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日経クロストレンド ダイバージェンス時代のDX戦略 第3回/「ホワイトカラーの仕事は激減する」冨山和彦×石角友愛対談

2021/09/28 メディア掲載実績 
by PALO ALTO INSIGHT, LLC. STAFF 

「ホワイトカラーの仕事は激減する」冨山和彦×石角友愛対談

ポストコロナを迎える今、各業界をリードするイノベーターたちはDX(デジタルトランスフォーメーション)をどう考えているのか。人工知能(AI)開発と実装を現場で見ているAIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する。今回は、経営共創基盤 IGPIグループ会長の冨山和彦氏を迎え、リーダーとして今のダイバージェンス時代を乗り切るDX戦略などについて議論した。

石角友愛氏(以下、石角) 冨山さんのご専門のDXやCX(コーポレートトランスフォーメーション)の話をする前に、お伺いしたいと思っていたことがあります。冨山さんの著書を読みまして、冨山さんがスタンフォード大学のMBA(経営学修士)留学中であった1990年代は日本がナンバー1の時代だったとのこと。そのような、日本のバブル時代の留学は、どのような感じだったのでしょうか?

経営共創基盤IGPIグループ会長の冨山和彦氏。オムロンや東京電力ホールディングスの社外取締役も務めた

冨山和彦氏(以下、冨山) とにかく日本車にすごいステータスがありました。ホンダのアコードとBMWのブランドイメージが同じぐらいでした。

石角 アコードがBMWと同格だなんて、すごいですね!

冨山 ホンダのインテグラがすごく売れていた時期でしたね。中古車の値段が年々上がるので、2年間車に乗って売却しても、かえってもうかってしまうような時代でした。スタンフォード大学の近くにユナイテッドモーターズ(NUMMI、New United Motos Manufacturing, Inc.)というGMとトヨタ自動車が合弁で設立した会社の工場があったのですが、そこではトヨタの生産システムを導入していたようです。

石角 今はテスラの工場になっているところですよね。

冨山 そうです。当時はトヨタが米ゼネラル・モーターズ(GM)に生産システムを教えていたような時代でした。「貿易摩擦がすごいから、方法を教えてあげましょう」といった感じでした。実際、時価総額ランキングの上位はみな日本企業でしたね。また、ヨセミテ国立公園のコンセッション(公共施設等運営権)を松下電器産業(現・パナソニック)が持っていたり、ゴルフコースが有名なカリフォルニア州のペブルビーチは住友グループが持っていたりと、今では信じられないような時代でした。日本のGDPが米国に対して3対2まで迫っていましたから、今の中国とよく似ています。「10年もしないうちにきっと米国を抜くだろう」みたいなことさえいわれていたので、当時の米国にとって、経済的な仮想敵国は日本という感じになっていたのです。

石角 でしたら、冨山さんもスタンフォードでは、もてはやされていたり、教授から意見を求められたりしていたのではないでしょうか?

冨山 そうですね。「日本ではどうしているんだ」と聞かれることはたくさんありました。ただ、僕はもともと懐疑的な人間だったので、「こんなことはいつまでも続くわけがない」と思っていました。なぜなら、日本はインプルーブイノベーション(改良的イノベーション) は得意でしたが、ディスラプティブイノベーション(破壊的イノベーション。製品、サービス、プロセス、テクノロジーに予期せぬ創造的な変化をもたらすことにより、新たな市場を生み出す、あるいは既存のマーケットを根本から変えてしまうイノベーションのこと)には当時から遅れをとっていたからです。

例えば、当時の米アップル対米インテルといったディスラプター同士の戦いの中には、日本企業の姿はありませんでした。それを後追いして、得意のオペレーショナルエクセレンス(競合に優位性を持つレベルになるまで業務遂行能力を磨き上げること)で追い抜けるはずだ、と言っている人が日本の経営者の中には結構いましたが、僕はそう単純ではないと思っていました。

石角 そうだったのですね。

冨山 当時の日本の経営者の頭の中は堕落していて、将来投資は借金をして行えばいいと思ってる人がほとんどでした。しかし、イノベーション投資というのは、本来リスクが高く、長期的なものです。返せるか分からないので、借金でやってはいけません。例えば、松下幸之助をはじめとする大経営者たちは、必死になって利益を上げて、その利益を将来投資に回していました。知名度のない企業には、銀行がお金を貸してくれなかったからです。そういった資本主義の原点を当時の経済人は忘れていました。「お金はいくらでも銀行が貸してくれる。利益なんかいい。赤字になってもいいからバンバン借りて投資すればいい」と思っていました。根本的なリテラシーの問題ですね

石角 冨山さんが『両利きの経営』(東洋経済新報社)の解説でも書いていらっしゃいましたが、イノベーションを起こしつつも収益性を維持するというように、両方を同時にできる経営者が理想ということでしょうか?

