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読売新聞オンライン掲載/シリコンバレーから指南役が教える 大企業のDXを阻む「三つの壁」<下>

2021/09/06 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

シリコンバレーから指南役が教える 大企業のDXを阻む「三つの壁」<下>

POINT
■何をすべきかが明確になっても、予算や要員が確保できず、社内の連携がとれないという「イントレプレナーの壁」に陥ってしまう企業が多い。この壁を越えるには、社内の組織の見直しが不可欠だ。

■会社のビジョンとしてDXをどう位置づけるかを経営のトップが社員に伝え、DX推進部と各事業部のオペレーションを近づけることも重要だ。担当する部署や担当役員に丸投げするだけでは、必要なリソースは確保できない。

■日本は確かにDXで後れを取っているが、DX先進国のアメリカではデジタルデバイド(格差)が大きな社会問題になっている。同じ失敗をしないように、各企業が日本流の「誰も取り残されないDX戦略」を考えるべきだ。

パロアルトインサイトCEO(最高経営責任者)  石角友愛
聞き手・構成 調査研究本部 丸山淳一

DXを阻む第3の壁…イントレプレナーの壁

イントレプレナーとは、社内起業家を指します。課題意識が明確で、起業家(アントレプレナー)のように「私はこれをやる」という意識はあるのですが、予算を確保し、他の人も巻き込んでプロジェクトを推進する実行力が欠けていては、DXは進みません。やらなければいけないことはわかったが、いざプロジェクトを始めようとした時に予算がない、エンジニアやデータサイエンティストが社内にいない、技術チームと経営者をつなぐ役目をする人がいない、事業部と連携がとれないというイントレプレナーの壁は、特に大企業では切実な問題です。

これを防ぐポイントは、組織の編成見直しです。先日もある大企業のDX推進責任者と話しましたが、その会社のDX推進部の要員は3、4人で、チームだけでたくさんある事業部との意思疎通は難しかったそうです。そこで何をしたかというと、各事業部にDXの重要性が分かっている担当者を育成し、DX推進部とのパイプ役にしたそうです。各事業部にパイプ役を置くのに半年かかったそうですが、この結果、課題の抽出や予算の確保だけではなく、事業部の側からモメンタム(推進力)を起こしていくことに成功したそうです。

「こういうプロジェクトあるからリソースを割いてください」と事業部に言っても、「ああ、いいですよ」と簡単にはいかないことがほとんどです。DXを本格的に始める前に、社内のリソースは半年から1年をかけて準備することが成功の秘訣です。

マイクロソフトが断行したDX組織改革

経営方針を説明するマイクロソフトのサティア・ナデラCEO(2019年撮影)

米マイクロソフトといえば世界を代表するIT(情報技術)企業ですが、2014年にCEOに就任したサティア・ナデラ氏が「AI(人工知能)ファースト」を宣言して、DXに本腰を入れました。七つに分かれていた事業部の再編を繰り返し、19年には四つのエンジニアリンググループに統合しました。そのうちのひとつ、CSEO(Core Services Engineering Operations)は社内のDXを推進するため事業部の垣根を越えた超巨大チームで、20年時点で5500人もの従業員が所属しているそうです。IT企業のマイクロソフトでさえ、抜本的な組織再編と多くのリソースを割いてDXを進化させているのです。

DXを経営陣、特に社長マターにして、会社のビジョンとしてDXをどう位置づけるかを社員全員に伝えてもらえれば、DX推進部と各事業部のオペレーションを近づけることができます。イントレプレナーの壁を越えるには、組織の体制を抜本的に見直す勇気と、経営者のフルコミットメントの2点が非常に重要だと思います。

