今回取り上げるニュースは、ユニクロが初任給を30万円に引き上げ、給与も最大40%まで引き上げるという内容になります。日本と他の主要国を比較した時に、給与制度の柔軟性が足りないことから企業に貢献する優秀な人材への配分が見劣りしているため、この改革をきっかけに国際競争力を高めようとしているのです。
またユニクロだけではなく、日本の大手企業の多くが賃金水準の改善に取り組んでいます。ソニーグループでは先端技術の1つであるAI分野などで賃金水準を引き上げていたり、日立や富士通などでも同様の動きを見せています。日本における「ジョブ型制度の浸透」が進められているのかもしれません。
山崎は、今回のニュースをみて驚いたといいます。というのも、これまではインフレになったとしても給与が上がらないことが当たり前だったことから、日本の大手企業がこのような動きを見せたことが意外だったようです。社会背景も踏まえて、今回のユニクロのニュースは日本において大きな話題になりました。
その上で石角は、ユニクロがメンバーシップ型からジョブ型へのシフトを目指しているのではないかと分析しています。ただ給料を上げるだけではなく、その動きの裏に「成果主義かつグローバルな給与水準で経営していく」というメッセージがあるのではないでしょうか。このように、賃金水準を上げることの裏には様々な意味が存在するのかもしれません。
長谷川は今回のニュースを見て、30万円という数字に違和感を感じたといいます。理由は、長谷川が新卒で日本企業に就職した時と比べて、賃金がそこまで変わらなかったからです。30万円に引き上げられただけで、これだけニュースになっている状況に驚いたということでしょう。
また長谷川は、給料が上げられた根拠が何なのかが重要だといいます。アメリカで給料が上がるタイミングといえば、昇進や業績向上のタイミングです。しかし、今回の給与引き上げはインフレが大きく関わっているのではないかと分析しています。そうなると、アメリカにおける賃金上昇とは違う意味での賃金アップということになるでしょう。
石角は、アメリカと日本におけるレイオフへの感覚の違いについて指摘しています。現在、アメリカでは大手テック企業が相次いでレイオフを進めていますが、失業者がそこまで苦労していない印象があるようです。実際にレイオフされた人も、より良い条件の仕事がすぐに見つかったり、給料の高い企業に就職できたりなど、日本に比べてネガティブなイメージが薄いのかもしれません。
それに対して日本人は、レイオフに対して非常にネガティブな印象を持つでしょう。これは、文化の違いが起因しています。しかし、IT業界というのはもともと新陳代謝が激しい業界であることから、そこまでドラマチックに考える必要はないでしょう。雇用に対する考え方も、今回の賃金上昇を機に変化していくかもしれません。
長谷川は、ジョブ型とメンバーシップ型の雇用形態が必ずしも相反するものではないと指摘しています。Appleを例にとると、ティム・クック氏はジョブ型雇用によってAppleにジョインした経緯がありました。しかし、それはすでに40年前の出来事であり、現在もティム・クック氏がAppleに所属しているということは、徐々にメンバーシップ型に移行しているともいえます。
つまり、ジョブ型で雇用された人がメンバーシップ型の組織にフィットしていくというケースもあるのではないでしょうか。もちろん経営陣だからという理由もありますが、このケースからジョブ型とメンバーシップ型をうまく融合させる方法が考えられるかもしれません。
また山崎は、ジョブ型的思考をメンバーシップ型の組織に取り入れることによる弊害について指摘しています。やはり、元々メンバーシップ型が当たり前になっている人にとって、ジョブ型の雇用制度はなかなか受け入れ難い部分もあるでしょう。コーポレートカルチャーとしてメンバーシップ型が当たり前になっていれば、尚更です。
そこで、メンバーシップ型を維持しつつ子会社など別のユニットでジョブ型雇用制度を採用するなど、少し工夫することで解決できるのではないかと指摘しています。結果的にジョブ型雇用がうまくいけば、そのまま良かったところをメンバーシップ型に取り入れることも可能になり、それにより得た資源をリスキリングなどに配分することもできます。いずれにせよ、今後は柔軟性を持った雇用制度の構築が必要となるでしょう。
今週のおすすめコンテンツは、石角の紹介する「2040年「仕事とキャリア」年表」です。
こちらのコンテンツは、新卒一括採用・年功序列・終身雇用・定年退職制度など、日本の「雇用制度」について取り上げた内容となっています。日本はアメリカの「ジョブ型雇用」に切り替えなければならないのかについても取り上げており、今回の内容にも大きく関わっているでしょう。この先20年困らないようにするために必要なことについて書かれていますので、気になった方は、是非読んでみてください。
Level 5 #55の実際の音源はこちらからご視聴いただけます。
AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。
社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)
パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。東急ホテルズ&リゾーツのDXアドバイザーとして中長期DX戦略への助言を行うなど、多くの日本企業に対して最新のDX戦略提案からAI開発まで一貫したAI・DX支援を提供する。2024年より一般社団法人人工知能学会理事及び東京都AI戦略会議 専門家委員メンバーに就任。
AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。
毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『AI時代を生き抜くということ ChatGPTとリスキリング』(日経BP)『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
実践型教育AIプログラム「AIと私」:https://www.aitowatashi.com/
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com
※石角友愛の著書一覧
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