冨山 これは事業ポートフォリオマネジメントの基本なんです。それができないと経営の持続性がなくなります。

世の中にあるものを安く利用する

石角 私自身もAI開発やDXなどで地方の中小企業のクライアントと日ごろから関わっています。しかし、イノベーションを起こしながら収益性を維持するという“両利き経営”というのは非常に難しいと感じています。この背景には、お金がない、人がいないというリソースの問題があると思います。こうした中小企業に対して、冨山さんならどのようにアドバイスされますか?

冨山 経営者の器や目利きがとても重要です。例えば、大学と「産学連携で何か開発をしましょう」となったときに、目的とする開発成果を得るためにはどのぐらいの能力を持った人材や設備が必要で、それを用意するにはどの程度の資金を要するのかということを判断する必要があるからです。そこが判断できないと、期待値と予算感がかけ離れてしまいます。

石角 優秀な人材をどう使えばいいかという目利き力と、その協業の仕方や予算感を経営者が知っている必要があるということですね。

冨山 ちょっと話の次元を変えてみましょう。今の議論というのは、その企業が自前で開発する場合の話。例えばAI導入を考えるときに、自前で優秀な人材を使っていくという話です。ただ、それはやめたほうがいい。ものすごくコストパフォーマンスが悪いと思います。例えば、IGPIグループが経営するバス会社では、世界トップレベルのダイナミックルーティングのシステムを使っています。自動運転の「レベル4」で、ほぼ商用直前ですが、僕らは何も自社開発していない。頭のいい人が世界中でそういうサービスを必死になってクラウド上で提供しようとしていますから、それを使っているだけです。つまり、ユーザーになればいいんですよ。

石角 まさしく、冨山さんがよくおっしゃっている“アーキテクチャー思考”につながるかと思います。先ほどの話のように、オープンソースで良いモデルが次々に生まれている中、これからのAI業界では、そのモデル自体の良さや精度で勝負するのではなくて、それらをどう組み合わせてアーキテクチャーを考えていくのかというところが今後の付加価値になると考えています。

写真/Shutterstock

冨山 おっしゃる通りです。世の中にあるものを安く、うまく手に入れて使おうというだけの話。こんなことは世界では当たり前の話なのです。

石角 そうですよね。

冨山 最近の本にも書きましたが、「イノベーション」という言葉には罠がある。日本の企業は、イノベーションと言うと、「自前で開発しなければならない」と考えがちなのです。

石角 日本の企業は、自前志向が根強いですからね。

冨山 ある種のシンドロームですね。今あるものを活用して、掛け算すればいいんですよ。それが新結合、すなわちイノベーションの神髄です。できるだけリーズナブルなものを使ってみればいいんです。AI人材を大量に採用するといっている企業もありますが、そこまでの必要はないと思います。

石角 つまり、マシンラーニングエンジニアやデータサイエンティストを何十人も雇う必要はないということですか?

冨山 ビジネスモデルによりますが、ほとんどの場合は必要ないです。使いこなせる人が1人いればいい。例えば、松尾豊先生のような人材が1人いればいいんです。

石角 なるほど。いろいろなネットワークを持っていて、紹介してくれるような人でしょうか?

冨山 まさに見立てるのが仕事の人たちですね。もちろん、日本人でなくてもいいでしょう。それもフルタイムで雇う必要はなく、アドバイザーで構わないと思います。

中間管理職層を半分入れ替えるべき

冨山 多くの企業が実際にそうしたことをやらないのは、イノベーションを本気で考えていないからだと思ってしまいます。

石角 本気になれない理由といえば、冨山さんも著書で書かれていましたよね。日本企業は、戦後の高度経済成長の名残で、これまでデジタル化に取り組まず、オペレーショナルエクセレンスによって競争優位性を作ってきたと。結局それが日本企業のモデルとしてずっと続いてきているから、「変えなければならない」というきっかけがなかったのでしょうか。

