道なので、多くの研究者がやりたがらない分野なんですよ。原因ははっきりしているからこそ、僕はチャンスだと捉えています。

石角 ⽇本⼈はロボットをすごく⾼尚なものだと捉えていますが、確かに他国は捉え⽅が違います。世界的にみても、ロボットでのイノベーションがあまりないですね。ハイプ・サイクルでも「Smart Robots」は5年から10年後までにトレンドになる技術だとガートナーは予測しているようなのですが……今流⾏っているのは「Decisionintelligence」なんですよね。

⼀⽅で、今回の「NeurIPS(ニューリップス)」ですごく話題になっていたのは、「causal AI」。これまでの「機械学習(Machine Learning)」といったAI技術は、相関性ばかりでその因果関係というのは全く解いてきませんでした。ここにきて、「causal AI」に注⽬が集まってきたのは、やはり「なぜそう起きたのか?」「Why?」に対する結果を求めていく因果関係にフォーカスしてきたという表れだと感じます。

「causal AI」をうまく使えば、より「Small Data」での学習が可能になるのではないでしょうか。例えば、ランダムで⼤量のデータではなくともピンポイントでコーザリティがあるデータを抽出して学習させるということもできそうです。これが実現できれば、ビッグデータを持たない中⼩企業などでも応⽤可能になり、よりAIの⺠主化にもつながります。さらに、ディシジョン・メイキングが必要なビジネスの場⾯でも、「causal AI」の導⼊はとても有効なはずです。松尾先⽣が取り組まれているロボットの研究にも「causal AI」が関係あるのではないでしょうか。期待している部分はございますか?

松尾 そうですね、重要な⽅向だと思います。コーザリティは本来とても難しい概念ですが、ロボット研究は相性が良さそうですね。例えば、スイッチを押して電気がついたとしたら、その要因はスイッチを押すと電気がつく仕組みになっているということだけではありません。そもそも家に電気が来ないとつかないわけだし。もちろん電球が切れていれば電気はつきません。そう考えると、電気がつくという現象にはたくさんの要因があるわけですから、何が原因で何が結果だと決めることはとても困難です。要するにコーザリティというのは、あまり現象的には意味がないと思います。ただ、われわれは⾏動する主体ですから⾏動するためには「何をしたから何が起きた」というタイプの知識に変換する必要があるので、「causal AI」が注⽬されていることは納得しますし、ロボットにとってはとても⼤事なことですね。

石角 とても興味深いです。これからコーザリティにフォーカスしていくことで、より⼈間のディシジョンに近付いて、⾯⽩い技術やプロダクトが⽣まれてくる気がします。それに加えて今後は、宇宙開発企業スペースXの創設者で電気⾃動⾞企業テスラのCEOイーロン・マスクや、ESG投資コンサルタント会社「ニューラル」といった“インターネット・オブ・ブレイン”系の話題が増えてきそうです。

<後編に続く>

 

*出典及び免責事項

Gartner, Smarter With Gartner, “2 Megatrends Dominate the Gartner Hype Cycle for Artificial Intelligence, 2020”, Sep 28, 2020, Laurence Goasduff

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