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パロアルトインサイト/PALO ALTO INSIGHT, LLC. > メディア掲載実績 > DX推進の3つの壁とは?-読売新聞オンライン<中>

DX推進の3つの壁とは?-読売新聞オンライン<中>

2021/09/02 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

シリコンバレーから指南役が教える 大企業のDXを阻む「三つの壁」<中>

POINT
■社内の課題を洗い出した後は、POC(実証実験)を行って実現可能性などを検証し、DXにつながる最優先すべき課題を絞り込む。だが、検証結果がなかなか得られなかったり、検証自体が目的のようになったりして、DXが進まなくなる大企業が多い。■検証を重ねるだけではDXは進まない。ゴールはあくまでDXで、POCはDXに向けて行うことが重要だ。DX推進のテコにもなるAI(人工知能)が導入できるかどうかを四つの基準から評価し、事前に準備することが不可欠だ。

■DX担当者の仕事ぶりを評価する基準が不明確なことも、検証ばかり重ねて肝心のDXが遅れる一因ではないか。起案した人に失敗の責任を取らせる日本企業の仕組みも再考すべきだ。

パロアルトインサイトCEO(最高経営責任者)  石角友愛
聞き手・構成 調査研究本部 丸山淳一

DXを阻む第2の壁…POCの壁

多くの課題が見つかったら、次は、そのなかからDXにつながる課題は何か、何を最優先すべきかを絞り込んでいきます。そのために行うのがPOCですが、ここにも罠が潜んでいます。

POCは「Proof Of Concept」の略で、「概念実証」などと呼ばれます。プロジェクトが実現可能かどうか、効果や技術的な問題を検証するプロセスです。しかし、さまざまなプロジェクトで小規模な実証実験や仮説検証を繰り返す(よく「POCを回す」といいます)ことばかりをやって、成果につながる事業化に至らないことがよくあります。実行力はあるものの、改善すべき課題を把握する能力が足りない企業が陥りやすい罠です。

絞り込んだ課題が正しいかどうかを、まず小さな規模で実証実験して確かめること自体は間違っていません。例えば新しいアプリで消費者との接点をつなげようという時も、アプリを一気に全社的に実装することはできませんから、自社の商品やサービスを顧客へ届ける営業戦略(GTM=Go-to-Market)のひとつとして、新しいアプリを開発するといった局所的なものをやってみるわけです。

何のため検証するのかを明確に

POCを始める前には、最低限検証しなければいけない項目は何かを明確にして、最小限の実験で最大限の検証ができるやり方を考え、戦略的に実行しなければいけません。項目の選択を間違うと、数か月で出すべき検証結果がいつまでも出せず、最小限の実験のつもりがいつの間にか「がっつり」としたプロジェクトになってしまいます。予算がどんどん膨れ上がったあげく、「あれ? そもそも何を検証するんだっけ」と本来の目的が忘れられてしまうようでは、いつまでも本格的に事業化する段階には移れません。

POCは、その先の大きなプロジェクトのために行うもので、その先に何をするかが描けていないとやる意味はありません。デザインがしっかりできていないと、POCという名前の空白期間ができるだけで、DXは目的を見失って頓挫してしまうのです。

しかし、ここがトレードオフ(注1)になるのですが、着手する前から考えを煮詰めるところにあんまり時間をかけてもいけません。DXはスピードが命ですし、事例や前例の調査は時間の空費だというのと似ていて、まずやってみないと何が課題かわからない、ということもたくさんあります。

製造業なら実際にものをつくる前から具体的なつくり方がわかっています。アダム・スミスは『国富論』の中でピン(裁縫用の針)工場の話をしていますが、ピンの作り方は明確に定義づけされ、ピンの完成品は明確に項目化していて、それを分業によって効率化する考え方です。データサイエンスはそれとは真逆で、やる前に完成品の絵図が明確に描けず、データを見ないと何ができるかがわからないところがあります。だからサンプルデータを得て、なるべく完成品のイメージにつながるものをつくっていく「LEARN AS YOU GO(やりながら学ぶ)」のためにPOCをやるわけです。

このため、データサイエンスを理解している人がいない状況でPOCを回すと泥沼にはまってしまうことがよくあります。プロが入るとPOCの誤りを見つけ、早期に軌道修正ができて、結果的にコストも抑えることができます。

四つの観点を軸にAI導入の是非を判断

一つひとつのプロジェクトが成功しなければ、その集合体としてのDXも成功しません。前回お話ししたようにDX推進にはAIの導入が不可避ですが、課題解決のためにAIを導入するのに適したプロジェクトは何かを見つけ、どこに投資すればDXにつなげられるかを判断する「目利き力」が試されます。

私の会社、パロアルトインサイトでは、F(Feasibility=実現可能性)、O(Opportunity=応用性)、M(Measurability=検証性)、E(Ethics=倫理性)の四つの軸で検証します。具体的には、「実現可能性(F)」とはそもそもデータはあるのか、その質は高いか。「応用性(O)」とは、他の部署に横展開できるか、改善を施して外部に販売できるか。「検証性(M)」とは、客観的な数値で効果が検証できるか。そして「倫理性(E)」とは、データの扱いなどに倫理的な問題はないか。個々のプロジェクトをFOME別に分析する「プレAI診断」によって、どのプロジェクトが最も将来のDXに結びつくか、どのプロジェクトの優先順位が高いかを提案しています。F、О、M、Eの観点からどれを優先すべきか、早い段階で精査するのは大事なポイントです。

