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地方自治体のDX戦略:観光復活の鍵は“帰属意識”

2022/06/01 メディア掲載実績, 日経クロストレンド 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

地方自治体のDX戦略:観光復活の鍵は“帰属意識” リピーターや移住者の獲得が重要– 日経クロストレンド

ポストコロナを迎える今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。人工知能(AI)開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。今回は、観光庁観光地域振興部観光資源課の星明彦課長との対談の後編。コロナ禍を経て大きく変わった観光の需要について聞いた。(対談は2021年12月7日に実施)

▼前編はこちら
観光庁が取り組む「観光DX」 来訪者の年齢、性別、職業を把握

石角友愛氏(以下、石角)  新型コロナウイルス禍を経て、観光客のニーズや観光スタイルはどのように変化しましたか?

コロナ禍では観光バスを使った団体旅行などが減少した(写真/Shutterstock)

星明彦氏(以下、星) 現在の観光は従来と世界が変わってしまっています。昔は観光といえば、より安く、より楽しいものを大量に供給することが当たり前の世界でした。実際の観光行動も、観光地に行き、夕食を食べ、翌朝から観光名所に出かけて写真を撮って、お土産買って帰るという一連の流れがパターンでした。しかし、今は地域におけるこのような来訪時の行動や趣旨・目的は全く異なるパーソナルなものに変わっているように感じます。

もちろん、従来の観光行動も見受けられますが、昨今のコロナ禍の影響により、企業の研修や団体旅行、観光バスなどが減少したことで、団体需要がかなり落ち込んでいるのが現状です。このように、観光行動の多様化が顕在化し、広く浸透したことが、コロナ禍における大きな変化だったと思っています。

石角 まさしくダイバージェンスですね。私が経営するパロアルトインサイトにも、ノマドワーカーがチームメンバーにいます。ノマドという働き方は、働く場所を問わないAI(人工知能)業界やIT(情報技術)業界に親和性が高いと思います。

旅行に関して言えば、米Airbnbの社長のブライアン・チェスキー氏も「“どこか今まで行ったことのない、自分が今いる現実の場所以外に行ってみたい”という旅への根源的な欲求は、コロナ禍を受けても絶対になくならない。ただやり方が変わっていっただけだ」と言っています。例えば、米国でワーケーションをする人たちは、キャンピングカーで様々な都市を渡り歩き、その土地のAirbnb(民泊)に滞在をして仕事をし、週末は観光を楽しむような生活を送っています。

このように、働き方をはじめ、生き方や旅行の仕方に多様性が生まれ、それを実現する後押しになるような環境整備がコロナ禍でさらに進んだのだと思います。

日本では、ワーケーションも含め、どのように観光というツールが使われることが多いのでしょうか?

 最近の実際の数字を見ると、Y世代やZ世代を中心に「地域に回帰する」という流れが顕著だと感じています。もともとこうした回帰の流れは、シニア層や国内の比較的高収入のアッパー層などの方々によくある傾向でした。

世界を見ると、「そこにしかないものを求めて世界の果てまで行く」というのは、海外の富裕層で顕著な流れでしたが、これが一般の方々まで含めて広がったこともコロナ禍での変化だと思っています。

これまで、毎日会社に通い、組織のルールの中で働かなければならないという、ある種の拘束がありましたが、コロナ禍によってリモートワークが進み、個々人がライフワークをフラットに考えられるような環境ができたことも多様化の要因であると考えています。

石角 ワーケーションも含め、地域へ回帰する人たちにはどのような特徴が挙げられますか。

 移住に関心がある人たちは、子育てにも関心を持っているという調査結果があります。その一方で、観光地に初回訪問する際の目的は子育てとは関係なく「リフレッシュ」や「癒やし」であることが分かっています。

石角 それは興味深いですね。あくまで観光地への初回訪問の目的は「リフレッシュ」や「癒やし」で、潜在意識として「子育て」があるということですね。

 こうした人たちにアプローチするためには、最終的にその土地のことを「心地良い場」、あるいは「帰属する場」のようにさりげなく感じてもらえるように、本人たちが気付いていないような新しい提案をして「もう一度来てみたい」という気持ちにさせることが有効です。

石角 具体的にはどのような提案やアプローチがありますか?