冨山 きっかけは何度もあったのですが……。変えることの大変さを、本能的に分かっていたから変わらなかったのでしょうね。

例えば、日立は破綻しかかったことで、デジタル化・グローバルモデルに舵(かじ)を切っていくということを、経営陣が腹をくくって始めました。経営陣のほとんどの人たちは、オールドゲームの中で出世してきた人たちばかりなので、こういったイノベーションを起こそうとしたときには、実は彼らが一番ストレスを被るんですよ。「これまで野球をしていましたが、明日からはサッカーに変えます」と急に言われたとしても、経営陣にはサッカーの経験がないので指揮できなくなるわけです。一方で、最前線で働く現場の若い人たちは、意外とすぐ適応できる。要するに、これは日本企業の構造欠陥の問題なんです。中間管理職層が野球しか指揮できないとなると、その半分ぐらいはサッカー経験者に入れ替えなればならないですから。

石角 確かに、そうですね。

冨山 とはいえ、日本の企業はいまだに終身雇用制度が基本ですから、それを半数入れ替えるということはタブーになってしまうんですよ。

石角 どうすればよいのですか?

冨山 転身を促進すればいいんです。例えば、「すいません。僕たちはこれから野球はやりません。ですから皆さんはこの企業にずっといても未来はありませんよ」と会社が言えばいいのです。

写真/Shutterstock

石角 それに似た話を最近聞きました。ある大手企業がDXを推進する中で、子会社の人たちにどうしても異動してもらう必要があって、その人たちのキャリアパスを表面的ではあるけれども用意して異動させたそうです。そうでもしないと、入れ替えは進まないですよね。

冨山 そうしないと残された本人も不幸になります。「我がチームはこれからサッカーをやります」となったのに“雇用を大事にしている”という大義名分のもと、そもそもサッカーに向いてない人を飼い殺しにするわけですから。

石角 でも、最近では、例えば大手のメガバンクで50歳くらいまで働いてきた方で、「銀行業界自体が、今後デジタル化の波にさらされることになるとやっと気づいたので、独自でPythonを勉強してデジタル人材として第二のキャリアを歩みたい」というような応募はすごく増えているようですよ。

冨山 それは銀行員がもともと優秀だから。でも実際にそんな人は銀行員の中に10人に1人もいないのでは?

石角 やはり、50年間ずっと同じ企業でキャリアを積まれたような方が急に転身というのは難しいのでしょうか。

冨山 そういう人たちも、仕事はいくらでもあります。皆さん頭の中で「ホワイトカラーはホワイトカラーしかできない」と思い込んでいるだけ。エッセンシャルワーカーの仕事なんていっぱいありますよ。

石角 確かに。

冨山 これから、ホワイトカラーの仕事は激減します。日本の組織モデルというのは大量の中間メンバーシップ型の、中間管理職を必要とするモデルでした。これはかつてのGMもそうです。いわゆる「組み立て型の大量生産、大量販売ビジネスモデル」というのは、どうしてもピラミッド型の組織になるため、相当規模の厚みがある中間管理職を必要とするモデルだったのです。

しかし、今はこういったビジネスモデルではもうからないし、衰退している。結局、仕事というのはピラミッド型からフラットなレイヤー構造になっていくので、いわゆるナレッジワーカーのプロフェッショナルなレイヤーで働いているプログラマーのような人たちは、ある意味、個人で動いているようなもの。そういった人たちの仕事内容というのは、もともと流動性が高く、終身雇用やメンバーシップが向いていないものばかりです。一方で、バスの運転手や物流関連は、いわゆる現場のエッセンシャルワーカーがほとんどのオペレーショナルな仕事です。

石角 そうですね。米国で話題になった『2030』(早川書房)の著者であるペンシルベニア大学ウォートン・スクールのマウロ F.ギレン教授も、ミドルレイヤーやミドルマネジメント層の給料は高いと言っています。例えば整備士や、工場の管理長といった方々です。そこの部分は経営者の視点で見ても、機械やAIで置き換えたほうが長期的にリターンが出やすいと考えているようです。

冨山 一方で、エッセンシャルワーカーはどの国も非常に人手不足。そこで働けばいいと思います。この点に関しては、僕はデービッド・アトキンソン氏と同じ意見を持っていて、むしろエッセンシャルワーカーを中産階級雇用にすることを考えなければだめだと考えています。大企業の中間層というのはもうなくなるわけですから、割り切ったほうがいいです。

石角 なかなかショックなお話ですね。

※後編に続きます。

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