経営陣が旗振り役になったモデルナ

新型コロナワクチンの開発・製造ですっかり有名になった米モデルナは、DXに成功した会社としても知られています。CEOのステファン・バンセル氏がかつての職場の同僚だったマルセロ・ダミアニ氏を雇い、その人にチーフデジタルオフィサー(Chief Digital Officer=CDO)とチーフオペレーショナルエクセレントオフィサー(Chief Operational Excellence Officer)を兼務させました。デジタル化とアナログの作業工程見直しをともに推進すると、相反することも出てくるのですが、その最高権限をひとりに集約したのは、DXを成功させるにはオペレーションの見直しが不可欠だからです。アナログのプロセスが穴だらけだと、穴だらけのデジタルプロセスしかできないし、穴だらけのデジタルプロセスからは穴だらけのデータしか集まりません。デジタル化と作業工程の見直しはコインの裏と表で、表裏一体で進めていかなければいけないわけです。

しかし、DXの最高権限をCDOに丸投げすればいい、というわけではありません。モデルナはそれでうまくいったケースですが、CDOを置くだけでは事業部ごとに動くリソースがいないという課題は解決できないからです。経営トップのコミットメントは大切ですが、横串をさしてDXを進めるには、逆にトップダウンの組織を見直すことが必要になるケースもあります。

ここまで、大企業が陥りやすいDX「三つの壁」について、順にお話ししてきました。ひとつの壁を越えても、第2、第3の壁がやってくるのです。改めて図で整理しておきます。DXを進める参考にしてください。

日本は後れを逆手にとれ

アメリカでは企業のAI導入率が50%に達したといわれますが、情報処理推進機構(IPA)の2020年AI白書によると、すでにAI導入を行っている日本企業はまだ全体の4.2%に過ぎません。日本企業がデジタル化で世界から大きく後れを取っているのは事実です。しかし、遅れているからこそ、賢く戦略的にDXを進めることができるアドバンテージはあるはずです。

トップダウンでデジタルの専門家や優秀なエンジニアが有益最高のユーザーエクスペリエンス(UX)(注1)を実現したから、これを今日から使ってくれ、使えない人は使えないあなたが悪いのだ、というやり方でデジタル化を進めたアメリカは、一方で取り残された人々に対しては何もしてきませんでした。農村部ではブロードバンドアクセスもできず、スマホを持っていない人たちも少なくありません。

デジタル化が進んだ一方で、アメリカではデジタルデバイド(格差)が社会問題になっています。デジタルデバイドがITリテラシー(注2)のデバイドにもつながり、新型コロナのワクチン接種では、デマを信じないリテラシーがある人と、デマを信じて接種を拒む人との間で「分断」が生まれています。コロナ禍が、デジタルデバイドから生じた分断を如実にしてしまったのです。

日本は同じ失敗をしないように、社会全体だけでなく、各企業の単位でも「誰も取り残されないDX戦略」を考えていくべきです。例えば「FAXはあしたから禁止、全部デジタル化します」というのではなく、理由があってFAXを使いたい人や、FAXしかできない人に寄り添う形でDXをデザインする。それって日本的でいいな、と思うんです。DXを人に優しい形で進めていけるかどうかは、国のリーダーや政府だけが考える問題ではありません。企業など組織のリーダー、事業部のリーダーも、国と同じスタンスで考えるべきだと思います。

9月1日のデジタル庁発足にあわせて記念撮影する平井デジタル相(右)と石倉洋子デジタル監

9月1日に発足したデジタル庁には、「DXのためのDX」にならないように、FOMOの壁を乗り越えてほしいと思います。それには、何のためのDXなのか、どんな問題をデジタル化で解決するかを明確にすることが大事です。その共通目的のもとに各省庁が連携体制をとらないと、予算を使ってシステム統合をしたのはいいけれど、国民の生活の質は変わらない、という本末転倒なことになりかねません。

(注1)ユーザーエクスペリエンス(UX、Use Experience) 顧客やユーザーが製品やサービスを通して得られる体験や経験のこと。有益最高かどうかの評価は本来、ユーザー側が決めるべきもの。
(注2)ITリテラシー(Information Technology Literacy) デジタル通信やネットワーク・セキュリティーなどの情報技術(IT)を使いこなす能力のこと。

シリコンバレーから指南役が教える 大企業のDXを阻む「三つの壁」<上>は こちら
シリコンバレーから指南役が教える 大企業のDXを阻む「三つの壁」<中>は こちら

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