 例えば、旅の中で魅力的な生き方をしている人に出会ったりすると、次の訪問は「あの人にもう1回会いたい」という自発的な行動に変わっていくんですね。そうすると、旅先で自分が認められた、受け入れられたという承認欲求が満たされたり、場の共同性のようなものに対して、緩やかに参加したり帰属したりする心地良さのようなものを感じるんです。

石角 いいですね。

 このように、地域の人に触れていく中で、帰属意識を持ちながら現地で承認を受けていると、最初は単なる観光客で初来訪したものが、緩やかに「自分がそこに帰属していいんだ」あるいは「そこで自分の生き方が認められていて役に立つんだ」と理解されていく。すると、自発的かつ緩やかに「そこに住みたい」という気持ちへ移行していくのです。

石角 そのようなニーズを捉えるためにはセグメント化が重要で、顧客管理の在り方やシステムの使い方を見直す必要がありそうですね。

以前、東京から1時間半ぐらいで行ける場所の市長と話した際「日帰り人口が多くて泊まってもらえない」という課題を抱えていました。宿泊してもらえないと、最終的にはその地域の消費は増えないので、宿泊する人を増やすために、観光からワーケーションにシフトさせる起爆剤として、データの活用ができるのではないかというお話をさせていただきました。

例えば「Kaggle(カグル)」というインターネットでデータを公開しているプラットフォームがありますが、それの市町村バージョンのようなものを想定しています。具体的には、市町村が持つデータに制限をかけた状態で公開し、世界中のデータサイエンティストやIT人材が来訪してそれを活用してAIモデルをつくれるようにするのはどうかというような提案です。つまり、その地に来ればデータが手に入り、そこで面白いモデル制作や現地の人に役に立つITの仕事ができるような仕組みがあれば、地域を活性化できるのではないかと考えたのです。

データの活用やDXというと、社内や自治体の中での業務改善という方に目が行きがちですが、このようにデータを外部に公開することで観光資源にするという考え方もあります。

 先のシステムの全体像を把握することに通じますね。また、画一的な商品やサービスの供給、いわゆる「マス」から「スモールマス」へ変化する良い事例ではないでしょうか。

マスマーケティングからの脱却がポイント

石角 日本において、観光は地域の人口を増やすツールになり得るのでしょうか。

 もちろん、人口減少が著しい地方部などで関係人口や移住人口が増えていくのは望ましいことだと思っています。ただ、必ずしも定住する必要があるわけではなく、どちらかというと個人消費や地域の担い手として地方に関わる人が増えていけばよいと考えています。

石角 関わるという意味で言えば、行政のIT関連プロジェクトに携わるAI・DX人材など、幅広い層の人が含まれますね。

 そうです。地方部に必要なデジタル人材という意味でも、Y世代やZ世代の方々が非常に大きな役割を果たすことになると予想しています。生産人口をはじめ、いろんな意味でも地域に貢献する必要な人材になりますし、そのマッチングにはもちろんDXが活用できるため、今後ますます加速していくと思っています。

石角 観光庁として、今後どのようにDXに関わっていこうと考えていますか。

 まずは現況を把握して、個々人に対して正しい情報、ファン心理を増幅するような情報を展開できる環境や仕組みをつくっていきたいと考えています。ファン心理を刺激することで、自ら開拓を始められるようにする手法がこれからの商材となっていくと思います。我々の切り口は観光です、観光産業だけではなく、日本経済全体の産業構造改革だという意識を持って取り組んでいきます。

石角 具体的にはどのような取り組みになるのでしょうか。

 マーケティングをお客さんの手に返してあげるところから始まります。本来、サービスや商材をつくるのはお客さんであり、メーカーではないのです。今の経済は、そこが間違っていると感じています。売り手側がお客さんの潜在的ニーズを理解し、それらに対して応えていくことが商売の基本であるはずが、それを忘れてマスマーケットの影響を受け、薄利多売を行うことで無駄なものが増え、SDGsの逆行をしてしまっているのです。

