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ヤッホー実践 「神対応」が自然に生まれるカルチャーのつくり方 – 日経クロストレンド連載

2023/05/10 メディア掲載実績, 日経クロストレンド 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

ヤッホー実践 「神対応」が自然に生まれるカルチャーのつくり方 – 日経クロストレンド連載

ポストコロナ時代を迎える今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。AI(人工知能)開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。クラフトビールのヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)社長の井手直行氏との対談後編は、同社が進めている顧客情報一元化と驚きのカスタマーサポート、同社のカルチャーについて議論した。(対談は2023年2月7日)

ファンを生み出す同社のカルチャーをいかにつくりだしているか、AIビジネスデザイナーの石角氏がヤッホーブルーイングの井手社長に聞いた

▼前編はこちら
倒産寸前からネット通販で離陸 ヤッホーブルーイング成功の原点

投稿内容で発信するSNSを選択

石角友愛氏(以下、石角) メルマガやSNS(交流サイト)などのオンラインだけでなく、リアルの場でのファンイベント開催といったオフラインのコミュニケーションも活用してマルチチャネルでマーケティングをされています。どういった戦略で発信しているのですか。

井手直行氏(以下、井手) SNSはその特性に応じて使い分けをしています。例えばTwitterでは、キャンペーンなど話題性があるものを投稿して拡散を狙います。Instagramにはビジュアル的に映えるものを選びます。内容によっては、発信するSNSを限定することもありますね。

石角 特定のSNSにあえて出さないこともあるのですね。

井手 その通りです。自分が興味のない内容を投稿され続けると、消費者の興味関心は低下してしまいます。そうなるとフォローを外されてしまうかもしれません。過去の投稿データを分析して、ある程度の傾向が分かっているので「この内容はこのSNSには合わない」という場合は、外しています。

石角 なるほど、必ずしもすべてのSNSに出せばいいというわけではなく、出さないほうがプラスに働くこともあるのですね。各SNSやネット通販で収集した顧客データは、具体的にどのようにマーケティングに活用しているのですか。

井手 当社では公式通販サイト、楽天市場、Yahoo!ショッピングなどさまざまなサイトで製品を販売しています。またファンの方々向けのイベントも開催しています。以前はそれぞれの媒体で情報が閉じてしまっており、顧客情報をうまくマーケティングに活用できていませんでした。

そこでシステムを構築し、それらの情報をすべてひもづけられるようにしています。ちょうど今、段階的に導入を進めているところです。

ヤッホーブルーイング社長の井手直行氏

顧客情報の一元化でスタッフの神対応が生まれファン化加速

石角 情報の一元管理は、取り組む企業も増えていますね。ただシステムをつくって終わりではなく、それをどう活用するかが大事です。

井手 その通りです。この情報をカスタマーサポートで活用しています。例えば、「商品が届かない」という電話があったとき、応対するスタッフのパソコン画面には、購入履歴や問い合わせ履歴、イベントの参加状況などあらゆる情報が表示されます。

その中で、3カ月前に参加予定だったイベントが天候不良で中止になっていた、という情報があったとします。するとスタッフは対応の最後に「前回はイベントが中止になり申し訳ありませんでした。今度別のイベントを開催するので、詳細が決まりましたらご連絡します。ぜひご参加ください」といった話をするのです。

石角 素晴らしい対応ですね。クレームのつもりで電話した方も、逆にもっとファンになってくれそうです。

井手 ほかにも、2年前に「妊娠したのでしばらくはお酒が飲めなくなります」とコメントを書いてくださった方から久しぶりに注文があった際には、授乳期間が終わったのだと推測し、「以前、妊娠でお酒が飲めなくなるとおっしゃっていましたが、今回の注文で解禁ですか?」とお話ししたところ、「覚えていてくれたんですね!」と喜んでいただきました。

石角 そんな対応をしてもらえたら、その日は幸せな気持ちで過ごせそうですね。社内でマニュアル化しているのですか。

井手 いえ、マニュアルには書いていないですね。電話応対をするスタッフが顧客情報を見て、その場で何を望まれているのかを想像し、対応しています。「自ら考えて行動する」という企業文化のなせる業だと自負しています。