もちろん、何から始め、何を最優先するかは、その会社の経営戦略にかかわります。これからの事業のコア(核)を決め、10年後にどんな会社になるのかは、経営陣が最終決定すべき話です。その会社が持っている戦略的インプットと,AIビジネスデザインカンパニーが持っている知識や分析力をかけ合わせて,プロジェクトを選んでいくことが大切です。

不二家は何から始めたか

洋菓子大手の不二家は、たくさん出てきた課題の中から、3か月ぐらいかけてまずやるべきことを絞り込み、ケーキなど洋菓子の出荷予測にAIを導入する方針を決めました。洋菓子はクリスマスなど期間限定の新商品が多く、製造個数が多すぎて売れ残れば廃棄ロスが出て、少なすぎて売り切れれば機会損失を招いてしまうため、洋菓子事業の売上高は全体の約2割なのに、長年赤字が続いていました。われわれは、どの問題の解決にAIが役立つかを「プレAI診断」を通じて助言し、円滑に課題を絞り込む手助けをしました。

洋菓子の出荷予測は一見、洋菓子事業部だけの話に思えます。しかし、はじめから他の事業部の人も巻き込んで議論したことで、「データを統合し、新商品開発のデータに使えないか」とか「ケーキをひとつ買ったらもうひとつを割引するプロモーション(宣伝)をやろう」といったアイデアが次々に出てきました。「プロモーションが売り上げを左右する」という社内のマーケティングの発想が、「商品の売り上げ予測データをもとにプロモーションを企画する」ように逆転していったわけです。

マーケティングの方法が変われば、洋菓子以外の事業のワークフロー(仕事の手順)や意思決定のプロセスも変わります。不二家のDXは、まだデジタイゼーションとデジタライゼーションの「サイローステージ」の間の段階ですが、その先の展開も見据えたプロジェクトになっているので、継続した変革につながると思います。企業の価値観を変えるには、データの統合が必要なのです。まだDXの成果とはいえないと思いますが、不二家の2021年上半期(1~6月)連結決算は大幅な増収増益となっています。

DXを阻む日本企業の人事評価制度

多くの企業がPOCの壁に阻まれる原因には、そもそもDX推進室や担当者の評価基準ができていないことがあると思います。DX推進室や担当者が何をしたら株が上がるのかについて、KPIやOKR(注2)に基づいたゴールが明確になっていないから、「私はDX担当者として社内の100の課題を抽出し、そのうち30でPOCをしました」という定量的な数値で評価してもらおうとするわけです。その30個のうち何個事業化できたかが肝心なのに、そこは「事業化は時間がかかる」という理由で評価の対象にならないのです。

日本の会社は、プロジェクトに失敗すると、それを言い出した人にバツがついて、左遷されたり出世できなくしたりという形で責任を取らせます。それが怖くて思い切ったことが言えない。さまざまな声を吸い上げ、大事にすることはDXを進めるには非常に重要なことだと思うのですが、それができていません。

失敗を評価するネットフリックス

ネットフリックスはDXの勝者としても有名

今、急速に業績を伸ばしている米ネットフリックス(Netflix)は、DXに成功した企業としても知られています。同社では社員ひとりひとりに決裁権を持たせ、稟議を通さずに結構大きなプロジェクトができる仕組みにしているのですが、プロジェクトが失敗しても、提案した社員は謝罪を求められることはありません。その代わり、失敗を社内で共有するために、提案者は失敗したプロジェクトの情報をメモにし全社に流します。「こういう理由でこう考え、こういうデータに基づいてこういうプロジェクトをしましたが、結果的に撤退しました。なぜこうなったか、理由は以下の3点です」というように、プロジェクトの顛末を科学的、客観的、論理的に伝えなければならないのです。

結果的に失敗であっても、社内で共有することで、提案者は上層部に仕事ぶりをアピールでき、プロジェクトを立案中の他の社員は大いに参考になります。ネットフリックスでは、何もしないで静かに座っていることが一番大きなリスクなのです。日本もDXを進めるためには、評価制度を変える必要があるのかもしれません。

(注1)トレードオフ(trade off) 何かを達成するためには何かを犠牲にしなければならない関係のこと。
(注2)KPIやOKR KPI(Key Performance Indicator=重要な業績評価指標)は組織の目標を達成するための重要な業績評価となる指標のこと。達成状況を継続的に点検しやすい。OKR(Objectives and Key Results=目標と主要な結果)は定性的な目標と数字が伴う定量的な目標を組みあわせて業績を評価すること。両方とも論理的で評価される側も納得できる評価方法とされる。

シリコンバレーから指南役が教える 大企業のDXを阻む「三つの壁」<上>は こちら

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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