石角 お客さんが求めているものをつくり、無駄もなくすことは建設的であり、効率的な生産システムですよね。

 そうです。こうした現状を招いている根本的な原因が何なのかというと、売り手側が東京などの大都市圏の人たちを対象とするマスマーケティングの考え方で調査していることです。これにより「最近これが流行っているらしいぞ」といった、短期的なトレンドが生まれます。つまり、はやり廃りの中でどんどん消えていくような商材のニーズばかりが顕在化するのです。このような長続きしないトレンドに当て込んで商材の開発をすると、悪循環に陥ります。

「消費行動が是である前提でマーケティングを行っても潜在的なニーズが見えない」と語る石角氏

石角 すごく大事なポイントですよね。私たちのチームでも、DXやAIの案件をやるときにまさしく今お話しいただいたような問題がよく出てきます。データの活用といっても、お客さんの消費行動が是である前提でマーケティング施策を打っても、お客さんの潜在的なニーズが見えず掘り下げられません。これはデータ活用のわなでもあると思います。特に消費データばかり活用してしまうと、プロモーションの効果は検証できても、そこにお客さんのニーズがあるという因果関係にはなかなか落とし込めません。

以前、クー・マーケティング・カンパニー(東京・渋谷)代表取締役の音部大輔さんとこの連載で対談した際に、消費者の潜在的ニーズを理解するには「消費者の家族構成や、消費が行われたとき誰と一緒に居たか。すなわち、親や子供といった“社会的役割”が分かるとすごくいい」とおっしゃっていました。観光におけるお客さんの隠されたニーズというのは、そもそもお客さん自身が分かっていないケースも多いため、データで顕在化することが難しいこともありますが、どのような手法があるのでしょうか。

 端的に言うと、大都市圏のマスマーケットを無視してみるのも方法の1つです。例えば、地方部に行くと今でも100年単位で続いてきたものづくりや生活があり、これらに携わる人たちこそが、人間が本当に必要とするものを知っていると言い換えることもできるでしょう。つまり、このような人たちの生活様式を、まず知るということが大事なのです。さらに観光的な視点、経済の視点で言うと、地方部に来訪している人たちが一体何をしているのかを知るということも、ニーズの顕在化に有効です。また、現況のマスマーケットから脱却するためには、個々人の需要に対してCRM(顧客情報管理)を行い、サービスや商品の教材をつくってくれるお客さんへマーケティングを返すことが大事だと思います。

石角 マスマーケットに限定せずお客さんの声を抽出し続けてPDCA(計画、実行、評価、改善)を簡単に回せる組織態勢や、企業としての柔軟性を持ち続けることがとても大事なのですね。

 今後は競争と協業をうまく使い分けることも重要であるといえるでしょう。例を挙げると、食品業界の企業間で競合関係にあった物流部門が、人手不足や管理体制を強化するために、協業化して1つの会社を設立したという事例もあります。このように、共通の課題を抱えている場合には、協業化してマーケット全体を活性化していくのです。こうした事例は、これから観光や地域において大事になってくると思っています。経済の関連性や全体像を見ることによって、環境に投資をすることが、どのような形で経済に転換されていくのか把握することにつながり、これまでの投資のストック効果が表れてくれば、地域に対する資産の見方が変わってくると思います。

石角 観光庁としてのDXに関するアプローチは、今後、CRMを拡充して様々な自治体や業界団体に導入していきたいということなんですね。

 そうです。まずは観光をトリガーにして、お客さんや、観光以外のあらゆる産業の方々に「産業用のCRM」という考え方を理解していただき、実装してゆくのが当たり前になるということですね。今までのマーケティングの市場を逆転することが大事だと思います。

先の「マーケティングをお客さんに返す」という考え方をはじめ、ファン心理を刺激しながら、消費や行動選択をしていくマーケットをつくることが、我々が今アプローチしていることです。これまで不透明だった金融の仕組みや経済などが、様々なDXのツールによって、可視化可能になってきたので、最終的にはその連関も含めてしっかり評価し、今後の経済循環に活用して新しい投資を促すということをやりたいと思っています。

石角 観光だけではなくて、産業のつくりを根本的に考え、変えてゆくというマーケティングへの深いこだわりや考え方についてのお話がうかがえて面白かったです。素晴らしいお話をありがとうございました。

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00509/00018/

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

 

※石角友愛の著書一覧

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