石角 ただシステムをつくって情報を集約する、カスタマージャーニーを可視化するだけでなく、それをカスタマーサポートのスタッフが活用して、顧客体験の最大化につなげているのですね。

文化が根付いた組織づくりに成功し採用倍率100倍の企業へ

石角 企業文化が非常にユニークだと伺っています。井手社長もホームページのプロフィルに「てんちょ」というニックネームが書いてありますね。社内にはどういったカルチャーがあるのでしょうか。

井手 ニックネームで呼び合う、朝礼では無駄話をする、あとは部署名をちょっと変わったものにしています。人事総務部は「ヤッホー盛り上げ隊」、社長室は「よなよな丸操舵(そうだ)室」です。フラットな組織を心がけています。おかげで今は新卒採用も中途採用も、倍率は100倍くらいありますね。

石角 100倍! 本当に狭き門ですね。最近はビジョン・ミッション・バリューを策定する企業が増えていますが、御社はいつごろから組織文化づくりに取り組まれたのですか。

井手 私が社長に就任する2008年の少し前ですね。それまで経営理念がありませんでした。私もあまり必要性を感じていなかったのですが、たまたま読んだ本に「社員が同じ方向を向いて働いていくために、経営理念は必須です」と書いてあったんです。そこで星野リゾートのものを参考に策定しました。

社長になってからはチームづくりを学ぶために外部の研修を受けたのですが、その内容に刺激され、チームビルディングに没頭していきました。その際にも自分たちが大事にしていきたいこと、軸となるものとして、やはり経営理念や組織文化は絶対に必要だと感じましたね。

石角 それが「ガッホー文化(注)」と呼んでいるカルチャーでしょうか。

井手 そうですね、経営理念の中に「ガッホー文化」を掲げ、さらにガッホー文化の要素として「フラット」「究極の顧客志向」「自ら考えて行動する」「切磋琢磨(せっさたくま)」「仕事を楽しむ」「知的な変わり者」「チームではたらく」を設定しています。特に自由に意見が言えるフラットな組織文化の中で、究極の顧客志向を目指すというのが大事にしている部分ですね。

(注)ガッホーは「頑張れヤッホー」の略

「究極の顧客思考」から生まれる感動体験が強みに

石角 顧客志向ではなく、“究極の”顧客志向というのが気になります。

井手 これを掲げたのには2つの背景があります。1つ目は、僕の実体験です。これまでネット通販を運営する中で、たくさんのお叱りや応援をいただいてきました。それに対して時間と労力、コストをかけてコミュニケーションを続けていったことで、顧客のロイヤルティーが上がり、いい口コミを書いてくれたり、継続して購入してくれたりするようになりました。その経験をスタッフに伝えていったことで、自然と究極の顧客志向が文化になっていきました。

2つ目は、米国の靴のネット通販会社「Zappos(ザッポス)」の影響です。ザッポスに関する書籍を読み、カスタマーサービスの素晴らしさに感銘を受けました。「Wow体験(感動体験)」をお届けしたいという気持ちは共通しています。ですがザッポスに比べると、当社にはまだまだやれることがたくさんあった。だからこれからも、感動してもらえるようなことを常に考えていく文化をつくっていきたという思いを込めました。

パロアルトインサイトCEO(最高経営責任者)でAIビジネスデザイナーの石角友愛氏

石角 ザッポスをベンチマークにされていたのですね。先ほど話にあがったカスタマーサポートの電話対応も、まさに究極の顧客志向という組織文化があるからこそ自主的に生まれた行動だと思います。

カスタマーサポートはコストセンターと考えられることが多く、最近は有人対応をやめてAIチャットや自動音声などに切り替える企業もあります。顧客にハッピーになってもらうため、ここまでカスタマーサポートに注力している会社は、日本では非常に珍しいと思います。

井手 私がこれをやって成果を出してきたというのもありますが、ザッポスがやっているのだから間違いはないでしょう。それに他社が諦めている部分だからこそ、強みになると考えています。

