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日経クロストレンド 石角友愛×松尾豊東大教授対談連載 第12回「脳にAIチップを埋め込む未来? ウエアラブルのAI技術に期待」

2021/02/15 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

脳にAIチップを埋め込む未来? ウエアラブルのAI技術に期待

ハイプ・サイクルでこれから期待値が上がってきそうな技術に、脳科学やAIに近い領域のものが多い。脳にAIチップを埋め込むと、寝ている間に知識が増える――。そんな未来が実現するかもしれない。パロアルトインサイトの石角友愛CEO(最高経営責任者)と、東京大学大学院工学系研究科・松尾豊教授の対談の後編。

<前編はこちら>

松尾 「ニューラリンク」など、ブレインマシンインターフェース系の企業はどのようなことをやろうとしているのでしょうか?

石角 IoT系のプロダクトを作っている会社があるようです。例えば、ヘッドホンの音量を上げてほしいと思っているのを予測してわざわざ声や指で指示を出さなくても、音量を上げられるようなデバイスを作る。あるいは、そういったチップを作る、OEMでそういった技術をいろんなメーカーに拡販する、といったものです。もしかすると、ロボット開発にも生かせるかもしれません。さらに、こういったデバイスをウエアラブル系に応用して、脳にAIチップなどを埋め込むといったことも可能かと。松尾先生は脳に「埋め込む」となったら、どう思われますか?

松尾 それは安全性が高くないとダメですね。

石角 はい。安全性の確保がないと脳に埋め込むのは、とても抵抗がありますよね。最近、ウエアラブルといえば、乳がんを検知するセンサーが下着に付いているものや皮膚に貼るパッチなどがあるようです。そういった着用・貼付系のものは全く抵抗ないのですが、自分の体に埋め込むとなると難しいですね。犬猫にマイクロチップを埋め込むのとは違って、人に対してはまだ先な感じもします。

松尾 人の脳などに埋め込むタイプの商品化は先の話でしょうね。

石角 ウエアラブル市場の現状を見ると、シェアの大半を占めているのはアップルで、最近ではワイヤレスの「AirPods」が大成功しました。指輪型のウエアラブルには「OURA RING(オーラリング)」というものもありますが、これは24時間装着してBPMなど体の生理的信号を測定するものです。また、今私が着けている「Apple Watch 6」では血中酸素濃度も測定できます。

松尾 それはすごいですね。どのように活用しているのでしょうか?

石角 コロナ禍なので、血中酸素濃度が95%以下にならないように毎日モニタリングをしています。仮に新型コロナに感染していれば、血中酸素濃度が低下している可能性があるので、症状が出なくても感染の有無を判断する目安にはなります。

松尾 なるほど。血中酸素濃度ではないですが、日本の「クォンタムオペレーション」というベンチャー企業が血液検査をせずに血糖値がとれる時計型のデバイスを開発していますよ。

石角 血液検査せずに血糖値がとれるなんて驚きです。そんなウエアラブルのデバイスがあれば、食後に血糖値をピンポイントに測定してスパイクが起きているかどうかなど、しっかりと血糖値のモニタリングができますね。

松尾 開発された時計型のデバイスは光を当てて、その波長で血中の糖分が分かるらしいです。優れた技術開発ですよね。もしかしたら血糖値はキラーコンテンツになりかねないなと思います。

石角 興味深いです。ウエアラブル系のAI技術によって、⾎糖値を含め⾎液検査でしか測れなかった数値を全て測れるようになったらいいですね。コロナを機に、今後はウェルネス系のデバイスもとても増えそうです。

「Small Data」「AGI」など普及は5年から10年後? 脳科学とAIの領域に注⽬

⽯⾓ ハイプ・サイクルのグラフに話を戻すと、「Small Data」は5年から10年後、プラトー化するだろうと⾔われています。現時点ではディープラーニングを使う際に、少量のデータからスタートしてその後に⽔増しして学習させるといったケースはよく聞くのですが……。本当のところの「Small Data」でうまくいったケースはあまり聞いたことがありません。

中⼩企業など「Big Data」を持っていない会社や病院では、データ収集こそ⼀番コストがかかると思うので。「Small Data」において学習ができたら、すごくいいと思うんですよね。松尾先⽣の周りで「Small Data」で「ここまでできた!」みたいな話はありますか?

松尾 ハイプ・サイクルにおいて「Small Data」は、「Artificial Generalintelligence(以下AGI、汎⽤性⼈⼯知能)」とほとんど変わらない位置にあります。AGIというのは、⼀般的には⼈間と同様の知能、汎⽤的な知能を持つ⼈⼯知能を備えたものという意味ですから、いろいろな知識を⼊れるという感じではないでしょうかね。⼈間の場合でも「Small Data」でできますけど、いろいろ補って分析していますよね。それと同じではないかと思います。「Generative AI」を潜在的構造も含めてモデル化して、それなら「Small Data」で済むということかもしれませんが。それにしても何かの過程を置かないといけないので、知識を⼊れることとほぼ⼀緒ですよね。そこをAIで扱えるようになるまでにはAGIと同様、相当の時間が掛かるのではないでしょうか。

⽯⾓ 実現は相当先ということですね。でも、AGIに関してはシリコンバレーやシアトルも含めてテック業界ではまだほぼ話に出ていないです。やはり⾮現実的、SFの世界なのでしょう。ヨシュア・ベンジオ教授が1年前の「NeurIPS(ニューリップス)」の講演で⾔っていたのですが、今のディープラーニングは2歳児の脳以下だと。それを踏まえて、これから⼈間の脳のようなディシジョン・プロセスをAIで実現するとしたら、AGIのように、よりブレインテックというか、⼈間のディシジョン・プロセスやディシジョン・メーキングのやり⽅をどう模倣するかといったやり⽅でアプローチしていくという議論にシフトしていくのではないかと思います。データをまとめてマシンラーニングで学習させてというやり⽅よりも……。

