住宅設備部材販売のベストパーツ株式会社(宮城県仙台市)との「FAX受注自動化プロジェクト」では、手書き文字を認識して機械学習するAIを開発し、ビジネスの現場で根強く残るFAXによる受発注業務の効率化を図りました。
書類のテキストを文字認識し、データ化する「OCR(光学文字認識)」はさまざまな企業がサービスを展開していますが、本プロジェクトでは手書き文字を含めたテキストに対し、高い精度での読み取りと機械学習を行い、さらに社内データと照合してより正確かつ効率的なデータ入力をサポートするAIモデルの開発に取り組みました。
(発注書データを開発したAI搭載のシステムにドラッグアンドドロップするだけで、注文番号や納期、備考欄、発注先等の赤枠で囲まれている情報を一瞬で読み取ることが可能)
デジタル化が進んでいるとはいえ、業務特性からFAX利用を廃止できない企業は少なくありません。また得意先企業に対してオンライン注文への切り替えをお願いすることに気が引けるという声もよく聞かれます。とはいえ、人力でFAXの仕分けや入力を続けていては業務効率化は進みません。
当社では書類の中でどの部分に重要情報が記載されているかを判別するAIモデルを構築しています。本プロジェクトのような受発注書類のほか、サポートの問い合わせなどのFAXにも応用可能です。
今回のベストパーツ社との取り組みでは、実際に発注書処理を行う担当者の方から毎週フィードバックをいただき、それを反映して改善を繰り返しました。
■ 取引先からの注文の9割をFAXで受けており、届いたFAXは担当者が仕分けて内容をシステムに入力。その後保有在庫と照らし合わせ、部材の準備やメーカーへの注文をするなど時間がかかり人的ミスも生まれやすい作業フローであったため、業務効率化が課題
■毎日数百枚届くFAXでの注文に対し、FAX1件の処理に10〜15分程度かかっていたため、発注書に関する業務だけでかなりの手間と時間がかかっていた
■手書き文字を認識し機械学習できるAIモデルの構築
複雑かつ多岐に渡る形式にて書かれており単なるOCRでは解決できない情報をFAXから読み取り機械学習していくAIモデルを開発。
■現場担当者への細やかなヒアリングをもとにしたUI改良
UXデザイナーが間に入り、具体的な現場の声を聞くことで見えていなかった難点を発見し、AI設計者に対してフィードバックを行うことでユーザーにとって使い勝手の良いデザインへと改良を重ねた。
■FAXのOCRにおける課題の整理
紙の文書のデータ化にはOCR機能が有効だが、ベストパーツ社のケースでは二つの大きな課題があった。
1. 得意先によって発注書のフォーマットが違うこと
2. 手書きのFAXもかなり多く、書かれている情報の内容も位置もばらばらであること
そのため単純に文字を認識するだけのOCRでは内容を正確に読み取れず、大きな省力化が図れない可能性があった。
■プロジェクト開始前のAI診断によるデータ解析
当社がベストパーツ社から提供されたデータを解析して行ったAI診断の結果、ベストパーツ社の得意先が利用している発注書は、大きくいくつかのフォーマットに分類できることが判明した。そこでその特徴を生かして、同社に合ったシステムの開発を進めることに決定した。
■フェーズ1:フォーマットと得意先名、重要情報の位置を紐付け
フェーズ1では発注書のクラスタリングに取り組んだ。具体的には、ベストパーツ社に届く発注書を分析し、発注書のフォーマットと得意先企業名が紐づくように設定した。たとえば、読み込ませたFAX画像に対し、AI搭載のシステムが「フォーマット001」と認識した場合、001を利用しているのは「A社」であるため、A社の発注書であるとクラスタリングする。フォーマットごとに得意先名や注文内容などの重要情報がどこに記載されているのかをAIを使い学習させたことで、素早く重要情報を読み取れるようにした。これにより、担当者が1枚1枚FAXを見ながら会社名や注文内容を確認する必要がなくなった。
■フェーズ2:社内データとのマッピングで、より正確に注文内容を入力
フェーズ2では発注書の内容の認識およびシステムへの入力を進める。具体的には、フェーズ1 で読み取り可能となった注文内容を同社のデータと照合し、製品名などがシステムに自動入力されるようにする。
課題となっていた手書き文字については、当社のエンジニアが文字認識プログラムのクセを考慮したAIを開発し、さらに読み取った文字を同社の商品データとマッピングすることで、より正確な入力を可能とする。たとえば手書きで書かれた商品名が「AB-O(オー)」に見えたとしても、その名称の製品は存在せず、一方で「AB-0(ゼロ)」の商品はあるとわかれば、商品は「AB-0(ゼロ)」であると判別できる。これによりエラーの発生が軽減される。
さらに、モデルをより便利に使ってもらえるように、ベストパーツ社の現場担当者の声を反映したカスタマイズも行う。
例えば、注文内容を表示する画面では、ベストパーツ社の在庫管理システムとの連携により、商品名の横に現在の在庫数が表示されるようにする。また伝票に番号を付与し、読み取った注文内容が社内データに合わせて自動で並び替えられるようにすることで、過去の注文内容の検索もしやすくなる。
現在、すでにベストパーツ社が受信する発注書のFAXの9割以上を、開発したAI搭載のシステムで処理しています。途中経過ではありますが、これまで発注書処理にかけていた時間の5%を削減できており、フェーズ2終了時には20〜30%の削減が実現できる見込みです。
今後、蓄積された発注データの分析・活用により、需要予測ができるシステムを構築して適切な在庫管理につなげることや、得意先へのレコメンデーションによる販売促進なども検討しています。
パロアルトインサイトLLC CEO・石角友愛氏のコメント
「本プロジェクトは、成功するDX推進の条件が要所に散りばめられています。紙ベースで処理されている業務などを効率化するだけでなく、デジタル化された情報を活用して新たな価値を提供できる非常に上手く回っている事例です。
企業の意思決定を行う経営者自らが打ち合わせに出席して現実的な期待値を持つことで、プロジェクトのスピード感もよく、競合優位性となる資産としてのAIを保有することとなります。
長期的なビジョンとなぜDX推進をするのかという明確な理由を持って取り組むことでDXの実現は投資対効果を実感できるプロジェクトになります。」
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLCAI導入をご検討中の場合は無料で相談に応じます。