今後事業を拡大していく中で、スタッフも増えていくと思いますが、社内には「組織文化が薄まってしまうのではないか」と懸念する声もあります。私はそれを恐れていません。むしろ規模に合わせて進化させていきたい。それにより「5年前より今のほうがいいね」とみんなが言うような組織にしていきたいと考えています。

DXは、必要性を理解しリソースをつぎ込む経営者の覚悟

石角 顧客情報の一元化などのDXや組織文化づくりを進めてこられましたが、今後はどのようなマーケティング施策をお考えですか。

井手 これまでの取り組みでだいぶデータが蓄積していて、お客さまの消費行動も分かってきました。データ分析により当社へのファン度合いでお客さまをセグメント分けしているのですが、今後はそれぞれに合ったアプローチをしていこうと思っています。

石角 「ファン」とひとくくりにせず、セグメントに分けてそれぞれにマッチした訴求をしていくというのは、非常に興味深いですね。

井手 顧客数では大手ビールメーカーにはかないません。ですが当社には熱量の高いファンがたくさんいます。テレビCMなどでマスに向けて一斉に宣伝を打つのではなく、各セグメントのお客さまにハッピーになってもらえるサービスや製品を提供していくつもりです。新型コロナウイルス禍下ではオフラインのイベントは控えていたのですが、規制が大幅に緩和されますので対面で面白いイベントも開催していきたいですね。

石角 ファンマーケティングに力を入れていきたい企業の参考にもなりそうですね。そういった取り組みにもデータをフル活用されていますが、AIなど新しいテクノロジーが次々と登場する中、自社サービスにどう生かせばいいのか分からず悩んでいる経営者もいます。

井手 私はテクノロジーを使いこなせているとはいえません。ですが、テクノロジーを活用していかなければ今後成長してくのは難しい、ということは認識しています。経営者自身がテクノロジーを完璧に使えなくてもよいのです。そこは外部からスペシャリストを採用すれば対応できます。その重要性を理解し、ある程度の経営リソースをそこにつぎ込む覚悟は必要です。そうしなければいずれ行き詰まってしまうのではないでしょうか。

当社がテクノロジーを活用しているのは、お客さまに喜んでもらうためです。手段であって目的ではない。ぜひDXを通して、自分たちがやりたいことを実現していってほしいと思います。

石角 では最後に今後の目標を教えてください。

井手 昔に比べればクラフトビールは飲まれるようにはなりましたが、まだビールのひとつのカテゴリーとして確立されたとはいえません。私たちの目標は、クラフトビールがすべてのコンビニの棚に当たり前に並ぶことです。クラフトビールがいつでも飲めるような社会を実現していきたいですね。

石角 ヤッホーさんの取り組みでクラフトビールの裾野は広がっており、そんな未来がすぐそこに見えてきそうです。井手社長のお話を伺って、結果が出るまでやり続ける覚悟や組織文化を学びました。本日はありがとうございました。

(写真提供/ヤッホーブルーイング、パロアルトインサイト)

https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/18/00509/00034/

パロアルトインサイトについて

AIの活用提案から、ビジネスモデルの構築、AI開発と導入まで一貫した支援を日本企業へ提供する、石角友愛氏(CEO)が2017年に創業したシリコンバレー発のAI企業。

社名 :パロアルトインサイトLLC
設立 :2017年
所在 :米国カリフォルニア州 (シリコンバレー)
メンバー数:17名(2021年9月現在)

パロアルトインサイトHP:www.paloaltoinsight.com
お問い合わせ、ご質問などはこちらまで:info@paloaltoinsight.com

石角友愛
<CEO 石角友愛(いしずみともえ)>

2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。東急ホテルズ&リゾーツ株式会社が擁する3名のDXアドバイザーの一員として中長期DX戦略について助言を行う。

AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。

毎日新聞、日経xTREND、ITmediaなど大手メディアでの連載を持ち、 DXの重要性を伝える毎週配信ポッドキャスト「Level 5」のMCや、NHKラジオ第1「マイあさ!」内「マイ!Biz」コーナーにレギュラー出演中。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。

著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。

※石角友愛の著書一覧

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