松尾 ベンジオ先⽣やヤン・ルカン先⽣、ジェフリー・ヒントン先⽣たちのように、⼈間の知能を解き明かしたいと思ってAI研究に取り組んでいる⼈は、ティープラーニングの次は何をやらないといけないんだという全体のことを考えながらやっていますが、そのように考える⼈は意外と少ないです。ただ、AGIに関しては、もう少し道筋をしっかりとつけてやっていけば、着々と進展していく気がしています。また、近々⼤きなイノベーションがあるのではないかという予測もしています。

⽯⾓ AGIのことでしょうか?

松尾 AGIというか。脳科学やAIの領域でいろいろと分かってくることが増えてくるのではないかと予想しているんです。

⽯⾓ 確かに、ハイプ・サイクルでこれから期待値が上がってきそうな技術に、脳科学やAIに近い領域のものが多いです。そこが、今後アカデミックなエリアではぜひ期待したいところではありますね。アカデミックなところで証明していけば、汎⽤していろいろなアプリケーションも出てくるかもしれませんし、⾯⽩いです。ただそういったエリアで、先ほど松尾先⽣がお話したような⾎糖値を測定するウエアラブル系のデバイスなど患者さんのための⽀援ツール以外で、マーケットが拡⼤する可能性はあるのでしょうか?

松尾 マーケットの問題とはまた少し違います。もちろんマーケットを考えながらやった⽅がいいとは思うのですが、結構難しいと感じます。例えば、ゲームや教育関連のマーケットではというと、果たしてうまくいくかどうか。ゲームやるためだけに脳にAIチップなどを装着できますか? という話になってくるわけで……。

⽯⾓ せいぜい、ウエアラブルのゲームくらいですよね。

松尾 仮に教育関連の分野として、例えば脳にAIチップを埋め込んでおけば、寝ている間に知識が増えているというものだったらどうしますか?

⽯⾓ え? それは取り外し可能なんですか?

松尾 はい。例えばまた⼿術をすれば、取り外せるとしたら……。

脳にAIチップを埋め込む未来は来るのか?(画像/Shutterstock)

⽯⾓ すごく迷います。すぐにノーとは⾔いたくない。⾃分が受験⽣だったらやるかもしれないです。

松尾 脳にAIチップを埋め込む動機としては、教育の分野で知識を⼊れるといったことは少しあり得るかなと個⼈的には思っているんですよね。

⽯⾓ つまり、それを簡略化して⾔い換えれば、そのAIチップを⼀度脳に埋め込めばもう勉強しなくてもいいということでしょうか?

松尾 そうです。

⽯⾓ 実現すれば、いろんな知識が頭に暗記できた状態になるのでしょうね。

松尾 でも、もちろんそこまで到達するまでには相当、脳の仕組みなどが分からないといけません。まだまだ先の夢のような話だと思います。

⽯⾓ 必要に迫られないとなかなか脳に埋め込むようなことはしないでしょうね。チップ埋め込みと単純⽐較はできませんが、かつては近視を矯正するレーシック⼿術なども信じられないことでしたが、20年ほど前、超近眼だった私はレーシック⼿術を受けました。すごく怖かったのですが、必要にかられて受けたんですよね。必要性というのは、ものすごく⼤きな動機になりうると思います。それが教育の分野となるとどうか……。

ただ、そこに経済的な問題が出てくる可能性があります。例えば、裕福な家庭の⼦供だけがAIチップを埋められて、いい⼤学に受かるような世の中になってしまったとしたら、「不公平だ」という意⾒も出てくるでしょうし。とはいえ、脳にAIチップを埋め込めるようになれば間違いなく⼈間の可能性は無限⼤に広がりそうです。

松尾 そうですね。おそらく、AIチップが開発できれば脳の仕組みがおおよそ理解できるようになるでしょう。また、学習のアルゴリズムが構築されるわけですが、どういうデータを⼊れるかによって学習される内容が変わってくるだろうし。あとは意欲や、どのぐらいの量を学習するかによって変わってくるでしょう。そうすると、学習の機会の頻度によって伸びるか伸びないかが違ってくるだけになりますから、究極の平等論に近いといえる気もします。実際、世論がどこへ向かうかは予測できませんが。

⽯⾓ では、⽣まれつき持っている遺伝⼦も関係ないということですか?

松尾 関係はあるのですが、結局は学習のアルゴリズムに尽きます。学習の早い遅い、あるいは習得しやすいなどはあるかもしれませんが、データを増やしてあげればそれなりに……。

⽯⾓ やれば必ず結果が出るということですね。

松尾 はい。ですので、AIチップというのは(教育を平等に受けられる)権利のようなものだと思います。

⽯⾓ 健康保険のような感覚で、国⺠の権利として平等に“教育”を受けられる環境が整うといいですね。これからますますAI分野は⽬が離せないです。

松尾 我々も脳科学とAIの領域にはかなり注⽬しながら、ロボット研究にフォーカスして取り組んでいくつもりです。

⽯⾓ ⾯⽩くなりそうです。そこが本当に実現できたら⽇本のスタートアップでも、より世界の市場でチャンスが⽣まれそうな気がします。期待しています。

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